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【質問】嫌いな人間に復讐をする方法はないですか?


 

こんなご質問をいただきました。

 

20代男です。会社にすごく嫌な同僚がおり、私になにかと嫌がらせをしてきます。自分への陰口やからかいなどです。そんな同僚への最高の復讐は何だと思いますか?どうしたら相手は悔しがるのでしょうか? 鈴木さんは「復讐なんてやめとけ」とか言いそうですけど気になりました。

 

というわけで、嫌なやつに復讐することはできないのか、と。悪意を向けられれば誰でも対抗したくなるもんですから、気になる人もいるのかもしれません。

 

で、結論から言ってしまえば、予想のとおり「復讐なんてやめとけ」って感じになります。というのも、これまでの研究を見ていると、どう考えても復讐っていまいちメリットがないもんですから。

 

復讐については昔から複数の研究が行われていて、主だったものをピックアップすると、こんな感じになります。

 

 

  • ウィスコンシン大学のロバート・エンライト先生の研究(R)では、心理的な被害を受けた被験者を集め、復讐のモチベーションが高い人と、許しのモチベーションが高い人を比較。すると、どちらも脳のコルチゾールレベル(ストレスホルモン)は同じぐらい高かった画、復讐心が強い人は抑うつ症状が大きかったのに対し、許しは抑うつと相関せず、逆に抑うつを統計的に有意に減少させる効果が見られた。

 

 

  • アデレード大学などの研究(R)では、381人を対象に「復讐」と「許し」の心理的な効果を調べたところ、

    1)復讐も赦しも、どちらも不当に扱われた人に活力を与える。
    2)しかし、復讐の活力アップ効果はまちまちなのに対し、許しのほうは一貫して被験者をエンパワーメントさせる働きがある。

    って結果だった。そのため、トータルでは「許し」のほうがメリットは大きい。

 

 

  • ピッツバーグ大学などの研究(R)では、参加者のうち半分に「同僚から嫌なことをされた」ところを想像させ、そのうえで相手を許すか、同僚に復讐するかを選択させた。

    その結果、同僚への復讐を選択した参加者は、「非人間化状態」(自分のことを、「私は劣った存在で、表面的で冷淡な人間だと考える状態)におちいり続けた。一方で、同僚を許すことを想像した参加者は、自分を人間らしいと感じ続けた。

    研究チームは、「相手を許した人は、自分が道徳的な価値観に沿って行動したと感じ、それによって人間性を取り戻したと感じることができたのだろう」とコメントしている。

 

 

  • 広東白雲大学などの研究(R)でも、「復讐」と「許し」の効果を比べたところ、短期的にはどちらも怒りの感情を減少させた。しかし、長期的に怒りを減少させる効果があったのは「許し」だけだった。それと同時に、「許し」の気持ちがない人ほど心理的な苦痛に長く苦しむという結果が報告されている。

 

 

  • セント・アンドリュース大学などの研究(R)では、30人の被験者に、「パートナーの浮気」「職場の同僚に濡れ衣を着せられた」「友人に嘘をつかれた」などの場面をイメージさせ、その後で、相手を許す場合と、相手に復讐する場合の2パターンを想像させたたところ、相手を許したほうが、許さないときよりも、他人の裏切りを忘れるスピードが速かった。これについて研究チームは、「許しによって嫌なことを思い出す回数が下がり、そのおかげでより嫌なことを忘れられるのかもしれない」とコメントしている。

 

 

ってことで、全体的に見れば「許し」の気持ちに目を向けた方が長期的なメリットが多いってデータはかなり多めっすね。これらの研究も氷山の一角でして、どう考えても復讐ってメンタルに悪いんですよ。

 

まぁ、そう言われても、他人からひどい扱いを受けた人が、「なんであっちが悪いのに許さなきゃいかんのだ!」って気持ちになるのも当然のことでしょう。上のデータでも「復讐心は短期的に活力を上げる」ってデータがあるんで、やっぱり復讐のほうに目が行っちゃいますもんね。

 

ただ、ネットの誹謗中傷などで開示請求を起こした事例などを見てると、いざ加害者の相手と対面したところで、ほとんどは「自分は悪くない」と思ってるし、たいていは「自分はこんな辛い日常を送ってるんです」と泣きついてくるしで、被害者側がスッキリするような結末に落ち着くことってほぼないんですよね。ここらへん、被害者にはめっちゃしんどいとこです。

 

とはいえ、一方でほとんどの人は、いったん「許し」を選んでみみると、強力なネガティブ感情が消え去り、意外なほど自由になった気分が発生するケースのほうが大きかったりします。なので、復讐心にとらわれた時でも、「許し」の可能性について考えてみる価値はあるでしょう。

 

ちなみに、ここで挙げたデータは、「なんでもかんでも許せ!加害者のやりたい放題にさせろ!」って意味ではないのでご注意ください。加害者を免責するわけではなく、あくまで相手の悪意にとらわれない自由を取り戻すのが大事って話であります。

 

この点で加害者の側に自分の感情と要求を伝える行為は必須でして、そのあたりの正しい手法としてはローゼンバーグ先生の「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」あたりが参考になるんじゃんないでしょうか。どうぞよしなに。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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