創造性がいよいよ重要になった現代で「ブレイクスルー」を起こす方法を、ニューヨーク大学の先生が語っております
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アダム・オルター先生の「 ブレイクスルーの解剖(Anatomy of a Breakthrough)」 ってを読みました。オルター先生はニューヨーク大学で心理学を教えている人で、日本だと「僕らはそれに抵抗できない」が有名ですね。 こちらも面白い本でした。
でもって、本書では「 激しい変化が当たり前になった現代で、 いかにブレイクスルーを起こすか?」という テーマを扱っていて、実証データとエピソードのバランスが良い楽しい一冊でした。 個人的には、生成AIとの向き合い方が最も参考になりまして、自分でもぼんやり 考えていたことを言葉にしていただいてありがたい限りです。
あえてわかりにくくまとめておくと、これから人間がやるべき事は、いよいよヒップホップに近づいていくんだろうなぁって感慨を持ったりしました。オルター先生の考えを勘案すると、脳の奥底に眠っている記憶を引き出すために生成AIを使うのが良さそうでして、 そのためには日頃からの大量インプットと、 それを抽象化し続ける「考察癖」がどんどん大事になっていきそう。
と言っても、何が何だかわからないと思うので、 本書から個人的に参考になったところをピックアップしてみましょう。
ポイント1.現代人は変化を予想しないマインドに変わりつつあり、それゆえに創造性も枯れつつある
- 東アジア(中国、日本、韓国など)では、常に変化を予想する文化がある。たとえば、株が上がれば「すぐに暴落する」と考えたり、雨が降れば「明日は晴れる」と予想する。一方で、欧米では現状維持を予測しやすい。その日が晴れたら晴れが続くと予想するし、株が上がればそのまま上がると考えている。
- しかし、全体的に見れば、多くの人は「私たちは変化をコントロールできる」と信じる方向にマインドが向かっている。これは、科学や先端医療が発達したのが原因だと思われ、「人類は世界をコントロールできる」という幻想が力を持ち始めたのが大きい。その結果、いまの人たちは変化に鈍感になっている。変化に鈍感なままだと、実際にヤバい変化が起きた時に対応ができなくなるし、さらには独創的なアイデアも生まれにくくなる。
- よく言うことだが、独創的なアイデアは、既存のアイデアの組み換えで起きる。たとえば、作曲の独創性で知られるボブ・ディランは、多くのアイデアをロック、ポップス、フォーク、ブルースのアーティストたちから借用したことで知られている。代表曲である『風に吹かれて』は、オデッタの『No More Auction Block for Me』に手を加えたものだった。このように、2つ以上の異質なコンセプトを取り上げ、それらを融合して斬新な組み換えを形成できるかを見るのが重要となる。
ポイント2.革新的なアイデアを生むには、つねに「一時停止」を意識する必要がある
- 革新的なアイデアを生むには、つねに「一時停止」を意識する必要がある。長い目で見れば、一時停止することが前進する最善の方法だったりするし、行動する前には必ず1分でも1日でも1週間でも一拍置くほうが良い結果が出やすい。
- これは、長期的な優位性のために目先のパフォーマンスを犠牲にする、という意味でもある。たとえば、リオネル・メッシは、毎試合の最初の数分間は歩くことに時間を費やし、そのおかげで大局観を得ることができている。この2分間の犠牲が、残りの88分強に強いインパクトをもたらしている。
ポイント3.「疑問を持つ」のも革新的なアイデアを生むためには欠かせない行為である
- 「疑問を持つ」のも革新的なアイデアを生むためには欠かせない行為である。1980年代後半に、オリンピック・スイマーのデイブ・バーコフは、選手が水面下に沈むと2倍近く速く泳げることを発見し、これをもとに背泳ぎの新しい方法を開発した。結果、彼は世界記録を更新し、やがてすべての背泳ぎスイマーが同じ方法を使うようになった。これはバーコフが従来の泳ぎ方に疑問を抱いたところからスタートしている。
- ビジネスやアートの世界でも話は同じで、良いアイデアにたどり着く前には、さまざまな選択肢、アプローチ、テクニックを模索する期間が必要となる。ある研究によると、良いアイデアを連続で生む人たちは、何も予断をはさまずに代替案を検討しまくり、大まかな状況を把握したら、一気にうまくいった代替案に意識を集中させる傾向がある(これは「運の方程式」で取り上げた話と同じっすね)。しかし、大人はほとんど疑問を抱かないので、そもそも代替案を試そうとすることが少ない。
ポイント4.生成AIにカオスを注入せよ
- 良いアイデアを生むために、有能で自分と似たような人たちと交流を深める人は少なくないが、これほど大きな間違いはない。良いアイデアを生むためのベストな方法は、自分とは根本的に異なる人とコミュニケーションを取ることだからである。
- たとえば、ピクサー社のブラッド・バード監督は、「黒い羊」と呼ばれるチームを作ることで知られる。これは、単に能力がある人たちを集めるのではなく、根本的な考え方が異なる人々を含むチームを編成してきた。その結果、『レミーのおいしいレストラン』や 『Mr.インクレディブル』といった大ヒットの連発につながった。
- ある実験では、参加者に「謎解き系」のパズルを解かせた。そのうち半分のグループには、生成AIに「役に立つアドバイス」をもらうように指示。残りの半分のグループには、生成AIに「役に立つアドバイス」ではなく、「なんでもいいからランダムなアドバイスをくれ」というプロンプトを使うように指示した。
すると、ランダムなアドバイスをもらったグループのほうが発想にカオスが注入され、結果としてパズルを解く確率も上がった。このように、物事にカオスを導入しないと、ブレイクスルーは生まれにくい。