人生から選択肢を減らすほど人生は有意義になる「中年期の哲学的ガイド」#2
https://yuchrszk.blogspot.com/2022/02/2_0266354096.html
前回に引き続き 「中年期の哲学的ガイド(Midlife: A Philosophical Guide)」って本の要点まとめです!今回は、「長期的な目標は良いのか悪いのか問題」と「人生の選択肢は多い方が良いのか問題」に関する見解を見てみましょうー。
長期的な達成にこだわると死ぬ
- 「幸福より意味」は複数のデータで支持された事実だが、なかには「他人のために働いているのに幸福でない」という人は一定数が存在する。例えば、育児や地域活動など、他人のためにたくさんのことをしているのに、それでも助けにならないというケースである。このようなケースでは、おそらく間違った種類の活動に全力で取り組んでいるのが問題なのだと考えられる。
- 他人のために動いて満足を得られない人は、シンプルに「長期的な達成」や「長期的なメリット」に意識が向き過ぎていることが多い。「将来の孤独死を防ぐぞ!」や「いまは耐えて10年後に大成功だ!」などと長期的なことにばかり時間を費やしていると、その瞬間ごとの楽しみは減ってしまう。そのため、このようなケースでは、もっと「その場で喜びを感じられること」に時間を割くのが解決策になりやすい。
- もちろん目標自体はすばらしいものであり、満足度の高い人生には必要不可欠なものだが、最終的な結果のためだけに目標を追いかけると大変なことになってしまう。もし目標を達成できなかったら一気に人間は悲しい気持ちになるし、達成したらしたで次の目標が必要になり、目標のトレッドミルを走り続けているような気分になるからである。
- この問題をどうにかするには、自分が「めちゃくちゃ楽しくはないが、それなりにその場で楽しめるもの」を増やすのが良い。
最終的なゴールではなく、プロセスそのものを楽しめるようなもの。
完成してからではなく、その瞬間に充実感を得られるもの。
このような活動の量を増やすのが重要になる。きれいな庭にしたいからガーデニングをするのではなく、庭いじりそのものが好きだからガーデニングをするように、その場でそこそこ楽しめるものならなんでも良い。
- 生活のなかではプロセスを楽しめない活動も存在するが、その場合はジョブクラフティングを行うのが良い。病院の清掃は楽しいものとは言いづらいが、自分自身を「清掃員」としてではなく「病気の人が良くなるのを助ける」チームの一員として見ている清掃員は、自分の仕事をより意味のあるものと感じ、より楽しむことができる。
人生から選択肢を減らすほど人生は有意義になる
- 中年期になると、「なんだか閉塞感があって……」といった問題を訴える人は少なくない。若い頃に比べて選択肢が減ったと感じられ、窮屈な一本道を走らされているような感覚に悩まされるケースである。
このような感覚は、人間が「選択肢がある」状態に惹かれやすい性質を持つのが原因である。若いころはたくさんの選択肢があるため、可能性が無限であるかのように感じやすく、「私は選択肢がある」という感覚を持ちやすい。しかし、大人になると少しずつ可能性の幅がせまくなり、選択肢の減少に直面してしまう。
人生にはトレードオフ(これを選べばあちらを失う)が付き物だが、人間はトレードオフによって選択肢が減流のをことのほか嫌う。それは、トレードオフが可能性の減少を意味するからである。
- 2001年に行われた調査では、消費者に「どの車を買うかを決める」というタスクを指示した。その結果、研究者は「意思決定の際にトレードオフに直面した人ほど不幸な感覚が増して優柔不断になった」と結論づけている。この結果は確固たるもので、似たような研究は非常に多い。
- 当然ながら、多くの人たちは常にたくさんの選択肢を求め、その中から最良の選択をしようと試みる。しかし、選択肢が増えるほど私たちは何も選べなくなり、最終的には人生の満足度が下がり続けてしまう。
しかし、多くの研究結果では、実際には、私たちは選択肢を減らしたときのほうが幸せになりやすい。選択肢をいたずらに増やすのではなく、とりあえず何かをひとつだけに決めてコミットすることで、脳が選択のストレスから解放されるからである。
もちろん、それは間違った決定である可能性もあるが、現実的には、人間の脳は「理由の後づけ」の天才なので、かなり賢くすべてを合理化してくれる(つまり、間違った選択でも「これでよかったのだ!」と思う理屈をすぐに考えてくれる)。
一方では、複数の選択肢を検討し続けていると、「私は最良のものを選んだのだろうか?」という再帰的なループにハマってしまい、人間の不幸は続くことになる。
- もっとも重要なことは、「複数の選択肢から選択すること」には、それ自体にすばらしい価値があるということである。複数の選択肢から特定のものを選ぶという作業は、「これは私にとって重要だ」ということを自分自身に伝える作業であるため、脳からストレスが消えやすくなる。
- ハーバード大学の幸福研究者であるダン・ギルバートは、何年にもわたって「選択肢を捨てて物事にコミットせよ!」と勧め続けている。そちらの方が人生の満足度は確実に高くなるからである。
しかし、それでも私たちはまだ「これがすべてなのか?」などとつい考えてしまうジレンマに直面している。当たり前だが、すべてを達成することなどできないので、本当の問題は「重要なことを達成できない」ことではない。本当の問題は、「重要な選択肢が多い」という考え方そのものにある。
まとめ
ってことで、「中年期の哲学的ガイド」って本の要点は以上です。個人的には、前回に引用したジョン・スチュアート・ミル先生の言葉が、現時点の幸福研究のポイントをビシッと射抜いてて「すげー」と思わされました。「人間の脳は『理由の後づけの天才』だから何を選んでも大差ない」ってのも、そうだよなーという。