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2022年10月に読んでおもしろかった6冊の本と、その他2冊

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年10月版です。あいかわらず新刊の作成で死んでまして、「YOUR TIME ユア・タイム」の次作である「科学的な運(仮)」をテーマにした本は来年1月ぐらいの発刊を予定しております。よろしくお願いします。

 

ということで、今月に読めた21冊から、おもしろかったもののご紹介です。

   

 

 

 

ストーリーが世界を滅ぼす

 

英文学者のジョナサン・ゴットシャル先生が、「ヒトにとって物語がどれぐらい大事か?」や「物語が世界にどんな影響を与えているか?」を掘り下げた本。私たちがいかに物語の力で操作されやすい生き物なのかを序盤で示し、中盤からは物語が持つ暗黒面をこれでもかと提示し、後半では「わかりやすいストーリー」がいかに現代の分断をもたらしているかを解き明かす構成になってまして、マインド・コントロールや、社会の分断などに興味がある方ならお楽しみいただけるでしょう。

 

全体的なトーンは割と暗めで、読めば読むほど「この問題って解決可能なの?」って気分になるし、ゴットシャル先生も明確な対策を提示できてるわけでもないんですけど、とりあえず物語の暗黒面を意識しておくだけでも、フェイクニュースや陰謀論にハマらないための自衛にはなるでしょうね。

 

ちなみに、ゴットシャル先生は、過去に「総合格闘技に実際に参加して【闘い】の機能を考えてみた」って内容の珍本も出していて、こちらもおすすめです。

 

 

 

因果推論の科学

 

「AをやったらBになる」という因果関係の判断は、従来の統計学ではなかなか判断が難しいものでございます。ところが、この本では「データの原因と結果をよりよく理解できる方法はこれだ!」と主張してまして、かなりチャレンジングな大著になってました。

 

通常、「ものごとの原因を理解したい」と思ったときは、いろんな仮説を立てた上で異なる変数間の相関関係を探して、ひとつの仮説が否定されたらまた別の変数を……みたいに進めていくケースがほとんどじゃないですか。しかし、本書では「大規模なデータセットを使っても因果関係は相関関係に還元できないのだ!」って考え方をベースに、データから因果関係を求めていく手法を教えてくれるんですな。

 

正直なところ、本書が取り扱う内容はかなり難しく、私も後半の詳細はほとんど理解できていないんですけど(たぶんあと3周ぐらいしないと理解できなさそう)、いくつかの数式をちゃんと追えるだけの根気がある人なら、本書のキモである「因果ダイアグラム」は理解できるはず。かなり手強い内容ですが、因果関係解析の現状をガッツリ概観できる本としておすすめです。

 

 

 

ユーモアは最強の武器である: スタンフォード大学ビジネススクール人気講義

 

行動科学者のジェニファー・アーカー先生が、「【笑い】は人生にメリットだらけだぞ!」ってのをテーマに書いた一冊。ユーモアの効能は昔からよく確認されていて、笑いが上手い人は、より有能で自信に満ちた人物に見えるし、人間関係の質も良いし、創造性も高いし、トラブルからの回復力も優れているって報告が出てるんですよ。

 

「笑いと科学」をテーマにした本って、たいていは「いろいろ調べたけど【笑い】は複雑でよくわかりませんでした」って結論になるか、「そのフレームワークで本当に【笑い】を説明できているか?」みたいな感想を抱くケースが多いんですけど、本書で提示される「ユーモアの核心」は、類書よりも納得度が高いのがナイスですね。個人的には、「やはり『あるある』こそが笑いのベースだな」ってところを確認できてよかったです。

 

まぁ本書に出てくる「ユーモアの例」はバリバリにアメリカ流なので、読んで笑えるってわけじゃないんですが、ここで提示される笑いの原則は、日本人でも十分に役立つだろうと思った次第です。

 

 

 

「修養」の日本近代: 自分磨きの150年をたどる

 

このブログで「自分磨き」といえばオ◯ニーのことですが、本書がテーマにする「自分磨き」は、もちろん自己成長とか向上への意欲のことです。簡単に言えば、自分磨きの歴史を明治時代にまでさかのぼる本で、現代に特有の現象と思われがちな「意識高い系」が、いかに普遍的な存在であるのかを解き明かす内容になっております。

 

すごーくざっくり言うと、意識高い系の源流は明治の半ばにあり、この時代に、学歴社会が加熱化したせいで大量の脱落者が出現。それでも出世をあきらめきれない若者たちの間で「自分を高めて残酷な世界をサバイブするぞ!」って気分が高まったのが、大きな原因になっているらしい。ちなみに、このような上昇志向を持つ若者を、当時は「成功青年」と呼び、逆に自分磨きに精を出さずに遊んでばかりの若者は「堕落青年」と呼ばれたらしい。堕落青年!

 

いろいろな論点をふくむ本ですが、個人的には「歴史はくり返すねー」ってのを確認できたのが最大のおもしろポイントですね。たとえば、最初は「人格の向上」を求めたはずの成功青年が、すぐに「稼ぐやつが偉い!」ってスタンスへ軸を移したり、都会に住む知的インテリ層が成功青年をバカにして分断が深まったり、学歴エリートが大衆を見下すせいで教養の重みが軽くなったりと、いずれも「この光景、知ってんなぁ。今の日本とよーく似てねぇか?」みたいな感じでありました。「ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち 」などと合わせて読むと、相補的に理解が深まっていいっすね。

 

 

 

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足

 

ダートマス大学の人類学者であるデシルヴァ先生が、「人類はなぜ直立二足歩行になったのか?」を掘り下げた本。直立二足歩行というと、誰もが「四足歩行の猿人が少しずつ立ち上がり、最後は完全に直立して人類になった!」みたいなイメージが浮かぶと思うんですが、本書ではこの定番の仮説を完全に否定。さらには、「道具を使うため」「水中で直立するため」「獲物を長時間追うため」といった既存の説もバッサリと斬ったうえで、最終的にデシルヴァ先生がたどり着いた衝撃の真実とは!

 

……って、まぁ最後の結論はさほど驚きでもないんですけど、過去の定説を片っ端から否定しつつ、少しずつ最新の仮説を提示していく語り口はミステリ小説さながらで、非常に楽しい読書となりました。すべての容疑者から密室殺人の実行可能性を取り除いていったら、最後に残った真相は「実は密室など最初からなかったのだ!」というものだったみたいな(わかりにくくてすいません)。

 

 

 

奥の細道―マンガ日本の古典

 

「釣りキチ三平」でおなじみの矢口高雄先生が、芭蕉の「奥の細道」をマンガにした一冊。芭蕉の句はそれなりに知りつつも、松尾芭蕉が生まれるまでのプロセスは知らなかったため、いろいろ勉強になりました。

 

たとえば、「『奥の細道』の旅ってのは、要するに現代の聖地巡礼と同じノリだったんだなー」とか、当時の俳諧ってのは「前の句を受けて順番に詠んでいくサイファーみたいなものだったんだなー」とか、そんな感じっすね。矢口先生お得意の自然描写が題材にハマっていることもあり、芭蕉がなにをやりたかったが、なんとなく体感できる良書でありました。

 

 

 

その他もろもろ
  • 古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年:元「ムー」の愛読者としては、マヤ文明はロマンあふれる古代文明のイメージなんですが、当然ながらそんなイメージを粉々に打ち砕きつつ、昔から言われてきた複数の謎を解き明かしていて目ウロコ。「人骨の調査からここまでわかるのか!」って感動もふくめて、考古学の発達ぶりにビビらされる一冊でした。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。