善玉コレステロールが多けりゃ体にいいってわけでもない問題
善玉コレステロールが多けりゃいいわけじゃない
よく、コレステロールを善玉と悪玉にわけたりしますね。血管にこびりついた悪玉(LDLコレステロール)を、善玉(HDLコレステロール)が回収してくれるので、HDLは多いほうが良い!って話です。
もちろん、これは大筋としては正しいんですが、実際は「HDLコレステロールが多ければOK!」ってわけでもなかったりします。実は量よりも大事なポイントがあるんですね。
で、最近、そこんところをガッツリ調べてくれた論文(1)が出まして、いろいろと勉強になりました。これは約176万のアメリカ人を対象にした観察研究で、全員のコレステロール値を調べたうえで、10年後の死亡率とくらべたんですよ。
HDLコレステロールが増えても早死にするケースが
その結果を単純にまとめると、
- 善玉コレステロールが少ないと早死にしやすい
- でも、善玉コレステロールが多くても早死にしやすい
みたいな感じ。善玉コレステロールが多ければ健康ってことはないんだ、と。
この結果は過去の実験でも裏付けられてまして、
- 遺伝的に悪玉コレステロールが多い患者を調べて実験では、LDLが多いと心疾患リスクが高まるのは間違いないが、かといってHDLが高くても早死にのリスクには変わりがなかった(2011年,2)
- 善玉コレステロールが少ない患者に治療を行ったところ、HDLが72%も増えたにもかかわらず、動脈硬化の進行は止まらなかった(2011年,3)
なんてのがあったりします。善玉コレステロールが悪玉を回収してくれるのは間違いないのに、たんに数が増えただけでは意味がないわけですね。うーん、悩ましい。
善玉コレステロールは量より質
というわけで、近ごろ言われるのが「善玉コレステロールは量より質だ!」って考え方であります。そもそも、HDLはいろんな形態を持った物質でして、サイズや形、脂質の種類などによって、機能が大幅に変わってくるんですね。
HDLが変化する原因はいろいろありますけど、代表的なところでは、糖尿病にかかるとコレステロールの構造に変化が起きることがわかってたり(4)。そのせいで、ひとくちに善玉コレステロールと言っても、役に立つHDLと役に立たないHDLにわかれちゃうんですな。
その影響はデータでも出てて、2015年にランセットに出た論文(5)によれば、高機能なHDLを持つ参加者は、低機能なHDLを持つ参加者とくらべて36%も心臓病のリスクが少なかったとか。いくらHDLが増えても、本来の仕事をしてくれなきゃ意味がないのは当然ですからねぇ。
善玉コレステロールで体が老化するケースも
さらに悩ましいのが、機能不全を起こしたHDLが体に悪さをするケースも少なくないところ。2015年のレビュー論文(6)の結論を引用すると、
HDLコレステロールは、生物学的にはもっとも変化しやすい物質のひとつだ。(中略)いろんな病的な状態が、HDLの構造と機能を変化させる。その結果、HDLは組織に炎症を引き起こす作用を持ち、血管のバランスを崩してしまう。
って感じ。機能不全を起こしたHDLは、たんに役に立たないだけでなく、血管に炎症を起こす可能性も高いわけですねー。これは怖い。
そんなわけで、HDLは量より質に気を配ろうねーって話でした。ただし、現時点では、普通の血液検査じゃ非機能HDLを見分けられないんで、我々にできるのはHDLの質が高まるように気を配るだけであります。その方法については、長くなったのでまた次回!