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創造性は「天才の才能」とかじゃなくて、 自分で自分を邪魔しないことが大事なんじゃない?みたいな研究の話

 

「創造力のスイッチが入る」みたいな表現がありますな。脳のどこかに「創造力を切り替えるためのセンター」みたいなものがあって、そこに電源が入るとアイデアが湧いてくるようなイメージっすね。「創造の神がおりてくる」みたいな言い回しも、発想としては似たようなもんです。

 

では、実際のところ、脳の中にそんなスイッチがあるのかってことで、近ごろ面白い研究(R)が出ておりました。こいつはプロミュージシャンの脳を調べた研究で、「脳のなかに創造性のスイッチみたいなものってあるの?」って問題を調べてくれたんですよ。創造性の正体ってのはまだ未知なところが多いんで、こういう研究は興味深いですな。

 

で、これがどういう実験だったかというと、研究チームは、プロのジャズミュージシャン16名をfMRIにかけながら、4つの異なる状態で演奏してもらったんだそうな。

 

  1. 楽譜を見ながら演奏する

  2. 覚えた楽曲を再現する

  3. コード進行を頼りに即興で演奏する

  4. メロディを下敷きにして即興する

 

この時に研究者が注目したのは、「即興しているときの脳はどうなっているのか?」ってところです。当然ながら、「何もしていない」ときよりも、「完全に即興で演奏する」ほうがクリエイティビティが必要なわけですから、両者の脳を比べることにより「創造性が働いている時の脳ってどうなってるの?」ってのをチェックすることができるわけです。

 

でもって、その結論がどうだったかと言いますと、MIDIデータを解析したところ、自由度が上がるほど、


  • 弾く音数が増える
  • メロディのエントロピー(乱雑さ)が上がる
  • 次の音の予測しにくさが上がる


という、まぁ順当な結果が出ております。これは当然でしょうな。


で、脳のほうはどうだったかと言いますと、以下のような状態になっていたんだそうな。

 

  • 報酬モード:「気持ちよさ」が出現してる状態。まぁ音楽は報酬系を活性化するのでこれは予想通り……なんですが、いちばん高かったのは暗譜演奏だったのが面白いとこです。

  • 即興モード:耳と手が直結している状態、みたいなイメージっすね。

  • DMN+実行制御+言語ネットワーク:「ぼーっとしてる時のネットワーク」「司令塔」「意味づけ」という、いかにも創造性が上がりそうな状態。なんでも、これがいちばん自由な即興のときに、安静時よりも少なかったらしい。


まぁfMRIの結果をもとに「脳がこんな風に働いている!」って言い切るのは割と危険ではありますが、このデータを見る限りは、「創造性を発揮したい時は、前頭前野による認知的制御をむしろ下げる必要があるんじゃないか?」ってのは言えるでしょうね。簡単に言えば、


  • アイデアって「ひねり出す」ものじゃなくて、「邪魔をやめたら出てくる」ものなんじゃない?

 

みたいな話です。創造性というと「DMNからアイデアが湧いて……」という説明をよく見ますし、実際そういう研究もありますが、この実験では、いちばん自由に弾いているときにこそ、その回路の出番が減ってたみたいなので。これは、「創造性のスイッチが入る」というより、創造性を邪魔するブレーキが緩むってイメージのほうが近いかもしれません。そして、ブレーキが緩んだぶん、耳と手がより自由に働くようになるんじゃないか、と。


ということで、ここから言えるのは、


  • 創造性には、「考えるのをやめる能力」が関わってるんじゃないか?


みたいなことじゃないでしょうか。創造性というと「天才のひらめき」とか「天から降ってくるもの」みたいなイメージもありますけども、実際にはコントロールを手放しても演奏が崩れないだけの土台が、身体にできているかどうかが関係しているんじゃないかってことですね。


そう考えると、この文献をもとに私たちが創造性をアップさせる方法としては、以下のようなものが推測できるんじゃないでしょうか。

 

  1. 手が勝手に動くところまで、「基本の型」を何度も繰り返す:これによって、深く考えなくても自動的に体が動くような状態を増やす。ブレーキを緩めても崩れない土台づくりになる。

  2. 作っている最中は、評価と判断をいったん手放す:「これでいいのか?」とか「前に作ったやつより良くなってる?」とか考えながら作品を作らない。

  3. 「作る時間」と「直す時間」を物理的に分ける:いったん何も考えずに作ったら、後から修正する時間を作ってみる。こっちのほうが脳の使い方としてはムリがないんで。

 

といった感じで、「アクセルとブレーキを同時に踏まない」必要があるってことなんでしょうな。


まあ、そう言われてもなかなか実践は難しいもんですが、「集中してスキルを練習しまくる時間」と「その成果を信じて何も考えずに手を動かす時間」は、分けて考えたほうがいいんでしょうな。個人的には、「創造性は天から降ってくるものではなく、仕込みを済ませたうえで自分の邪魔をやめる技術である」ってのは、なかなか救いのある話じゃないかなーと思うわけです。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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