今週半ばの小ネタ:人に好かれる大事な要素、ベタインがスポーツに効く、タイプAは心疾患になりやすい説は嘘?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
人に好かれるキーワード、それは「予測可能性」
その昔、「上司や先輩にかわいがられやすい人ってのは予測可能性が高い!」みたいな話をしたことがあったんですよ。行動や言動に一貫性がある人は、「この人は次はこう言うだろうな」と予測しやすいので、そのぶんだけ相手への負担が少なくなり、結果として好感を抱かれやすい……といった内容であります。
で、新たな実験(R)もまた、「予測可能性が高い人は良い人間だと思われやすい!」との結論になってていい感じでした。
これがどんな実験だったかと言いますと、
- 1988人の米国人と81人のパプア先住民に協力を頼む
- トロッコ問題(大勢の人を助けるために1人を殺すべきか?を考えさせる問題)や、それに似た問題をみんなに出す
- このとき、「大勢のために1人の人間を犠牲にすることを決めた人」と「決断できず行動できなかった人」の話を呼んでもらい、みんなに「どっちが道徳的だと思います?」と尋ねる
みたいになってます。かの有名なトロッコ問題について、「功利主義的な人」(大勢を助けるには1人を犠牲にするぜ!)と「脱責務的な人」(そんなの決められません!)を比べて、どんな印象を持つかを尋ねたわけですね。
そこでどんな傾向が見られたかと言いますと、
- 基本的には、「功利主義的な人」は「脱責務的な人」より「道徳的ではない!」と思われやすかった
- しかし、「功利主義的な人」の行動がより予測可能に見えるようにすると(以前から「俺は少数を犠牲にしても大勢を助ける!」と公言してたりとか)、「脱責務的な人」のほうが好まれる傾向がなくなった
だったそうです。つまり、トロッコ問題で「この人は道徳的だ!」と思われるかどうかは、その人の予測可能性の知覚に影響されるんだってわけですね。予測可能性ってのは、その人の発言や行動に一貫性があり、なにを考えているかが分かりやすいことを意味しております。
研究チームいわく、
より大きな利益のために小さなの犠牲をいとわない人々に対して、多くの人々は懐疑や嫌悪感を示す。その理由の一つは、そのような人々が主観的に予測不可能だと認識されているからだ。予測可能な人ほど、より道徳的に見えるのものだ。
とのこと。たいていの人は「ひとりでも殺すのはなぁ……」とためらうのが普通なので、「大勢を助けるには1人を犠牲にするぜ!」とすぐ決められる人は「この人は予測できない!」って印象を与えてしまうわけですね。
まぁこれは「トロッコ問題」っていう特殊状況について調べてるだけなんで、それ以外のパターン(めちゃくちゃサプライズでプレゼントをくれまくる人とか)の印象については不明であります。が、いずれにせよ予測可能性ってのが人に好かれるキーワードであるのは間違いないので、 気にしておかれると良いのではないかと。
ベタイン、やっぱスポーツに効く?
ここ数年で「意外といい感じかも?」と言われるサプリがベタイン。近年は「ベタインで体脂肪が減るかも?」ってメタ分析もあったりして、ちょっとおもしろい存在なんですよね。
新たに出たデータ(R)もまたベタインの研究で、ここでは「アスリートの運動能力アップに効くか?」を調べてくれてます。
まずはざっくりデザインを見ておくと、
- 16歳以下のプロサッカー選手30人に協力を頼む
- みんなを「偽サプリ」または「1日2gのベタイン」を飲むグループに割り当てる
- 14週間後の運動パフォーマンスを測定する
みたいになってます。実験の期間中、参加者は週5で1回90分のトレーニングプログラムをこなしたとのこと。そのうち1回は筋トレ系のエクササイズだったそうな。
すると、ざっくりした結果を言いますと、ベタインを飲んだ場合は、
- 最大酸素摂取量が4.9%改善!(プラセボは1.4%)
- ジャンプ力が17.1%改善!(プラセボは5.5%)
- スプリントタイムが-5.8%に!(プラセボは+0.8%)
ということで、「おー、なかなかいいじゃないすか!」と個人的には思いましたね。全体的にそこそこの改善を見せてるんじゃないでしょうか。
では、実際に私がベタインを飲むかと言われれば、「んー、もうちょっと様子見したい」ってとこなんですが、積極的に運動をしてる人なら試してもいいのかなーぐらいには思ってきました。
タイプAは病気になりやすい!ってデタラメじゃないの?説
タイプAとかタイプBみたいな考え方を知っている方は多いでしょう。1950年代に提唱された考え方で、
- タイプA=競争的、野心的、攻撃的な性格で、心疾患を発症しやすい
- タイプB=マイペース、リラックス、非攻撃的な性格で心疾患になりにくい
- タイプC=周囲に気をつかってネガティブな感情を抱え込む性格で、がんになりやすい
みたいなやつで、わりと広く受け入れられている説かと思います。1980年代には実証研究もはじまりまして、一部の調査では「タイプAやBの考え方は、コレステロールや血圧の6倍以上の予測性がある」なんて結論が出てたりします。なんだかうさんくさい感じもしますけど、いずれも有名なジャーナルに掲載されたものだったりします。すごいもんですなぁ。
が、近ごろ、これらの研究に思いっきり疑問をぶつける調査(R)が出まして、「まじか……」って気分になったことでした。これはキングスカレッジの委員会が、過去のタイプAやタイプB研究を調べ直したもので、概要をまとめるとこんな感じです。
- 過去の研究は、実験の倫理基準を守っている形跡がなかった(癌とか心疾患について調べているので、ここらへんは重要なポイントになる)
- 1980年代後半に発表された研究は、データセットの妥当性に問題がある(つまり、わりと雑なサンプルを使ってる)
- そもそも、他の医学研究で得られた常識からは考えられないレベルの効果量を示しており、どうにも信頼できづらい
- というか、この研究を通したジャーナルの編集者は猛省したほうがいいよ
……んー、厳しい。確かに「6倍以上の予測性」ってのは個人的にも「さすがに外れ値では?」とか思ってましたが、全体的にバッサリな感じっすね。もちろんこの報告をもってタイプAやBの考え方が否定されたってわけでもないんですけど、大きなクエスチョンがついたのは間違いないっすね。行動医学もいろいろ大変だ……。