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運動で脳は育たない? 『本当に脳に効く運動』とはどのようなものなのかをチェックしてみよう!

 

運動をすれば脳が若返る!」って話を聞いたことがある人は多いはず。 有酸素運動が脳の健康を促進し、加齢による認知機能の低下を防いでくれるってのは、長年にわたって健康科学の世界で広く言われてきたことであります。

 


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ただ、2023年に発表されたメタ分析(R)は、この常識に軽い物言いをつけてまして、

 

  • 「運動が脳を賢くする」という仮説を支持する証拠は驚くほど弱い!

 

なんて指摘をしてるんですな。「脳を鍛えるには運動しかない!」なんて本もありますが、実際にはまだそこまで確立した知見でもないわけですな。

 

といっても、個人的には「やっぱり、運動は脳を育てるだろう」と思ってまして、それというのも最近は「脳に良い運動には特徴がある」って知見が出てきたからです。要するに、運動ならなんでもかんでも脳に良いってわけじゃないので、その点で複数のデータでメタ分析を行うと、「あれ?意外と運動の効果って薄くない?」みたいな結論になりがちなんじゃないかと思ってるわけですな。

 

それでは、どんな運動が脳に良いのか?ってことで、最新の研究では「脳を鍛えたいならVO2max(最大酸素摂取量)に着目せよ!」って視点が提示されてておもしろかったです。

 

まず前提をおさらいしておくと、VO2maxってのは「1分間に体が取り込める最大の酸素量」を指しております。要するに、「どれだけ効率よく酸素を使って運動できるか?」を示す指標だとお考えいただければよいでしょう。一般的には、VO2maxが高いほど心肺機能が優れており、持久力があるって意味になります。

 

なので、VO2maxってのは、単に身体機能の高さだけではなく、いろんなことがわかる指標としても使われてたりします。たとえば、過去の研究では「VO2maxが高い人ほど寿命が長い!」なんて報告されてまして、VO2maxが高ければ高いほど死亡リスクが低下するって関係が見られたんだそうな。長寿を測る指標として、VO2maxってのはめっちゃ使えるわけですね。

 

では、ここでどんな調査が行われたのかをチェックしてみましょうー。

 

 

研究①:VO2maxが高い人ほど脳機能が優れている

最初に紹介するのは、65~80歳の健康な成人648名を対象にした研究(R)で、みんなにトレッドミルで走るように指示し、VO2max測定+5つの認知機能テストを行ったんだそうな。具体的には、

 

  1. エピソード記憶(出来事を思い出す能力)
  2. 処理速度(情報を素早く処理する能力)
  3. ワーキングメモリ(短期間の記憶保持力)
  4. 実行機能・注意制御(計画を立てたり、注意を維持する能力)
  5. 視空間認識能力(物の位置関係を把握する能力)

 

の5つを測定してみたところ、「VO2maxが高い人ほど、すべての認知機能テストで成績が良い!」って結果だったらしい。特に、処理速度とワーキングメモリで強い相関が見られたようで、これはかなり嬉しいポイントじゃないかと。

 

この研究のポイントは、VO2maxという客観的な指標を使ったことでして、これまでの研究では「運動してますか?」という自己申告データに頼るものが多かったので、どうにも信頼性に欠けてたんですよ。しかし、VO2maxのような生理学的なデータを使うことで、より正確な分析が可能になったわけです。

 

 

研究②:VO2maxが高いと脳の萎縮を防げる?

でもって、お次はテキサス大学サウスウェスタン医療センターなどの研究(R)で、こちらは22~81歳の男女172名を対象にしております。

 

ここで研究チームは「VO2maxが高い人ほど加齢による脳の萎縮が少ないのでは?」って仮説を立ててまして、「VO2max測定+MRIによる脳の構造解析」って組み合わせで調査を進めたんですな。そこで何がわかったかと言いますと、

 

  • 脳全体の灰白質の量や皮質の厚みには有意な関連が見られなかった
  • しかし、「右上頭頂葉(右側の頭頂部)」に注目すると、VO2maxが高い人では加齢による萎縮が見られなかった

 

って結果だったんだそうな。「右上頭頂葉」ってのは、流動性知能(新しい情報を素早く理解し、適応する能力)に関係する領域でして、加齢とともにこの部分が萎縮すると、柔軟な思考や問題解決能力が低下する可能性があるんですよ。なので、この結果は「VO2maxの維持が、加齢による認知機能の低下を防ぐ可能性がある!」ってことを示しているわけです。

 

ということで、ここまでの研究結果を見ると、「脳にとって大事なのはVO2max!」って感じがするわけです。つまり、いくら運動をしていてもVO2maxが上がらなければ、あんま意味がないのかもしれんですな。

 

もっとも、これらの研究は「座りがちな生活をしている人たち」を被験者にしているので、一定のところまでVO2maxが上がったらあんま意味がない可能性もあるんでご注意ください。簡単に言いますと、

 

  • まったく運動をしない人が運動を始めると、脳に良い影響がある可能性が高い

  • しかし、ある程度の運動習慣がある人がさらにVO2maxを高めても、劇的な変化は期待しにくいのかも

 

ってことですね。まあ、過去の研究では、トップアスリート(VO2maxが55 ml/kg/min以上)と一般人(VO2max 38 ml/kg/min)を比べたところ、脳の構造に明確な違いが見られたってことなんで、アスリートレベルまでVO2maxを高めればまた話は違うのかもですが。

 

いずれにせよ、話をまとめると、「ただ運動するだけ」では脳は成長せず、「VO2maxを高めるような運動」のほうが重要だと言えそうであります。VO2maxを向上させるための運動としては、

 

  • HIIT(高強度インターバルトレーニング) 例:全力ダッシュ30秒+休憩90秒を8セット
  • テンポラン(一定ペースで長めに走る) 例:ややキツいペースで20分間ランニング
  • 長時間の持久運動(週1~2回) 例:1時間以上のジョギングやサイクリング

 

みたいなものがありますんで、とにかく「脳の健康を守るためには心肺機能を鍛える!」と考えたほうがわかりやすいかもしれないですな。自分もがんばろう……。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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