難しい目標を達成したいなら「機能的イメトレ」でGo!みたいな実験の話
イメトレで運動がはかどる!という話は、わりと広く認識されてきた事実かと思います。具体的には、
みたいな報告がありまして、脳でなんらかの想像をくり広げただけでも、身体のパフォーマンスはそこそこ上がるみたいなんですよ。
でもって、新しいデータ(R)も脳によるイメージの力を調べてくれてて、結論から言いますと、
- イメージの力で運動のモチベーションが激しく上がる!
みたいになります。メンタルイメージの研究は何十年も前から存在しますけど、今回の調査は「イメージで"ウルトラマラソン"のやる気は上がるか?」ってとこをチェックしてまして、類似研究よりもだいぶ目標がハードですね。
これはプリマス大学などの研究で、「もっと健康になりたい!」と感じている男女31人を集め、まずはみんなに「動機づけ面接(MI)」をしてもらったらしい。
MIってのはカウンセリングでよく使われる方法で、依存症の治療に効果が高いと言われてて、あるメタ分析のサブ解析では、MIを行なったグループは、簡単なアドバイスを受けたグループと比べて、半年後の禁煙率が 3.49(1.53 〜 7.94)倍になると報告されてたりします。すごい数値っすねー。
その詳しい手法については「動機づけ面接〈第3版〉」などを参照していただければと思いますが、すごーくざっくり説明すると、
- 一般的なアドバイス:「このままタバコを吸ってたら癌になりますよ」みたいに、こちら側の知識をもとに相手を説得しようとする
- 動機づけ面接的なアドバイス:「タバコを止めたいと思う理由はなんですか?」「禁煙に成功した時に起きる良いことを3つあげると?」「禁煙のためにまずできることはなんですか?」といった質問をぶつけて、本人なりに考えてもらう
といった違いになります(動機づけ面接の手法は他にもあるんで、あくまで代表的な技法のみですが)。お気づきのとおり「ソクラテス式問答法」に近い会話法で、うまく使えば確かに効果は高そうに思うわけです。
で、この研究では、その後でウルトラマラソン(50km以上)への参加を検討するかどうかを尋ね、さらに全員を2つのグループに分けてます。
- 再び2回目の動機づけ面接を行い、ウルトラマラソンへのモチベを高めてもらう
- 機能的イメージ・トレーニング(FI)と呼ばれる手法で、ウルトラマラソンへのモチベを高めてもらう
FIってのは上記で見たイメトレの一種で、「目標を感覚的に詳しくイメージする」というものです。例えば、ウルトラマラソンで使うときは、
- スタート前のドキドキしている自分
- レース中盤で思わぬ足の痛みが出てきてとまどう自分
- 後半で息も絶え絶えになりつつフィニッシュに向かう自分
って感じで、レースを実際に走っている様子や、レース中にトラブルが起きたところをくわしく想像していくわけですね。「心理対比」の考え方にもちょっと近いところがありますね。
で、結果がどうだったのかと言いますと、
- 動機づけ面接だけを受けた8人のうち、レースに参加したのは4人、完走したのは2人だった
- 機能的イメトレを受けた7人のうち、7人全員がレースに参加し、6人が完走した
だったそうです。動機づけ面接もそこそこ悪くない結果ではあるものの、機能的イメトレの結果が段違いですごいっすね。
当然ながら、たった15人で行われた実験なので注意は必要なんだけど、それでもかなり明確な結果が出てるので、フォローアップに期待したいところです。ちなみに、機能的イメトレは、近年ではダイエットにも利用されてました、この手法を利用した人は利用しなかった人に比べて5倍も体重が減ったなんて報告もあったりします。
また、上にも書いたとおり、機能的イメトレの考え方は「心理対比」に近いものでして、個人的にも効果は得られやすいんじゃないかと思う次第です。心理対比は昔から一貫して高い効果が確認されてきた技法ですからねぇ。
ってことで、運動やダイエットに限らず、なんらかのゴールを目指していらっしゃる方は、「そのゴールまでのプロセスを、障害もふくめてクリアに思い描いてみる」ってイメトレを取り入れてみるといいかもしれません。