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今週半ばの小ネタ:相手との仲の良さを一発で判断するには? VR酔いにはガム? 加害者の逆ギレはなぜ起きる?


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

    

 

 

相手との仲の良さを一発で判断できる指標とは?

会話中にお互いの応答が早いほど仲が良い!」みたいな研究(R)が出ておりました。まずは研究チームの問題意識から見てみると、

 

ある人とはうまくいくのに、別の人とはうまくいかない、という経験は誰にでもあるだろう。

私たちは、人々の会話の中にある何かが、お互いの親密さの判断するサインになるのではないかと考えた。

 

ということで、特定の人とうまい関係性を結べているかどうかを判断する指標があるのではないか?ってとこを調べてくれたわけですね。

 

 

ってことで研究チームは、66人の参加者にそれぞれ10種類の会話をするように指示。「見知らぬ人と会話をするパターン」や「親しい友人と会話するパターン」など、複数の状況を設定して、好きなようにコミュニケーションを取ってもらったんだそうな。

 

 

そのうえで、全員の会話を録音したところ、

 

  • 応答がよりスピーディで会話のギャップが短いときほど、その二人は社会的なつながりの強さを感じている傾向があった
  • 社会的なつながりに関するシグナルは、見知らぬ人が相手でも、親しい友人が相手でも変わらなかった(もちろん、親しい友人との会話は自然とよりスムーズになる)

 

だったそうです。要するに、一人の会話が終わってから次の会話に移るまでの時間が短いほど、二人の仲の良さを予測することができたってことですな。具体的には、会話の間隔が4分の1秒以下であれば、それは2人がより深い社会的つながりを楽しんでいるというサインになってたそうな。

 

 

研究チームいわく、

 

会話中のターンの間には、平均して約4分の1秒のギャップがあることがよく知られている。お互いの言葉が終わろうとしている瞬間を判断できた時に250ミリ秒のギャップは縮まり、それが2人の親密さを示す指標となる。

 

ってことなんで、とりあえず相手との会話ギャップに注目してみるのは、互いのつながりを判定するうえで良い指標かもしれないっすね。

 

 

 

VR酔いにはガムだ!ガムを噛むのだ!

わたくしオキュラスクエスト2の愛用者でして、近ごろはゲームだけでなく、運動(FitXRとか)やら瞑想(Guided Meditation VRとか)もVRで行ってたりするわけです。ちょっと前はVRの運動アプリってロクなものがなかったんですけど、「FitXR」などはボクササイズからHIITまで対応していて、上級コースだと普通に心拍数が180まで届いたりするので非常に助かっております

 

 

が、ここで問題になるのがVR酔いで、スキューバダイビングの後は2日寝込むぐらい酔いやすい私としては、かなりの足かせになってるわけです。「FitXR」みたいに自分が移動しないアプリなら無問題なんですが、積極的に自キャラが移動するようなゲームだと5秒で即死しちゃうんですよね……。

 

 

が、新しい研究(R)は、「フレーバーガムを噛むだけでVR酔い対策になるぞ!」って結論でして、非常に勇気づけられた次第です。

 

 

これは77人の健康な成人を対象にした試験で、ヘッドマウント型のVRセットを使って15分間の救助ヘリシミュレーションを行うように指示。その際に、あるグループにはペパーミント味のガムを与え、別のグループにはジンジャー味のガムを与え、そしてまた別のグループにはガムを与えなかったんだそうな。

 

 

でもって、フライト中に感じた気分の悪さを1分ごとに口頭で報告してもらったところ、

 

  • ペパーミントまたはジンジャーのガムを噛んでいたグループは、フライト中の酔いのスコアが有意に低かった!
  • また、ガムを噛んだ人は飛行後の映像酔い評価でも、方向感覚の喪失が少ないと報告した!

 

だったそうです。ちなみに、どちらのガムでも酔い防止の効果はあったんだけど、「このガムはうまい!」って評価が高いほど、映像酔いの症状が軽くなる傾向があったんだそうな。つまり、ガムの味覚によってポジティブな感情が生まれて、それが気分の悪さをやわらげたのかも?ってことですな。

 

 

ただし、研究チームは他のメカニズムも考えていて、

 

  1. 一般的に、乗り物酔いってのは、目から入る信号と頭の動きの不一致によって起きると考えられている

  2. しかし、ガムを噛んで乳様突起(耳のすぐ下と後ろにある頭蓋骨の部位)を物理的に刺激すると、脳が「これはガムを噛んだことによる動きなのだ」と考えて、一時的に信号の不一致を無視するようになる

  3. 結果、脳は目から入ってくる情報だけに頼るようになり、感覚的な衝突が少なくなって映像酔いも少なくなる

 

って理論も提唱しておられます。ガムで脳の信号をダマしているわけですね。おもしろいなぁ……。

 

 

まだメカニズムがはっきりしていないので、なんとも判断しづらい状況ではありますが、ガムによってVR酔いを抑えられる可能性はありそうなんで、さっそく試してみることにします。

 

 

 

加害者、被害者が許してくれないと「自分は被害者だ!」と思いがち

叩かれた加害者が逆ギレする」って状況はネットなどでよく見る現象ですが、これについてあらためてちゃんと調べた研究(R)が出ておりました。

 

 

これはクイーンズランド大学など研究で、だいたいの実験デザインはこんな感じです。

 

  1. 参加者に「誰かに悪いことをして、その後で心からの謝罪をした体験を思い出してくださいねー」とお願いする

  2. その後、参加者の半分には被害者が許してくれた状況を、もう半分の参加者には被害者が許してくれなかった状況を思い出してもらう

  3. そのうえで、被害者の反応が「どれだけ常識に反していると思うか」「どれだけ自分の尊厳を脅かしたと感じたか」「どれだけ自分が被害者であると感じたか」「謝罪をどれだけ後悔したか「謝罪をした相手とどれだけ和解したいと思ったか」などと調べたんだそうな

 

ということで、被害者の許しがあるかどうかで、その後の加害者のメンタルがどう変わるかをチェックしたわけですね。

 

 

すると、その反応はおおかたの予想どおりでして、

 

  • 被害者から許されなかった人は、許された人に比べて、相手の対応を「常識的じゃない!」とみなし、「自分の尊厳が脅かされた!」と感じた
  • その結果、許されなかった人は、許された人よりも被害者意識が強くなり、相手と和解したい意思も弱まり、謝罪をしたことを後悔するようになった

 

だったそうです。この結果は追加で行われた2研究でも再現されていて、どのようなシチュエーションにおいても、「ヒドいことをした相手が許してくれなかった!」という状況に置かれた人は、やっぱり「ヒドい目に遭ってるのは自分だ!」と思うようになったんだそうな。「どのツラ下げて逆ギレしてるんだ!」って感じですが、私のなかにも似たような心理は確実に存在してまして、加害者が持つ被害者意識の問題って難しいですなぁ……という。

 

 

研究チームいわく、

 

謝罪は「被害者の手に力を取り戻す」行為であり、被害者は許すか恨むかを選択することができる。その代わり、加害者はコントロール能力を失うことになり、許しが得られた場合にしか回復することができない。

 

それゆえに、罪を許してもらえないことは自分の尊厳を脅かすものと見なされ、自分がその状況の犠牲者であるという意識につながっていく。この心理は、例えば、和解の可能性を下げるなど、より悪い結果につながる可能性があるだろう。被害者が加害者を許しそうにない場合は、和解できない可能性を軽減するために他の戦略を行使する必要があるだろう。

 

とのこと。確かに話がこじれる時の心理ってだいたいこんな感じですが、だからといって被害者の人に「許してあげた方がいいよ!」と無責任に言うのも問題があるわけで、こりゃあムズい話ですな。

 

 

事実、この研究では、「先行研究だと、加害者が『自分の謝罪を受け入れろ!』と被害者に社会的な圧力をかけるケースが多いよ!」とも報告してまして、いよいよ事態は難しくなっていくわけであります。うーん。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。