無駄な努力をやめるための8つのチェックポイントはこれだ!みたいな話
「人間は努力を限界まで小さくしようとするのだ!」みたいな話が昔からあるわけです。心理学ではこれを「最小努力の原則」と呼びまして、人間のみならずあらゆる生物は、同じ報酬が得られるなら、なるべくラクな方法を選ぶ傾向がある!みたいな考え方であります。
まぁ、深く考えずとも、エレベーターと階段が並んでいたら多くの人はエレベーターを選ぶだろうし、同じ仕事を10分で終えられる方法と1時間かかる方法があるなら、普通は前者を選ぶでしょう。なので、「最小努力の原則」は、揺るぎない真実のように思われるんですよね。
ところが、新しく出たレビュー論文(R)では、この原則をさらに深掘りしてまして、
- 人間は努力そのものを嫌っているわけではない!
- 人間は見返りのない努力を避けているだけだ!
という見方が提案されていて、なかなかおもしろかったです。
これはポワティエ大学のナタリー・アンドレ先生らによるレビューで、「人間は本当に努力を避けるのか?」という問題を、脳科学や動機づけ研究のデータから整理した内容になっております。
研究チームによれば、まず前提として、私たちの脳ってのは、
- 何かに取り組むたびに、「これをやるだけの価値はあるか?」を計算する
って性質を持っているのだと考えておられます。
たとえば、フルマラソンはかなり大変だけど、自分の記録を更新したい人や、完走に大きな意味を感じている人なら、喜んでトレーニングを続けますな。逆に、書類を入力する作業は楽ではあるものの、そこになんの意味も感じられないと、ひどく疲れて感じるものです。
この例からもわかるとおり、努力が苦痛に感じられるかどうかは、使ったエネルギーの量だけで決まるわけでなし。「努力によって得られる報酬や情報が、支払うコストに見合うか?」って観点がめっちゃ重要なわけです。
では、私たちの脳は、努力のコストをどのように見積もっているのか。研究チームは、過去の研究をもとに、努力のコストを大きく8種類に整理しております。
- 代謝コスト:身体のエネルギーをどれだけ使うか
- 認知的コントロール:どれだけ頭を使い、集中する必要があるか
- 時間:作業の完了までにどれぐらいかかるか
- 時間的プレッシャー:締め切りや焦りがどれぐらいあるか
- 身体的・精神的疲労:どれだけ消耗しそうか
- 痛み:身体的な苦痛が発生するか
- フラストレーション:ほかの行動を諦める必要があるか
- リスクと脅威:失敗や危険への不安があるか
この考え方で大事なのは、これらのコストには客観的な部分と主観的な部分があるってとこです。
たとえば、作業にかかる時間や消費カロリーは、ある程度は数字で測れるはず。しかし、他方で「どれぐらいつらそうか」「どれぐらい不安か」「時間を無駄にした気がする」みたいな感覚は、人によって大きく違うでしょう。
同じように、30分のランニングでも、走るのが好きな人には「楽しい趣味」ですが、運動が嫌いな人には「長く苦しい作業」になるでしょう。それによって脳が下す判断も変わりまして、「この努力は割に合う」と感じれば行動を続けますし、「これ以上やっても得るものがない」と判断すれば、やる気が下がるわけですな。
あと、もひとつ興味深いのが、脳はお金や食べ物のような報酬だけでなく、「新しい情報が得られるかどうか」も重視しているってところです。この考え方は「アクティブ・インファレンス理論」などと呼ばれまして、生物は環境についての不確実性を減らすために行動する、と考えるんですな。要するに、私たちは「これをやったら何かわかりそうだ!」と思える課題には、努力する価値を感じやすいってことですね。
実際、6歳の子どもを対象にした過去の研究では、みんな簡単な課題を終えたときよりも、難しい課題を終えたときのほうが大きく笑う傾向が確認されているとのこと。さらに言えば、同じ作業を繰り返した場合よりも、初めての課題に取り組んだ場合のほうが笑顔が大きかったというから、子どもたちはラクな作業よりも、情報が増える作業を楽しんでいる可能性が高いっすね。
ここで難しい課題に子どもが楽しそうに取り組むのは、当然ながら、努力そのものが快感だからではなし。新しいことがわかったり、自分の能力を試せたりする「情報利得」が大きいからだってことであります。研究チームいわく、
楽しさは努力の少なさではなく、得られた情報の大きさに連動している。
ということで、ここらへんも「人間は努力を避ける生き物だ」と単純に考えるだけでは説明がつかないところですね。
ってことで、以上の話を踏まえて、このレビューから得られる知見を簡単にまとめてみると、
- 大事なのは、努力のリソース配分を考えることである!
みたいになりますかね。常に全力で頑張るのが正解でもなければ、できるだけ努力を避けるのが正解でもなし。得られる報酬や情報と、支払うコストを比べながら、力を入れる場面と休む場面を選び分けるのが大事だよーってことですな。
そのためには、なんらかのタスクに手を付ける前に、以下のような質問を自分に投げてみるのがよさげです。
- この作業によって何が得られるのか?
- その見返りは、時間や疲労に見合うのか?
- 新しい知識や経験は得られるのか?
- いま力を使うべきか、それとも温存すべきか?
- 上の8つのコストのなかで、いま自分は何を嫌がっているのか?(時間がかかりすぎるのか、不安が大きいのか、疲労が強いのか、それとも得られる報酬が曖昧なのか、みたいな)
ここらへんの質問の答えを探してみると、努力の投入量をうまく調整できるようになるんじゃないでしょうか。「努力をするか?しないか?」で悩む前に、「この努力にはどんな意味があるのか?」を考えるようなイメージっすね。努力を続けられないときも、脳がどのコストを高く見積もっているのかを確認すると、うまくいくことも多いんじゃないかと。
その原因がわかれば、作業を小さくしたり、意味を明確にしたり、難易度を調整したりすることもできますからね。これは私もやってみることにします。


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