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本当に健康になりたければ「健康」を自分のアイデンティティにせよ! という研究の話


 わたくし、拙著「ヤバい集中力」のなかで、作業のモチベーションを高める方法として、こんなことを書いております。

 

一例として、次のようなシーンについて考えてみましょう。

「あなたは仕事に必要な本を読み込んでいましたが、内容が難しいせいで、少しでも気を抜くと集中力が切れそうになってしまいます。しかし、そのたびにあなたは『がんばって読み続けないと!』と何度も気合を入れ直し、なんとか最後まで本を読みとおすことができました」

 

もちろん、これは素晴らしい成果です。第4章でも見たように、いったんそれた集中力を何度ももどす努力をくり返せば、あなたの集中力は確実に成長していくでしょう。


が、その一方でこの事例では、あなたが依然として自分のことを「がんばりさえすれば本を読み通せる人間なのだ」と、無意識のうちに定義しているのも事実。この考え方では、集中力が切れるたび獣に努力を強いるはめになり、長期的には失敗に終わる可能性が高くなります。


しかし、ここであなたが「私は根本的に読書家なのだ」と自己を定義していた場合は、事態が大きく変わります。もし集中が続かなそうな状況に襲われたとしても、反射的に「読書家」という自己像を守ろうとする意識が働き、本の内容に意識をもどす確率が自然に上がるのです。

 

要するに、「もっと本を読む!」って目標を達成したいときは、「私は根っからの読書家なのだ!」ってアイデンティティを自分の中に確立しようぜって話ですね。人間は自分で作ったセルフイメージに従う性質を持っているので、これによって読書へのモチベーションが自然と高まるわけです。

 

このような心理は「運動」についても同じで、マラソンを走る人は「私はランナーだ!」と自己を定義したほうがモチベーションが上がり、筋トレをする人は「私はボディビルダーなのだ!」と自己を定義したほうがトレーニングを続けやすくなるはずであります。

 

ってことで、新しい研究(R)では、「自己の定義によってダイエットの成功率が変わるのではないか?」ってポイントを深掘りしてくれていて勉強になりました。

 

この論文には2つの研究が含まれてますが、どちらもIWCRっていう世界的な減量プロジェクトのデータを利用しております。 このプロジェクトには、大幅なダイエットに成功し、 スリムな体型を維持し続けている人たちのデータが 含まれていて、現在までに10,000人以上が参加してるんですな。

 

このデータを使い、研究チームは合計1,709人の記録を分析。「運動が自分のアイデンティティになっている人」と「健康な食生活が自分のアイデンティティになっている人」たちは、 どれぐらいダイエットに成功して、その後もスリムの体型を維持し続けることができているのかをチェックしております。

 

それぞれのアイデンティティは、4項目からなるテストで調べていて、 具体的には以下の項目について「-3(強くそう思わない)」から「+3(強くそう思う)」の範囲で回答してもらった上で、4項目の得点を平均してます。

 

 

運動アイデンティティのチェック(n = 735)

  1. 十分な運動に取り組むことは、自分が望む生き方に適している。
  2. 十分な運動に取り組むことは、私という人間にフィットする行為である。
  3. 自分は十分な運動に取り組んでいるほうの人間だと思う。
  4. 私は、十分に運動をしている人間としては、代表的な存在だと思う。

 

健康な食事アイデンティティのチェック(n = 834)

  1. 健康的な食事に取り組むことは、自分が望む生き方に適している。
  2. 健康的な食事に取り組むことは、私という人間にフィットする行為である。
  3. 自分は健康的な食事に取り組んでいるほうの人間だと思う。
  4. 私は、健康的な食事に取り組んでいる人間としては、代表的な存在だと思う。

 

 

というわけで、 これらの文章に当てはまる人ほど、 ダイエット成功しやすいのかをチェックしたわけですね。その結果は、こんな感じになりました。

 

  • 運動アイデンティティのテストは有効であり、このテストの点数が高い人ほど、実際の運動量と運動のモチベーションが高かった。
  • 健食な食事アイデンティティのテストも有効で、このテストの点数が高い人ほど、ストレス食いや暴飲暴食が少ない傾向があった。
  • どちらのテストにおいても、点数が高い人ほどダイエットに成功し、リバウンドする確率も低かった。

 

全体的には予想通りの結果で、やはり健康的な食事と運動がアイデンティティの感覚に統合されている人ほど、 スリムな体型を維持できているわけっすね。 まぁ、当たり前では当たり前の話なんですが。

 

ただし、ここで大事なのは、「ヤバい集中力」にも書いた通り、アイデンティティは戦略的に変えられる変数だってことですね。アイデンティティというと不動の存在のようなイメージもありますけど、実は結構フワッとしたものなんで、意図的に変えることは可能なんですよね。

 

その方法については、「ヤバい集中力」の後半にくわしく書いたんで、興味がある方は参考にしてくださいませ。ただし、この文献にもとづいて、「アイデンティティ書き換え」の最も重要なポイントを 一言でまとめておくと、

 

  • とにかく持続可能性にこだわれ!

 

って感じになるでしょう。「持続可能」ってのは、 いま自分が日々やっているルーティン、スケジュールに最小限の影響しか与えないような行動を取ろうぜ!って考え方です。大きなゴールを達成するために、「これなら絶対に達成できる!」ぐらいの小さな目標まで細かくしてやって、とにかく1日10秒でもいいから取り組むことで、アイデンティティが変わっていくんだよーって話ですな。

 

ただし、これには注意点がありまして、「モチベーションが高いときにも簡単すぎる目標を設定しすぎると、逆にゴールの達成率は下がる」って傾向も確認されていますんでご注意ください。 日々の平常時は簡単すぎる目標を設定しておき、たまにやる気がぐんと上がった時は、ちょっと難しいぐらいのゴールを 自分に与えてやるのが良さそうであります。

 

もちろん、アイデンティティの変容に必要な条件がこれだけではありませんが、 とりあえずは持続可能性を押さえておくと、 何かと成功率が高まっていいんじゃないでしょうか。ダイエットに限らず、自分を変えたいと思ったときには、ぜひアイデンティティにも注目していただけると幸いです。

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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