AI時代に「人間の記憶力」はどうやって活かすべきか?という本を読んだ話
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『なぜ私たちは記憶するのか?(Why We Remember)』って本を読みました。著者のチャラン・ランガナート先生は、カリフォルニア大学デービス校の神経科学者で、25年以上にわたり記憶の神経科学を研究してきた方だそうです。
で、本書は、タイトルどおり「記憶力とはなにか?」をテーマにした一冊で、 単に「 物事をたくさん記憶する方法」とかではなく、 そもそも記憶力とは何のためにあるのかって 根本的なところ掘り下げていて非常によかったです。 これは邦訳が出るでしょうから、 興味がある方は そちらお待ち下さい。
ってことで、いつもどおり本書から勉強になったところをまとめてみましょうー。
- 記憶とは過去のことではなく、現在と未来のことである。というのも、大半の人は「“記憶”とは物事を覚えておくためにある」と考えるが、実際の機能は異なる。記憶の神経システムは、過去の出来事を思い出すために生まれたものではなく、私たちの脳が、不確実で変化し続ける世界の仲から役立つ情報を抽出するプロセスのことを意味する。私たちは記憶を、推論し、計画し、想像し、コミュニケーションし、アイデンティティを形成し、時間と空間を認識するために使う。
- 大半の人は、「私の記憶力はひどい」と嘆きがちだが、そもそも記憶は過去のためにあるのではないのだから、人の名前を思い出せなかったり、鍵をどこに置いたかわからなくなったり、数分前に話していたことがわからなくなったりしても落ち込む必要はない。記憶の研究で明らかなのは、私たちは過去のほとんどを忘れ去る運命にあり、日常的な忘却に対して不満や心配を 抱いても意味がないということである。
- 記憶を思い出すとき、私たちは過去を再現するのではなく、過去がどのようなものだったかを想像する。画家が自分の解釈を反映させて絵を描くように、私たちの脳は、 自分の信念、目標、視点によって記憶を形作ろうとする。 こうやって記憶を再構築するたびに、脳は記憶をいじくり回し、データを修正し続ける。
つまり、私たちの脳は、 間違った記憶を持ちやすいように設計されている。 しかし、これは必ずしも欠陥ではなく、私たちを取り巻く世界は常に変化しているので、その変化を反映させるために 行われる処理の結果である。
- 脳が記憶を改ざんしやすいのは 大問題のようだが、 一方では、トラウマや不快な感情をともなう経験を後から修正できるという意味にもなる。新しい視点を取り入れられれば、その記憶に対する気持ちを再構築でき、私たちは自らメンタルを改善し、将来への貴重な教訓として 生かすことができる。
- もう一つ神経科学の重要な教訓としては、「私たちの脳は間違いや困難から学ぶようにできている」という事実である。 人間の脳は、未来のために記憶をどんどん修正していく器官なので、 何度も何度もエラーを繰り返さないと、脳内のデータを 書き換えられないようになっている。
そこで 大事なのは、「エラー駆動型学習」の 考え方である。 多くの神経科学者は、「記憶を呼び起こそうと 頑張る作業」をストレステストのようなものだと考えている。 ここで記憶を呼び起こすのに苦労すればするほど、 人間の脳は、その記憶に必要なニューロンを つなぎ替え、次回はもっと簡単に呼び出せるように してくれる。
- エラー駆動型学習の 考え方から得られる教訓は、 私たちは受動的に暗記するのではなく、能動的に行動することによって学ばねば ならないということである。単に テキストを読んで勉強するよりも、模擬試験を受けた方が メリットが大きいのは、脳のこのような仕組みによるものだと言える。
この事実をもっと簡単に言えれば、「 私たちが最も学べるのは、挑戦を受けているときだ」と 表現できる。 そのため、 正しく学習するためには、成功にのみ報酬を与えるのではなく、ミスや失敗を常態化すべきである。習得を強調するのではなく、何かを学んだことを証明するのではなく、学ぼうとする努力を称えるべきだと言える。
- このような記憶の特性をうまく使うために、一番大事なのは「前頭前皮質」である。前頭前皮質があるおかげで、私たちは以下の行動が可能になっている。
1.雑念を取り除き、平凡な経験の中からも重要なディテールをより分けて記憶する。
2.効率的に 記憶するための 方法を うまく使えるようになる。
3.記憶する対象を批判的に考えて、 自分に役立つ情報を脳に送り込む。
4.次に何が起こるかを予測するために、リアルタイムで記憶を 使って予測する。
- ただし、残念ながら、前頭前皮質は加齢とともに衰えやすい部位のひとつであり、マルチタスクをしたり、ストレスを感じたり、睡眠不足になったりすると、 すぐに機能が悪化してしまう。 その他にも、糖尿病や高血圧のような身体的な問題や、うつ病やPTSDのような精神的な問題でも機能が低下する。
これらの問題は、 エクササイズやマインドフルネス 瞑想、注意散漫の排除(スマホの通知をオフにしたりとか)、補聴器の使用による感覚の問題の補正などによって改善できる。
- 現代の生成AIは、人間が作成した膨大な量のトレーニングデータを 学習することで機能する。対照的に、人間は、様々な場所に行き、様々な人々と交流する中で、生きた経験からトレーニングデータを得る。そのために、私たちはエピソード記憶を使って知識を更新し、新しい状況に素早く柔軟に適応できる。
エピソード記憶を最大限に活用するには、トレーニングのデータを多様化するのがベストである。つまり、 頻繁にいろいろな場所に行き、 いろいろな考え方を持つ人々と接することで、より豊かなエピソード記憶を形成することができる。
- 逆に、 いつも同じ場所や同じ人々と交流していると、私たちの記憶は貧弱になる。生成AIの時代には、人間の創造性や革新性がいよいよ重視されるのは 間違いなく、多様なソースから社会的 コミュニケーションやメディアに触れることで、 より多くの恩恵を受けるようになると 考えられる。
多様な人々やアイデアに触れないと、私たちは 思わぬつながりを発見し、エピソード記憶を組み合わせて、部分の総和を超越した想像力豊かな作品を作り上げることができない。