みんな人生の半ばで幸福度が下がるのはなんでだろう?「中年期の哲学的ガイド」#1
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「中年期の哲学的ガイド(Midlife: A Philosophical Guide)」って本を読みました。タイトル通り「中年の危機を克服するにはどうすればいいのか?」ってのをまとめた本で、著者のキーラン・セティヤさんはMITの哲学博士なんだそうな。私と同じ1976年2月生まれで、めちゃくちゃ親近感が。
で、本書はもちろん私のようなオッサン向けなんですけど、ここで取り扱われている「なんで自分は不幸なのだ!」って問題は全年齢に当てはまるものなんで、ここから得られる知見は、おそらく若い方にも当てはまることでしょう。
ってことで、セティヤさんがどんなことを言っているのかをまとめてみましょうー。
人生の半ばで幸福度が下がるのはなんでだろう?
- 「中年の危機」という考え方は、1965年にエリオット・ジャックが発表した「死と中年の危機」という論文(R)から広まり、1980年には世界中で大流行した。
- データによると、人生の幸福度は真ん中が一番低い傾向がある。幸福度は生涯にわたって「U字型カーブ」を描き、20歳前後でピークに達し、40代で急降下し、70歳前後で再び幸福のピークを迎える。
- 経済学者のブランチフラワーらが行った調査では、年齢別に報告された幸福のレベルは緩やかにカーブしたUの形をしており、若い成人期に高く始まり、老年期に高く終わり、平均的に46歳で最下点となることがわかった。このパターンは世界72カ国で確認されており、男性でも女性でも同じような傾向が見られた。また、回帰分析の結果では、この現象は子育てのストレスとは無関係だった。
- それでは、人生なかばに起きる幸福度の低下は何が原因なのか? それは、この時期の人間はみな「人生でまだ実現できていない目標」に意識が向かいやすく、「自分の人生ってこの選択でよかったのかな……」と疑問を持ちはじめ、アイデンティティが追いつかなくなりやすいからだと考えられる。
中年期の危機にも意味はある
- 多くの人は人生の後半に進むにつれが人生の満足度が上がるが、それをただ待つだけではよろしくない。大人になってからの苦労には価値があり、多少のストレスやチャレンジに身をさらすことで、私たちはより人間としての回復力を増すことができる。何も問題がないことは、問題がたくさんあることと同じくらい悪いことである。
- ストレス反応について調べた先行研究では、最も幸せで、最も回復力があり、最も精神的に健康な人は、人生の中で2〜3回のストレスのかかる出来事に見舞われていた。逆に、まったくストレスがない状態で暮らすことは、複数のトラウマを抱えている状態とほぼ同じダメージを及ぼすこともわかったた。これは、人生のトラブルによって自分自身の長所と短所を理解でき、次の出来事に備えてより強くなるからである。
より人生を楽しく生きるにはどうすればいいのか問題
- 中年期の人生をより楽しくしたいなら、選べる道は「幸せを追いかけるのをやめて意味を追求する」しかない。自分よりも偉大なものごとに焦点を当てて、できれば他の人と関われるようなものがいい。これが最高の人生につながることは、多くの研究で示されている。
- 幸福よりも意味が重要なのは、そもそも人間は「幸福感」よりも「意味」に反応しやすい生き物だからである。事実、多くの研究では、人生に「生きがい」を持つ人は脳卒中が22%減り、認知症になる可能性は2.4倍低くなると報告されている。「生きがい」は全死亡率を減らして寿命を延ばす効果があり、幸福感にはここまでの作用はない。ストレス反応や炎症マーカーを調べた調査によれば、幸福と意味は生物学的に異なる結果を示すこともわかっている。
- 意味が幸福に勝るのは、「幸せ」がすべて自分自身に向けられた感情だからである。「幸せ」を追いかけようとすると、幸せでいられるかどうかは自分のがんばり次第になってしまい、自分を幸せにできるかどうかが全て自分1人の肩にのしかかってしまう。
- しかし、なんらかのコミュニティのために「生きがい」を持つことができれば、有意義な人生を送るための努力を他人と分散することができる。闘うのが自分1人ではなくなるので、私たちの肉体は警戒モードを解除することができ、神経系の闘争逃走反応が抑えられ、ストレスが緩和される。
- データによれば、私たちの幸せのほとんどは人間関係から得られるが、現代では個人主義の文化の中で生きている人が多い。そのため、幸せになろうとすると個人での動きを重く見過ぎて間違った方向に進んでしまう。その結果、他の人やコミュニティから離れていくことになり、中年の危機に深く入り込むケースが多い。
- 「幸福より意味」という考え方については、19世紀の哲学者ジョン・スチュアート・ミルが、そのものズバリの言葉を残している。
- 「私の 幸福があらゆる行動律の基本原理であり人生の目的であるという信念は微動もしなかったけれども、 幸福を直接の目的にしないばあいに却ってその目的が達成されるのだと、 今や私は考えるようになった。
自分自身の幸福ではない何か他の目的に精神を集中する者のみが幸福なのだ、 と私は考えた。 たとえば他人の幸福、人類の向上、あるいは何かの芸術でも研究でも、 それを手段としてでなくそれ自体を理想の目的としてとり上げるのだ。
このように何か他のものを目標としているうちに、 副産物的に幸福が得られるのだ。 自分は今幸福かと自分の胸に問うて見れば、 とたんに幸福ではなくなってしまう。 幸福になる唯一の道は、 幸福をでなく何かそれ以外のものを人生の目的にえらぶことである。
まとめ
ということで今回は、「中年期の哲学的ガイド」って本の要点を見てみました。「46歳が不幸のどん底!」と言われると、いままさにドンピシャな年齢の私はビビってしまうわけですが、本書の処方箋をこなしていくしかないよなーとかあらためて思わされました。ちなみに、「中年の危機」問題については異論も出ているんですが、今回の本を読むと、ここらへんの食い違いはは「危機」の定義の違いにあるかなーとか思いました。
で、本書にはまだ続きがありまして、次回は「人生の選択」とか」「長期目標の功罪」みたいな話に進んでいきます。ではまたー。