「原始人は糖質制限食で暮らしていた!」のウソ
古代の人類は糖質制限食だった?
こないだイヌイットは糖質をとってますよー って話を書いたところ、「でも人類はずっと糖質制限食だったんじゃないの?」といった疑問をいただきまして。人類は狩猟採集時代には肉をメインに食べてきたんじゃないの?って話ですね。
この問題については、以前に「人類の頭と体は『糖質』のおかげで発達してきた」って論文を紹介してるんですが、やっぱ「原始人=肉食」みたいなイメージは強いみたい。なんでですかね。ギャートルズのせいでしょうか。
実際、つい最近も江部先生が以下のようにコメントしておられました。
人類は狩猟・採集時代の700万年間は糖質制限食です。 穀物食(高糖質食)は農耕後の1万年間だけです。 どちらが人類にとって自然な食事であるかは明白です。(1)
って、江部先生ばかり引き合いに出して申し訳ないんですけど、他意はございません。なんせ影響力が大きい方なもんですから。
人類の歴史では肉のほうが新参者
で、人類が糖質制限食で生きてきたってのは明確に間違いです。というのも、2000年代から原始人の化石の分析が進みまして、人類は数百万年にわたって炭水化物を中心に生きてきた証拠がガンガン見つかってるんですよ。
そのへんについては、ダートマス大学の人類学者であるナサニエル・ドミニー博士が2008年のレビュー論文(1)でまとめてくれております。
これによれば、まず具体的に原始人が何を食べてたかを判断するには、「同位体分析」って方法を使うそうな。原始人の歯や骨を調べて、食品が残す炭素や窒素の痕跡をチェックしてるんですね。
その種類をざっくりわけると、
- C3植物:ナッツ類、ベリー類、葉物野菜、温帯果樹など
- C4植物:乾燥地帯で育つ草、根菜類、種子類、穀物など
みたいな感じ。これを調べれば、どの時代にどれぐらいの炭水化物を食べてたかがわかるんですな。
この手法に加えて、窒素の同位体分析や糞便の化石を調べれば、どれだけ動物からタンパク質を摂ってたかなどもチェック可能。おかげで現在では、人類の食事の歴史に関する大まかな見取り図ができあがっております。
原始人と炭水化物の歴史に関しては「私たちは今でも進化しているのか?」や「人体600万年史」にくわしくて、ざっくり紹介すると、こんな感じ。
- 440万年前:だいたい人類がチンパンジーから枝分かれしたぐらいの時代。このころの食生活はほぼチンパンジーと同じで、大量のフルーツやナッツ、葉物野菜を食べていた模様。根菜とかはあんま食べてなかったっぽい。
- 300万年前:根菜などの割合が増加。この頃から地面を掘り出して、根っこや茎を食べるケースが多くなったみたい。もしかすると牛のような反すう動物を食べ出した可能性もあるけど、明確な証拠はまだなし。
- 250万年前:肉を食べ始めたという証拠がハッキリ出てきた時代。ここから50万年かけて肉の消費量が増えていく。
- 150万年前:ついに人類が火を使い始め、肉と根菜を料理できるように。おかげで栄養の吸収率が高まり、さらに脳が大きくなる。メインの食材は根菜と肉。
- 20万年前:新人(ホモサピエンス)登場。相変わらず主食は根菜と肉。
- 1万年前:農業の誕生。穀物の摂取量がやたらと多くなる。
というわけで人類の歴史をさかのぼれば、どっちかといえば肉のほうが新参者。根菜、フルーツ、野菜のほうが定番だったと申せましょう。
結局は肉も炭水化物も食べるのが人類にとっては一番自然
ちなみにドミニー博士によれば、古代の人類は以下のような食材をメインに食べてたらしい。
こういった植物を、1日中クチャクチャと噛んで消化してたんだそうな。うーん、大変。
そんなわけで、以上の話をまとめると、
- 初期の人類ほど大量の植物を食べていた(=つまり原始人が糖質制限食だったはずがない)
- でも肉を食べるのも大事(重要なエネルギー源だったのは間違いないので)
- 要するに、肉も炭水化物もちゃんと食べるのが人類にとって一番自然!
という感じ。とても当たり前の結論なんですが、いまだに「原始人は肉食!」みたいなイメージは根強いみたいなんで、まどわされないようにしたいものです。