大成功を収めるためには「若いころからひとつのことに打ち込んだほうがいいの?」を調べた割と精度の高い話
「スポーツは若いうちからひとつに絞ったほうがいいの?」って問題を深堀りした系統的レビュー(R)が出ておりました。
スポーツは若いうちから1種目に絞るべきだ!って話は昔からありまして、たとえばタイガー・ウッズなんかは2歳からゴルフをはじめて、13歳でジュニア世界選手権を制覇してたりするわけです。こういう例を見ると、やっぱ小さい頃から英才教育をしたほうがいいような気がするわけですね。
が、一方ではマイケル・ジョーダンとかマイケル・フェルプスみたいに、子供の頃はいろんなスポーツをしていて、大人になってからはメインのスポーツに集中してトップになったケースも少なくないんですよ。これはどっちがいいか困っちゃう問題っすね。
ってことで、この新しい系統的レビューでは「どっちのほうが成果を上げやすいの?」ってのを検討してまして
- 15カ国の6,000人以上のアスリートを対象とした51件の研究結果をまとめる(そのうち43%のアスリートが個人スポーツ、57%のアスリートがチームスポーツ)。さらに、国際大会でメダルを獲得した400人以上のアスリートも対象にしている
って感じで大きな結論を出してくれてます。その結論がどうだったかと言いますと、
- 世界トップクラスのジュニア選手(10代)の多くは、シニア選手になっても成功しづらい傾向がある
- 世界トップクラスのシニア選手の多くは、ジュニアレベルのチャンピオンではなかった
- ジュニアレベルで成功するためには、選手は若いうちから特定のスポーツに集中して、その練習に多くの時間を費やしたほうがいいっっぽい
- 逆に、世界レベルのシニアアスリートはメインのスポーツを始めるのが遅く、そのの練習に費やす時間が少なく、重要なマイルストーンに到達するのも遅い傾向があった
だったそうです。要するに、タイガー・ウッズみたいに子供のころから特定のスポーツをはじめて、そのまま成人後もトッププレイヤーでいられるケースはほとんどないわけですな。逆に世界に通用する成人アスリートの多くは、人生のかなり後になってから特定のスポーツに手を付け、そのうえで最高レベルの成功を収めることが多いらしい。ほほー。
ちなみに、これらの傾向は水泳やランニングみたいに測定可能なスポーツだけでなく、サッカーやバスケットボールなどのチームスポーツ、フェンシングやレスリングなどの格闘技、ダイビングや体操などの芸術的なスポーツなど、あらゆる種類の競技に当てはまったんだそうな。ここらへんもおもしろいですね。
残念ながら、このレビューでは「一流アスリートほど子供のころはいろんな競技をしている理由」については深堀りしてないんですけど、研究チームはいくつかの仮説を提示してくれてます。
- 子供の頃に複数のスポーツに参加することで、特定のケガがなくなるし、心理的な燃え尽きの可能性が低くなるからでは?
- 多くのスポーツを経験することで、若いころに自分の才能をよりよく見極めることができるからでは?
- いろんな経験を積んだことにより、スポーツ選手としての土台が固まったからでは?
どの考え方も非常にありそうな感じですが、個人的には「若いうちにいろいろやっとくと才能の見極めがうまくいく」ってとこに説得力を感じた次第です。
さらに余談としては、この系統的レビューではスポーツしかあつかってないものの、先行研究でによれば学術分野にも同じような現象が見られるらしい。本稿ではドイツの研究者であるアニータ・グラフ先生の研究が取り上げられていて、
- 1945年以降の物理学、化学、経済、医学の分野でノーベル賞を受賞したドイツ人48人のデータを集める
- みんなの経歴を調べてどんな共通点があるのかをチェックする
って調査を行ったところ、48人のノーベル賞受賞者のうち42人が過去に複数の分野を学んでいたり、受賞した分野以外のフィールドでも仕事をしていたりといった経験を持ってたんだそうな。と同時に、ライプニッツ賞(ドイツの最高科学賞)の受賞者と比べたところ、ノーベル賞を受賞した人たちは正教授の地位や賞を得るまでの期間が長く、若くして奨学金を受ける可能性も低かったんだそうな。
このような現象が認められたのも、やっぱり若いころにいろいろやったおかげで芽が出るまでの時間がかかったものの、それまでの積み重ねが大人になってから役に立ったんでしょうな。ってことで、時間はかかってもいいから最高レベルの成功を収めたい!みたいな人は、ひたすらいろんな経験をしてみたほうがいいかもしんないですよー、ってことで。