牛乳でがんになるってホント?#1 基礎編
牛乳とがんに関するご質問をいただきました。
「ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸の豊富な牛乳や乳製品はがん細胞の増殖を刺激する作用が強い」、「牛乳タンパク質は、インスリンやIGF-1の分泌を刺激する活性を高めるような組成になっている」と主張しているWebページがあります。
乳製品は前立腺がんや乳がんを増殖させるので、がん患者は摂取しない方が良いという見解も。全く根拠がないわけではなく、研究論文も多数引用されています。(大腸がんについてはカルシウムががんを減らすらしいという推測があります。)
とのこと。「牛乳でがんになる!」って話は昔からありまして、日本でも「なぜ「牛乳」は体に悪いのか」なんて本が出ております。背を伸ばそうと思って幼少期に大量の牛乳を飲んでいたわたしにとっても他人事じゃございません(結局、背も伸びなかったし)。
牛乳とがんのメカニズムとしては、
- 牛乳にふくまれる大量の性ホルモンが悪性の腫瘍を増やす!
- 牛乳のアミノ酸や脂肪ががんを刺激する!
といった仮説がよく言われております(1)。これは2001年ごろにハーバード大のダマサンブ博士が主張した説(2)で、要は現代の牛乳は妊娠中の雌牛からとられたものなので、昔の牛乳よりも10倍以上の女性ホルモンが入ってるんだ、と。
言わずもがな、女性ホルモンががんの発症リスクを高めるのは間違いなし。これが本当なら大変であります。
というわけで、ここからくわしいデータを紹介しますが、牛乳の影響には性ホルモンがからむので、当然ながら男性と女性では差が出てきます。そこで、まずは男女に共通の要素を見た後で、性別ごとの問題点をチェックしていこうかと。
#1 大腸がんと牛乳
まずは、いま日本で急増中の大腸がんから。世界で最も多い癌のひとつですね。
で、大腸がんに関しては牛乳は無罪でしょう。具体的な例をあげると、
- 10件の観察研究を調べたが、牛乳を飲む量が少ない人(1日70g以下)よりも、牛乳をよく飲む人(1日250g以上)のほうが大腸がんは少なかった(2004年,1)
- 60件の観察研究をメタ解析したが、牛乳の摂取量と大腸がんは関係なし。どころか、カルシウムが大腸がんの発症を減らすことがわかった(2009年,2)
- 19件の観察研究をメタ解析したが、乳製品の量が1日に400gを超える人でも大腸がんは増えず、逆に発症率は減る傾向があった(2012年,3)
みたいな感じ。すべて「牛乳は大腸がんの予防になる!」って結論ですね。いずれの論文も観察研究の系統的レビューなので、科学的な信頼性もなかなかのものであります。
乳製品が大腸がんに効く理由としては、
- カルシウム
- ビタミンD
- 乳酸菌
の3つがポイント。いずれも昔から大腸がんの効果が確認されてきた成分であります。大腸がんに関しては牛乳の悪影響を心配しなくてもよさそう。
#2 胃がんと牛乳
続いて胃がん。日本は世界でも胃がんの発症率が高い国なんで、気になっちゃうところです。
が、胃がんと牛乳の問題はここ数年で研究が進みまして、こちらも牛乳は無罪との結論が出ております。具体的な例をあげると、
- 10件の観察研究と29件の試験をメタ解析したが、牛乳を飲む量と胃がんの発症率には関係がなかった(2014年,4)
- 7272件のデータをメタ解析したが、牛乳の摂取量と胃がんに関係は見当たらなかった(2014年,5)
- 3256件のデータをメタ解析したが、牛乳の摂取量と胃がんに関係はなし。観察研究では、逆に牛乳を飲むことで胃がんが減る傾向があった(2015年,6)
とのこと。大腸がんほどではないものの、こちらも牛乳が胃がん予防になる可能性が示されてますね。いずれの論文も観察研究の系統的レビューなので、科学的な信頼性も高めであります。
こういった結論が出た理由としては、牛乳にふくまれる共役リノール酸が原因と考えられてますが、いまだくわしいところは不明。いずれにせよ、胃がんについても特に心配は無用みたいです。
まとめ
そんなわけで、まずは日本人に多い胃がんと大腸がんについて見てみましたが、どちらも「牛乳無罪 !」という結論でした。
ちなみに、上記のデータは市販の牛乳と生乳をいっしょにカウントしてるんで、牛乳の質の差でホルモンの影響が変わるのかは不明。まぁ基本的には市販品の消費量のほうが多いので、スーパーで売ってる牛乳を飲んでも消化器系のがんにはならないと考えるのが自然でしょう。
では、次回は「女性編」を。牛乳と乳がんの関係についてです。