職業が違うと、人生の経済的な余裕はどこまで変わるのか?問題
「職業によって、人生の経済力はどこまで決まるのか?」という研究(R)が出ておりました。たとえば、会社員、専門職、自営業、管理職、現場労働者……といった職業の違いは、どれぐらい実際の経済力を左右するのかって問題ですね。
で、まずは結論を先に言っちゃうと、
- 職業による階層差は、いまでも収入と資産の両方にハッキリ残っている。
- ただし、職業は「年収」を説明する力ほどには、「資産」を説明できない。
みたいな感じっすね。「どんな仕事をしているか」は依然として個人の経済力を判断するのに役立つんだけど、人生の経済的な安全性を決めるのは仕事だけではないよなー……という感じっすね。
さて、この研究では、「収入」ではなく「資産」に目を向けたところです。年収が同じでも、
- 貯金がほとんどない人
- 住宅を持っている人
- 株や投資信託を持っている人
- 親から相続した不動産がある人
- 借金を抱えている人
では、人生の安定度がぜんぜん違いますから、資産に着目するのは当然でしょう。収入は基本的には毎月入ってきて毎月出ていくものだけど、資産は失業や病気などの非常事態をしのぐバッファになりますからね。
ということで、研究チームは、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、スペイン、スロバキアの家計データを使い、25〜75歳の世帯主をざっくり以下の階層に分類しております。
- 大企業主・経営者・管理職などの上層
- 専門職中心のアッパーミドル
- 自営業・事務職などの中間層
- 熟練労働者
- 非熟練労働者
- 失業者
職業を階層にわけるなんて!って意見もありましょうが、これは「人間の価値を職業で決めよう!」みたいな話ではなく、経済的なポジションをざっくり比較するための分類なのでご了承あれ。そのうえで、それぞれの年収、純資産、資産の内訳などを比べてみたところ、だいたい結果は以下のようになったそうな。
- 職業の階層が上がるほど、年収も資産も増える(これは予想どおり)。
- また、差がより大きかったのは年収ではなく資産のほうだった。たとえば、ドイツでは、非熟練労働者の世帯は純資産がほぼゼロに近いケースが多く、住宅を持っているかどうかの差が大きく、同じように働いていても、「資産を持てるかどうか」で経済的な足場がまるで違うっぽい。
要するに、たとえ年収の差は数倍ぐらいでも、資産の差は十倍、数十倍になりうるってことでして、ここが資産格差のイヤなところですなぁ。
でもって、このデータでは、もうひとつ階層によって資産の中身が違うって結果も出ております。
- 上層やアッパーミドルの世帯は、株式や投資信託などの金融資産、事業資産、賃貸用などの追加不動産を多く持っていた。
- 対して、労働者階層の資産は、ほとんどが自宅に集中していた。
こちらも納得の結果でして、金融資産とかは価格変動のリスクもあるけど、うまく運用できれば収益を生むし、必要なら売却もしやすいですからね。いわゆる「お金がお金を生む」ってやつですな。
一方で、マイホームはもちろんメリットが多いものの、自宅は急に現金化しにくいし、不況のときに生活費へ回すのも簡単じゃないのが困ったとこっすね。この違いは、単に「いくら持っているか」ではなく、「ショックにどれだけ柔軟に対応できるか」の差になりまして、失業、病気、家族の介護、景気後退などのトラブルが起きたとき、金融資産や事業資産を持つ人と、住宅しか持たない人では選べる手が違ってくるんですよね。
さらに、この研究では、資産額を年収で割った「資産・所得比」も見ております。これは、「その家計は、年収の何年分にあたる資産を持っているか」を表す数字でして、
- スペインでは、上層階級の世帯が、一時期には年収の約9.5年分に相当する資産を持っていた。
- 一方で、労働者階層の資産・所得比はずっと低かった。
って感じだったそうな。つまり、上の階層の人たちは、年収が高いだけでなく、「働かなくても耐えられる期間」が長いと言えるでしょうな。資産の格差ってのは、単なる生活水準の違いじゃなくて、時間の自由、転職への耐性、病気への耐性、子どもに渡せる選択肢にまで影響があるんだよーって話っすね。
と、ここまでの話だけ見ると「結局、職業で人生の大半が決まるじゃないか!」みたいな気分になりますけども、この研究には重要な留保もあったりします。具体的には、
- 職業階層の違いで説明できる割合は、所得格差では約50%、資産格差では約40%ほどだった。
みたいになります。なので、職業の違いは資産格差にもかなり影響しているものの、年収ほどの説明力があるわけでもないってことですね。この残りの部分には、
- 親からの相続
- 不動産価格の上昇
- 株価の変動
- 結婚相手の資産
- 貯蓄習慣
- 投資知識
- 税制
- 地域ごとの住宅事情
みたいな要素が複雑に入り混ざってまして、簡単に言えば、「資産は今どんな仕事をしているかだけでは決まらない!」ってことでして、そこには過去にどんな家庭に生まれ、どんな資産価格の波に乗れたか、どんな制度の下で暮らしてきたかにも大きく左右されるわけですな。職業は人生の経済力を決める重要な変数ではあるものの、こと「資産」の話になりますと、スタート地点と運の影響がかなり強くなるのだと言えましょう。
そんなわけで、この研究を読んで改めて思うのは、資産格差の怖さは、単純に残高の差だけではないってことですな。職業が上の階層ほど使い勝手がよい資産を持ち、下の階層ほど生活を守るための資産に偏っちゃってトラブル時に困りがちってことでして、この差が、景気悪化や病気などのショックを受けるたびに、さらに広がっていく可能性があるわけっすね。
だから「年収を上げよう!」はもちろん大事なんですが、それだけで終わるとだいぶ危ない感じでして、やっぱ地道に可能な範囲で資産を分散する作業は必要になるんでしょうなぁ。こういう作業って、人生の一発逆転には結びつかないものの、「何かあったら終わる」状態に強くなるほうが大事だと思いますんで。ちなみに、これはあくまで海外の研究ですけど、日本でも、正社員と非正規雇用のあいだの賃金や資産形成の差、持ち家の有無、親世代から受け継ぐ資産の差などを考えますと、似たような構図はあるんじゃないか、と。格差の問題と言いますと、つい富裕層と貧困層の対立みたいに語られがちですけども、そのあいだにいる無数の人たちも、職業、資産の持ち方、相続、住宅事情などによって、少しずつ人生の行く末が変わってるんでしょうなぁ。


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