数学ができるようになりたい!と思ったら空間スキルのトレーニングをすればいいんじゃないの?というメタ分析
その昔、「めっちゃ頭がよい人って”立体パズル”が上手いんじゃない?」みたいな話を書いたことがありました。周囲から「頭がいいなー」と思われやすい人を調べると、なんだか立体系のパズルがやたらうまいらしいんですよね。
で、似たような話は昔からよく言われてまして、脳内で3Dの立体を自由に操作するスキルが高い人ほど、数学がよくできるって傾向が報告されてるんですよ。たとえば、
- 空間スキルと数学の達成度の関係を調べた研究では、すべての教育レベルの生徒において、両者が有意に相関していることがわかっている
- 空間を記憶するワーキングメモリの能力は、子どもの計数課題や数列推定のパフォーマンス改善に関係している(Geary, Hoard, Byrd-Craven, Nugent, & Numtee, 2007)
- 頭のなかで物体をぐるぐる回せる能力が高い中学生ほど、数学的な推論の能力も高い(Delgado & Prieto, 2004; Lombardi, Casey, Pezaris, Shadmehr, & Jong, 2019)。大学生の場合は数学の適性と関係がある(Casey et al.1995)
- 空間スキルは、言語スキルや実行機能などの他のスキルを考慮した後でも、学生の数学の学習能力を予測できる
みたいなものがあります。いずれにせよ、脳内で立体を自由にコントロールできる人は、数学的な能力が高いんだ、と。
これは俗に「空間スキル」と呼ばれる能力で、日常生活でなんの役に立つかといいますと、
- 設計図をもとに家具を組み立てる
- ある場所から別の場所へ移動する
- 残った夕飯がどれだけタッパーに入るかを見積もる
- 車を狭い駐車スペースに収める
- VRゲームでコロコロ視点が変わってもついていける
- サッカーボールがどこに飛ぶかがわかる
みたいな感じっすね。現実と想像上の空間で物体の位置を整理したり、操作したり、推測したりといったスキル全般のことですな。
でもって、新しく出たメタ分析(R)では、「空間スキルはトレーニングで伸ばせるのか? そして、空間スキルがあがると数学の能力も上がるのか?」ってところを調べてくれてておもしろかったです。
これはカリフォルニア大学リバーサイド校などの研究で、過去20年間に発表された「数学と空間スキル」に関する論文を精査して、わりと質が高めだった45本の論文をピックアップ。これらの論文から関連データを抽出して、2つの統計解析を行っております。そこでわかったことをざっくり紹介すると、
- 空間スキルと数学の達成度のあいだには明確な関係性があった(これは従来から言われてたことですな)
- 問題のパターンを見抜く能力が空間スキルと数学スキルの関係に影響を与えていたが、それを除いても、ふたつの間には直接的な関係があった
- どんな年齢の人でも、空間スキルをトレーニングすれば数学スキルも伸びる可能性がある
だったそうです。空間スキルがトレーニングで伸ばせるってのは昔から指摘されてたんですが、これによって数学の能力も改善するかもしれないわけっすね。うーん、これは数学が苦手な私のような人間には良い話ですね。
それでは、空間スキルを高めるにはどうすればいいのか?って話ですが、バーゼル大学(R)などの調査を見てますと、
- ブロック遊びなどをして空間的な推論パワーを高める
- 建物の構造を言葉で説明して「空間言語」を鍛える(階段を登った先に踊り場があって、大きな吹き抜けの中空構造の……みたいな)
といったあたりは効果がありそうな気がしております。さらに、明確な証拠はないものの「おそらく使えるんじゃないかなー」と思えるのは、
- バスケやサッカーみたいにボールとプレイヤーの位置がコロコロ変わる競技をする
- ボルダリングみたいに、つねに環境と自分の空間配置に意識が向くスポーツをする
- 「マリオ64」とか「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」みたいなオープンワールドなゲームで遊ぶ
- 立体デッサンをしてみる
- 立体パズルにトライしてみる
などもよさげじゃないでしょうか。個人的にはOculusで3D系のゲームを定期的にやってるので、「これで少しは空間スキルが高まっているのかも……」とか希望を持っておりますが。