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【質問】IQってトレーニングで上げられませんか?


 

こんなご質問をいただきました。

 

才能の地図」を読みました。IQがそんなに社会の成功と関係がないとわかってほっとしました。でも、それでもIQを上げてみたいと思うんですけど、何か良い方法はないものでしょうか?

 

ってことで、IQってのは高めることができるのか?ってご質問です。確かに「才能の地図」には、「IQにこだわっても意味がないよー」って話しを書いたものの、「上げてみたい!」と思う方は多いかもしれないですね。

 

まー、「IQを上げられるか?」って問題については、研究者のあいだでまだ議論が続いているところですが、いくつかの可能性を示すデータも出てますんで、そこらへんを紹介しておきましょう。

 

 

教育でIQが上がる

2018年のメタ分析(R)では、合計60万人の調査データを総合したうえで、

 

  • 1年教育を受けるごとに、参加者のIQスコアは平均1~5ポイント上昇した。

 

と報告しております。ただし、「教育がどのようにIQスコアを上昇させるのか?」や「学校教育の効果は年を追うごとに蓄積されるのか?」って問題については、まだ正確には明らかになっていないもんで、4年制の学位を取得すればIQスコアが20ポイント上昇するとは考えないでくださいませ。個人的には、学校の教育ってのは、IQテストに特有の課題(図形の操作とか)に適した特定のスキルを向上させるのかなーとか思ってますが、ここらへんはよくわからんですね。

 

また、余談ですが、現代のIQテストってのは、「流動性知能」と「結晶性知能」の両方を測定していまして、

 

  • 結晶性知能:人生を通じて得た知識や技能のことで、年齢とともに成長していく。この知能を必要とする場面には、読解力や語彙力試験などがある。
  • 流動性知能:少ない情報から推測したり、問題を解決したり、抽象的な概念を理解する能力のことで、年齢とともに低下していく。この能力は、学習や経験、教育とは無関係と考えられている。

 

って感じになります。こうして見ると、学校教育ってのは結晶性知能の改善に役立っているんだろうなぁ………って感じです。

 

 

IQと関係フレームスキル・トレーニング

脳トレについてはこのブログでもたくさん書いてますが、いまのところ実験の結果はかなりゆるめ。ジョージ・メイソン大学の研究(R)だと、事前に「脳トレをします」と言って被験者を集めた場合と、「認知機能の訓練をします」と言って被験者を集めた場合では、前者の方が流動性知能テストのスコアが向上し、IQが5~10ポイント改善したらしい。

 

つまり、「これでIQが上がるのだ!」と思い込むことでIQは上がるって話しでして、IQの変動にはかなりプラセボの要素が大きいってことなんでしょうな。その点では、「これでIQが上がるのだ!」と思いながら脳トレをしてみるのも、IQを高める良い方法なのかもしれません。

 

ただし、現時点では、「これは有望なのかも?」と思える報告もありまして、それが「関係フレームスキル・トレーニング」ってやつです。もともとは2016年の研究(R)で効果が確認されたもので、ここで言う「関係」ってのは、人間関係におけるコミュニケーションことではなくて、周囲の環境にある物事のあいだのいろんな抽象的関係を扱う能力のことです。

 

これは「関係フレーム理論(RFT)」と呼ばれる行動心理学の考え方をベースにしていて、人間の高次の知性の基本単位は、関係フレームと呼ばれる学習能力だと提唱しているんですな。って、これだと何がなんだか分からんので、子どもの成長の例で考えてみましょう。

 

たとえば、子どもが初めて「リンゴ」って物体の名前を覚えたとしましょう。すると、今度は、その子どもは「リンゴ」って知識を元に、「リンゴ“でないもの”はまた別の名前で呼ばれる」って思考を発展させていくはず。いったんこの能力が出来ると、たいていの子どもは、ここからさらに「リンゴと同じようなもの」「リンゴの前にあるもの」「リンゴの真反対にあるもの」「リンゴに一部にあるもの」「リンゴより良いもの」といったように、「リンゴ」というひとつの知識から、いろんな知識を追加していくわけです。

 

このように、「でないもの」「反対にあるもの」「一部のもの」といった情報を、ここではフレームと呼んでます。どの思考も、リンゴを軸にした関係性を表しているところが共通点であります。

 

この他にも、「反対の関係の反対は同じ関係である」とか「AがBより大きければ、BはAより小さい」など、ある物事の関係性を抽象的に判断できる能力も関係フレームのひとつ。これらの判断をスムーズに行えるように鍛えるのが、「関係フレームスキル・トレーニング」です。

 

多くの研究では、IQテストの得点が高い人ほど、上記の関係推論力を持っていることが示されてまして、「関係フレームスキル・トレーニング」によってIQが上がる可能性は十分にあるんですよ。実際、上の実験では、11歳〜12歳の子どもたちに、「同じ」「反対」「より多い」「より少ない」といった関係の理解力を向上させるトレーニングを指示したら、平均でIQが23ポイントも上がったんだそうな。こりゃ凄いですね。

 

ちなみに、これは追試(R)でも良い結果が出てまして、こちらも10歳から11歳の子どもに「関係フレームスキル・トレーニング」を行ったものです。ここで行われたトレーニングの一部を紹介すると、

 

  • TIVはLUZと同じです。TIVはLUZと反対ですか?
  • VOSはYORの反対。YORはHUZの反対。HUZはVOSの反対ですか?
  • XUZはMIKより大きい。MIKはSEYより大きい。SEYはLAQより大きい。LAQはMIKより小さいですか?
  • VOPはJUKより少ない。VUXはVOPより少ない。 LALはVUXより少ない。TIはLALより少ない。VUXはTIJより多いですか?

 

ってな質問にひたすら答えていく感じです。意味のない単語の複雑な関係を理解する能力を、ひたすら鍛えていったわけですな。

 

結果、このトレーニングを受けたグループは、IQテストと標準学力テストの両方が上がったとのこと。学力テストの成績まで上がったってことは、たんにIQテストがうまくなっただけでない可能性を示してまして、これはなかなか有望な気がするわけです。

 

ちなみに、すでにお気づきのとおり、関係フレームスキル・トレーニングってのは、一般的な「論理クイズ」とか「論理パズル」と呼ばれるものに近いとこがありますんで、「論理パズル100」「論理パズル「出しっこ問題」傑作選」あたりでトレーニングを積んでみても、似たような効果が得られるんじゃないかなーとか思っております。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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