本の理解を深めるためのちょっとしたテクニックの話
「本の理解を深めたきゃ”あの”方法を使うといいかもよ!」みたいなデータ(R)がおもしろかったのでメモ。
コンプルテンセ大学などの研究でして、まずざっと実験のデザインを見てみるとこんな感じ。
- 参加者に脳波計を装着してもらい、意味的(論理的)または構文的(文法的)な誤りをふくむ文章を読んでもらう
- 文章を読む際には、1)ひとりで読む、または2)隣に見知らぬ人がいる状態で読む
- その後、文章の読解力がどうだったかや脳波にどんな変化が出たかをチェックする
いちおう実験の模様を見ておくと、↓こんな感じです。
隣に座った女性はもちろん参加者とは初対面で、文章を読む作業のあいだも特に口をはさまなかったとのこと。見知らぬ人がそばにいるだけでも、人間の読解力は変わるんじゃないか?と考えたわけですね。
で、結果がどうだったかと言いますと、
- 他の人と一緒に文章を読んだ参加者は……
- 脳の楔前野(社会的行動/処理と注意に関連するエリア)が活性化していた
- ひとりで読んだ場合とくらべて、文章の読解がよりクリエイティブで、理解度も高い傾向があった
だったそうです。誰でもいいから人が近くにいたほうが、読解の創造性が上がるかもしれないんだ、と。おもしろいもんですねぇ。
チームいわく、
ひとりで読むと、人間の言語処理はよりアルゴリズム的になる。言い換えれば、より自動化され、制限されるようになる。
とのこと。ちょっとわかりづらい表現ですが、
- ひとりで読む=決まったルールにしたがって文章を読解するため、わりと内容を文字どおりに解釈する
- 他人と読む=ルールから外れた読み方をするため、創造的で全体の解釈が深まる読み方になる
みたいになります。例えば「下人の行方は、誰も知らない」って文章があった場合は、
- ひとりで読む=「はいはい、下人がどこに行ったかはよくわからないのね」と読むようになる
- 他人と読む=「悪行の報いを受けてのたれ死にした?それとも改心した?」と読むようになる
みたいなイメージですかね。他人がいる状況で読んでいるときは、いろんな解釈や多面的な思考パターンが起動してるってことです。
まぁこれは「ひとりで読むのが良くない!」って話ではなくて、チームはこうも申しておられます。
ひとりで読む行為はより詳細かつシステマチックな処理につながるのに対し、他人と読む行為はより創造的で統合的な理解につながる。私たちは、研究や教育などの場面における社会的な相互作用の影響についてもっと考える必要があるだろう。
要するに、ひとりで読む場合は内容のディテールに目が向かい、同時に内容を文字どおり受け取る傾向があるわけっすね。その点で言えば、
- マニュアルや教科書などを読むときは、ひとりで読むほうがいいかも
- 小説やエンタメよりの実用書を読むときは、他人がいる状況で読むほうがいいかも
みたいな使い分けになるかもしれません。もっとも、ここまでハッキリと区分けするのも難しくて、例えば「論文を読む」って場面においては、
- 論文を読む初期の段階では創造的に読んで現実への適用などを思いつきたいので、他人がいる状態で読んだほうがいいのかも?
- 論文の内容をまとめるときは事実に目を向ける必要があるので、ひとりで読んだほうがいいのかも?
みたいに用途によって使用法も変わってきそうですしね。ここらへんは目的を明確にしてから、読書の環境を選んでいただくといいかも。
いずれにせよ、少なくとも周りにひとりの人がいるだけで脳の活動が変わるってのは、おもしろい知見ではないでしょうか。どうぞよしなに。