【速読】目を動かすスピードを上げたら読書スピードは倍になるんですか?
こんなご質問をいただきました。
速読について質問です。以前に、周辺視野を鍛えても速読はできないと書かれていましたが、他のポイントはどうなのでしょうか? たとえば、眼球を動かすスピードを早くして単語を取り込むスピードを上げるようなやり方にも意味はないのでしょうか?
ということで、ここで質問者さんが仰っているのは「周辺視野を鍛えても読書スピードは上がらない 」でまとめたお話ですね。簡単におさらいすると、
- 深い理解を保ったまま読書のスピードが上がるという科学的な根拠はない
- 結局、速読のトレーニングとはただの読み飛ばしのスキルである
みたいな感じです。個人的にも「速読=読み飛ばしスキル」って見解に同意していて、「速く読めば理解度が下がるし、理解度を上げようと思ったら読む速度を遅くするしかないんだよなぁ……」って感じですね。
で、おっしゃるとおり、速読法のなかには「目をスピーディに動かそう!」ってものが多く、目の筋肉を鍛えるトレーニングブックみたいなものもたくさん売ってますな。確かに、目を速く動かすことができれば、読書のスピードは上がりそうですもんね。
が、この問題について結論から申し上げますと、
- まー、無理っすよねー
って感じになります。人間の情報処理にはいろんな制約があるんで、いくら眼球を速く動かしてもあんま意味がないんですよ。
この点に関しては、アイトラッキングの第一人者であるキース・レイナー先生がポイントをまとめてくれていて良い感じです(R)。これによりますと、私たちが読書をする際は、以下のステップをふむことになります。
- 第一に、私たちが読書をするときは、目がテキストの一部で止まらなければならない。これを「固視」という。
- 次に、眼球を次の定点まで素早く動かす必要がある。これをサッケードという。
- 最後に、眼球がジャンプした後で、脳はすべての情報をすべて組み立てて理解しなければならない。
ということで、テキストから情報を取り込む際は、眼球を固定し、動かし、それから視覚情報を処理するってプロセスがありまして、このスピードをアップするのは不可能なんですよねぇ。
というと、一部の速読家は、「1回の固視で複数の行を処理すればいいのだ!」と言ったりするんですが、これも2つの理由からまず不可能なんですよ。具体的には、
- 細部を正しく認識できる目の領域は非常に小さく、読書距離で直径2.5センチほどしかない。
- 私たちの目はレンズの性能が低いため、1回の固視で多くの情報を処理するのは限界がある。
って感じでして、これは生物としての限界なので、どうにもできないんすよね。
また、目の性能よりも大きいのが、脳の情報処理の限界であります。人間の脳ってのは、一度に3〜5個程度の情報の「かたまり」しか保持できないので(R)、もし複数の行を同時に見ることができたとしても、脳内からガンガンに情報がこぼれ落ちていっちゃうんですよね。こちらも生物としての限界でして、ワーキングメモリをブーストさせる技術でも生まれない限りは、どうにもならないポイントであります。
また、レイナー先生によると、大学教育を受けた平均的な読者は1分間に200〜400語ぐらいの読書スピードだとのこと(英語換算)。そのため、先生は、「がんばっても1分間に500語を超えることは不可能でしょ!」と主張しておられます。
まぁ、慶応大学などの研究(R)では、「速読の専門家は1分間に600語のレベルで読んでいるよー」って報告が出てまして、一般的な読者の2倍のスピードで読む人もいるらしいんですけど、ここには問題がありまして、
- 速読のテクニックで速く読めているという証拠はない(単純に注意力のコントロールの問題であると思われる)
- 速読がうまい人たちは、確かに一般の読者よりも速く読めるものの、テキストの理解度は低い傾向がある
って報告も非常に多いんですよ。こうして見ると、やっぱいくら目をスピーディに動かしたところで、読書の役にはあんま立たないって結論になるでしょうね。
もしかしたら、すでによく知っている情報をうまく読み飛ばすためなら役に立つ可能性があるんですが、個人的には目のトレーニングはおすすめしないですね。