「読書は紙がいいのか?それとも電子書籍がいいのか?」問題にとりあえずの結論が出てた件
紙とデジタルはどっちがいいの?ってのはここ数十年でよく聞くようになった疑問で、たとえばプリンストン大学の研究だと「PCと紙のノートだったら手書きのほうが頭に残りやすよー」って結果が出てたりします。
ここらへんの話はそこそこ追試も行われていて、全体的には「紙が優勢!」ってイメージ。どうも紙のほうが集中力が続きやすいせいで、頭への定着度も高いみたいなんですな。
でもって、新しい論文(1)では、「紙の本と電子書籍はどっちが優秀?」って問題をガッツリ調べてくれていた有用でした。論文のタイトルは「紙の本を捨てるな!」というもので、この時点ですでに答えが出ちゃってますが。
これはバレンシア大学などの研究で、過去の「学習にかんする研究」から精度が高めな54件を抜き出したメタ分析。ここで具体的になにを調べたのかというと、
- 紙の本と電子書籍をくらべた場合、私たちの理解力には差が出るのか?
ってポイントです。これまでも個別のデータはいろいろあったんですけど、わりと研究ごとに結果がバラバラで、いまいち統一的な見解がなかったんですよねー。
では、いろいろ言っても仕方ないんで、いきなり結論の引用です。
2つのメタ分析を行った結果、現時点での研究ではあきらかにデジタルのほうが劣っている。デジタルのテキストと印刷されたテキストをくらべた場合、デジタルのほうが文章の理解力は低い。これは多くの先行研究 (Kong et al., 2018; Singer & Alexander, 2017b; Wang et al. 2007)とも一致するところだ。
だったそうで、どうやら紙のほうが理解が進みやい傾向があったようで、
- 読書の時間が限られた状況下では、紙の本の方がさらに優位になる
- 紙の優位性は、テキストのジャンルを問わない(技術文書でも読み物でも紙のほうが有利)
といった現象も確認されたそうな。思いのほかハッキリした違いが出ましたな。
では具体的にどれぐらいの違いが出たかと言いますと、
デジタルデバイスの効果量 (-.21)は小さなものだが、この数字は文章の理解力の発達における分脈で理解すべきだろう。
と申しておられます。つまり、紙とデジタルの差はそこまで大きなものじゃないんだけど、現実には意外と効果量の違いが響いてくるんじゃないか、って話です。とくに小学生のころとかは教材の影響力がとても大きいもんで、-.21って数字はバカにできないよー、と。
ここらへんの違いが出る理由はまだハッキリしてないんですけど、いまんとこ2つの立場があったりします。
- この研究には「デジタルに慣れてない世界」も結構ふくまれてるから、デジタルネイティブだけに限ったら差がなくなるんじゃない?
- いや、先行研究では「デジタルが人間の集中力を奪う!」って結果も出てるし、本質的に電子書籍は良くないのだ!
って感じでして、いまの段階では判断が難しいかなーというところです。
が、おおよそのデータを見てますと、
- 時間の制限がないときには、デジタルと紙の違いはほとんど確認されないっぽい
ってのも確かなんで、ここらへんは電子書籍を読む際の参考になりましょう。つまり、
- 電子で本を読むときはゆったり時間を取って、心に余裕がある状態でのぞもう!
- 「あと数時間で読み終わらねば!」みたいな状況下では、めんどうでも紙を使ったほうがいいよ!
ってことになりましょう。果たして「慣れ」でデジタルの不利さが克服できるのかは不明ですけど、以上の点をふまえたうえで使い分けていけばいいのではないかとー。