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今週の小ネタ:「超加工食品」が筋力を奪う、オンライン認知行動療法が若者のメンタルを救う、マインドフルネスが「認知の柔軟性」を生むかも


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

「超加工食品」が筋力を奪う

超加工食品で筋力が落ちるぞ!」というメタ分析(R)が出ておりました。

 

これは主に中高年を対象に24万6,261人のデータを集めたもので、29本の観察研究(コホート9本+横断研究20本)をまとめたうえで、「筋肉の働きと超加工食品の関係」を調べた内容になっております。「超加工食品?なにそれ?」という方は、「体にめっちゃ悪い「超加工食品」を食べるとどこまで太る?問題」などをご覧ください。

 

で、まずは結論から言ってしまうと、超加工食品をよく食べる人は、

 

  • フレイル発症リスクが40%上がる(8本のコホート研究)

  • 筋力の低下リスクが13%上がる(4本の横断研究)

  • サルコペニア(筋量低下)との明確な関連はなかった

 

って感じでして、全体としては「筋肉そのもの」よりも「筋肉の働き」が衰える傾向が見られたんですよ。つまり、筋肉の“量”は維持されているように見えても、中身の“質”(特に筋繊維内の代謝機能が劣化している可能性があるってことでして、これをたとえるなら「エンジンの馬力はそのままなのに、燃費が極端に悪化している」状態と申せましょう。このギャップが、年齢を重ねた人の“見えない老化”を加速させるわけですな。

 

超加工食品で筋肉が働かなくなる理由はいくつかありまして、

 

  1. 超加工食品で慢性炎症が進む!:超加工食品は高糖質・高脂質・低食物繊維なので、こればっか食べてると腸内フローラのバランスが崩れ、全身炎症が進んでしまうのは間違いないところ。でもって筋肉を修復するための「抗炎症経路」が鈍くなるんでしょうな。

  2. 超加工食品でインスリン抵抗性が悪化する!:筋肉はインスリンに強く依存する組織で、もし超加工食品で血糖スパイクや脂肪肝が起きるとインスリン感受性が低下し、結果的に「筋肉への栄養供給」が滞る可能性も大。

  3. 超加工食品でミトコンドリアの機能不全が起きる!:加工油脂や添加物が細胞レベルでの酸化ストレスを増やし、エネルギー生成工場であるミトコンドリアを傷つける経路もあり。これによって、筋肉が“燃えない体”になるんでしょうな。

 

って感じになります。超加工食品ってのは、複数の経路を通じて筋肉をグダグダにしていくんだ、と。怖い!

 

 

ちなみに、この研究で用いられた分類は、ブラジル発の「NOVA分類」が中心で、簡単に言うと食品を次の4段階に分けて評価しております。

 

レベル内容
1未加工または最小限加工食品野菜、果物、魚、卵、精米、豆類など
2加工調味料・料理用素材塩、砂糖、植物油、バター、味噌、酢など
3加工食品(保存や味付けのための単純加工)チーズ、缶詰、パン、ハム、漬物など
4超加工食品(工業的に製造された再構成食品)スナック菓子、清涼飲料、菓子パン、冷凍食品、ソーセージ、ファストフードなど

 

つまり「便利さ」と「保存性」が高くなるほど問題が起きやすいってことですね。

 

もちろん、これはあくまで観察研究ベースのメタ分析なので、因果関係を断定するにはまだ証拠不足なんだけど、これだけの規模で一貫した傾向が出ているのは事実なんで、「超加工食品は筋肉を直接削るわけではないが、確実に“老け筋”を促進するかも」と考えとくとよいでしょう。ご注意くださいー。

 

 

オンライン認知行動療法が若者のメンタルを救う

「インターネット型認知行動療法(iCBT)でメンタルが改善だ!」みたいな文献がおもしろかったのでメモ(R)。

 

これは18〜24歳の若者56名に8週間ほどオンラインの認知行動療法プログラムをやってもらった試験で、まず結果からざっくりまとめると、

 

指標改善度効果量
抑うつ症状有意に減少大(Large)
ストレス症状有意に減少大(Large)
不安症状減少中(Moderate)
不眠症状有意に改善大(Large)
生活の質(QOL)改善中(Moderate)

 

こんな感じになります。つまり、「実際のセラピストと対面しなくても、オンラインで学ぶだけで、リアルの気分が軽くなる」て結果が出たわけで、これはなかなかナイスじゃないでしょうか。

 

では、実験で使われたプログラムを見てみましょう。このプログラムの構成は非常にシンプルでして、

 

基本モジュール(週1回 × 5週間)

  1. 目標設定

  2. 認知の歪みを見抜く

  3. 行動パターンの修正を学ぶ

  4. ストレスとのつき合い方を学ぶ

  5. ネット依存の自己管理を学ぶ

 

個別モジュール(計3つ)

こちらは参加者の悩みに応じてカスタマイズされたもので、先延ばしや社交不安など、それぞれの課題に合わせた内容が提供されたそうな。

 

 

みたいな感じです。このプログラムの目標は「感情」よりも「思考」を調整することで、たとえば、

 

「失敗したら終わりだ」→「失敗は成長のデータだ」
「誰も自分を理解してくれない」→「一部の人には伝わるかもしれない」

 

見たい感じで認知を変える作業を重ねるうちに、感情も自然と変化していくことがわかってるんですな。その点で、今回使われたiCBTでは、この思考の書き換えをスマホ上で行えるように設計されてまして、非常によろしいのではないでしょうか。

 

ただし、唯一の懸念点としては、受講者の44%がプログラムの半分未満しか完了できなかったとこですね。心理療法ってのは継続が鍵なので、この脱落率はちょっと気になっちゃうところです。おそらくスマホで認知行動療法をやってるうちに、YouTubeやSNSに引きずられちゃうんでしょうな。うーん、むずい。

 

まあそれでもネットの認知行動療法に十分な効果が示されたってのは、なかなか素晴らしいことでありましょう。スマホを「セルフセラピーデバイス」として使う流れがいよいよ強まりそうですな。

 

 

 

マインドフルネスが「認知の柔軟性」を生むかも

マインドフルネス瞑想によって頭が柔らかくなるぞ!みたいな研究(R)が出ておりました。これがどういう実験だったかと言いますと、参加者に7週間にわたって以下のプログラムを実践してもらったんだそうな。

 

  1. 毎日の自己学習レッスン(セルフヘルプ)

  2. 宿題形式の練習課題

  3. 週1回のグループセッション

 

いわば「自習 × 実践 × 対話」を組み合わせたマインドフルネスのカリキュラムになってまして、その一方で対照グループは「ウェイティングリスト」に入れられ、マインドフルネスのトレッドミルは行われなかったとのこと。

 

その上で、計4回にわたってマインドフルネス・認知的柔軟性・不安・抑うつ・心理的ストレスを測定し、特に2本目の研究では、実際の課題で認知の柔軟性を測るテストも行っております。ここで言う「認知の柔軟性」ってのは、思考のモードをスムーズに切り替えられる能力のことで、たとえば、

 

  • ネガティブな感情にとらわれても、「別の見方」を試せる

  • 状況が変わっても、「新しい行動」を取れる

  • 予想が外れても、「修正」を恐れない

 

といったメンタルを操作する能力を指しております。この柔軟性が低いと、脳は同じパターンを繰り返してしまい、不安がいよいよ激増しちゃうんですな。逆に、柔軟性が高い人ほど精神切り替え操作がうまいので、状況に応じてギアを入れ替えるように感情を扱えるわけです。めっちゃ大事な能力ですね。

 

でもって、マインドフルネスのトレーニングを行ったグループにどんな変化が出たかと言いますと、

 

  • 認知的柔軟性(思考の切り替え能力)

  • 不安症状

  • 抑うつ症状

  • 心理的ストレス

 

のすべてで有意な改善が見られたんだそうな。まあ、これは「マインドフルネスなら当然では?」って感じですが、さらに研究チームが参加者を詳細に分析したところ、

 

ネガティブな情報を避けずに、ちゃんと向き合えた人ほど、後のストレス軽減効果が大きかった。

 

という結果も見られたのがおもしろいいところです。つまり、「嫌な現実も含めて、柔軟に受け入れる力」こそが、認知の柔軟性を作るんじゃないか、と。

 

まあ研究のような7週間プログラムをいきなり始めるのは大変なんだけど、日常に取り入れてみたいのであれば、

 

  1. 1日3回、“思考の一時停止”を入れる→「今、私は何を考えている?」と内省するだけでもOK。

  2. 嫌な感情を、3語でラベル化する→「不安」「焦り」「孤独」など、粒度を上げる。

  3. ネガティブ情報を“避けずに眺める”時間をつくる→ 見たくないニュースや出来事を、反応せず観察する。

 

ってのに取り組むだけでも、なにがしかの効果は得られるんじゃないかと。お試しください。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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