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あらゆる問題を解決するための「洞察」を得る3つのテクニックとは?「Seeing What Others Don’t」

 

他の人が見ないものを見る(Seeing What Others Don’t)」って本を読みました。本書は「『洞察力』があらゆる問題を解決する」ってタイトルで邦訳が出てるんですけど、訳文の評判がよろしくなかったので原著で読んでみた次第です。

 

 

そもそも「洞察」とは何か?

で、タイトルどおり本書は「洞察(インサイト)」にまつわる内容で、著者のゲイリー・クライン博士は、「人がどのように意思決定を行うか?」って問題にくわしい認知心理学者さんです。

 

 

で、まず博士は「洞察」についてこんな定義をしています。

 

  • 洞察=物事を理解する方法に予期せぬ変化があること

 

つまり、従来の考え方を一変させてくれるような理解のフレームワークこそが洞察なのだ、と。シンプルでわかりやすい定義ですね。

 

 

その点で言えば、「進化医学」や「進化心理学」の考え方などは私にとってまさに「洞察」の典型例でして、「ヒトの心と体には600万年に及ぶ適応の歴史が刻まれている!」ってアイデアをはじめて知ったときは「ヒエー」と思ったうえに、しばらく無意味に部屋のなかをウロウロしたもんです。

 

 

まぁそこまでのインパクトを持たずとも、世界の理解がちょっとでも変わればそれは「洞察」なのだと申せましょう。この意味では、科学的な発見だけでなく、新しい世界の見方を提示してくれる文学やアートも洞察の泉ってことですな。

 

 

さらに、「洞察」は脳に快感を与えるだけでなく、博士は「そのインパクトは計り知れないぞ!」と主張しておられます。良い洞察は世界の理解を変えるだけでなく、私たちの行動にも影響をおよぼし、知性のあり方やパフォーマンスを改善し、果ては個々人の感じ方や欲望をも変えてしまというんですな。

 

 

簡単に言えば、

 

  • 洞察が、世界の理解、パフォーマンス、感情、欲求の4つすべてに影響を与えるとき、それはパラダイムシフトの可能性を秘める 

 

ってことでして、確かに「進化論」や「相対性理論」はそれぐらいのインパクトを持ってますもんね。個人的なことで言えば、近ごろでは「効果的な利他主義」の洞察には実際に行動を変えられてますね。

 

 

 

洞察を得るための3つの基本ガイドライン

ってことで博士は、アインシュタインやダーウィンのような「世界を変えた洞察」を調査し、その結果にもとづいて「洞察を得るためのテクニック」を以下のようにまとめてます。

 

 

1. 別のものに新たな繋がりを探す

博士が調査した120のインサイトのうち80%のインサイトは、「新しいつながり」から生まれていたそうな。根本的に新しいアイデアなんかないんだから、いろんな発想をつなぎ合わせよう!とはよく聞く話ですな。

 

本書では「日本人はパールハーバーを研究するのではなく、イタリアとイギリスで行われた地中海の戦いを見て真珠湾攻撃を成功させる方法を理解した」みたいな例が出てまして、なんか複雑な気分になりましたが、まぁそう言うことですよね。

 

 

2. 矛盾を探す

お次は、「人々の行動や信念に、ものごとの理解に矛盾がないかを探そう!」って考え方です。博士が調査したインサイトの40%近くは、ものごとの矛盾を見抜くことに関係していたそうな(アインシュタインの時空連続体の理解とか)。

 

本書では、サブプライムローンの破綻を予測し金融史上最大の取引を成功させたジョン・ポールソンの例が挙がっておりました。ポールソンは、市場の専門家たちの「基本的な経済理論と住宅価格が上昇し続けるという信念の間に矛盾があるぞ!」と考え、これがボロ儲けにつながったとのこと。

 

 

3. 創造的な絶望を探す

最後が「創造的な絶望を探そう!」って考え方です。なんかわかりづらい話ですが、例えば、破産寸前におちいった企業とかが、急に何か斬新なことをして一発逆転に成功することがあるじゃないですか。「絶望のなかでもがきまくったあげくに、ふと人間の思考に隠されていた新たなメカニズムにたどり着くケースは珍しくない!」と、博士は指摘しているんですね。

 

これは絶体絶命の危機にハマった消防士が、あえて火の勢いを増して逃げ道を作るようなもので、必死さが新たな洞察につながっていくわけですね。「必要は発明の母。必死さは洞察の父」みたいな話です。なんかゴッホとかを思い出しますな。

 

ただ、そのために自分が窮地におちいる必要はないので、博士は「必死の状態で成功したクリエイティブな行為を探し、彼らが得た洞察を参考にせよ!」と言っておられます。これは確かに「どこに釣り糸を垂らすべきか?」の参考になりますね。

 

 

というわけで、博士が提案する洞察ゲット法は以上です。いずれも一朝一夕でどうこうなる話じゃないですが、考え方のフレームワークにはなりますね。私の場合は生まれつき「いろんなことに興味を持つマン」なので、1番の「新しい繋がりを探す」が好みですが。

 

 

ちなみに、本書にはいくつかの注意点も述べられてまして、

 

  • 洞察を得るには「市場の中の偶然性や珍しさを探す」のも有効だが(フレミングは、カビの近くにいるバクテリアの不思議な行動に気づいた話とか)、この手法は「偽の洞察」に行き着く可能性も高いので注意。事実、博士が調査したインサイトのうち、偶然性や珍しさをから得られたものはわずか10%だった。

 

  • また、「多くの人はそもそもインサイトを求めない」心理傾向もあるので、ここも注意が必要。本当の「洞察」は、自分の考え方や目標の変化を強いる働きがあるので、必然的にリスクが高く、メンタルヘの負荷も高い。

    そのため、多くの人は現状維持にとどまり、自分の行動エラーを減らす方向にリソースを注ぎがちになってしまう。ここらへんの考え方は、「本当はみんな新しいアイデアなんて大嫌い」と似てますな。

 

といったあたりは念頭に置いておくと良さそうです。特に「実はみんなインサイトが嫌い」って話はよく理解できるので、意識しときたいなーとか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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