今週末の小ネタ:鍼治療とか指圧って不眠に効く? 太極拳で睡眠って改善する? MCTオイルって本当に脳の機能が上がる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
鍼治療とか指圧って不眠に効くの?
「眠れない!」という問題に悩む人は多く、いまんとこはお薬と心理療法を使ってどうにかするのが定番ですね。しかし、そのほかにも「代替医療」と呼ばれる手法がいくつかありまして、「それなりに見込みがあるのでは?」と言われてるんですよ。具体的には、
といったサプリ系の手法や、
- 鍼治療
- 指圧
- ヨガ
のような物理的な手法が定番ですね。これらが効いてくれれば、睡眠の問題を抱えている人には、かなり役立つはずであります。
ってことで、新しい研究(R)では、「代替医療がどれぐらい使えるか、がっつり調べたぞ!」という内容になっていて、非常にためになりました。これは35の試験をまとめた系統的レビューで、大人の睡眠の質が代替医療で改善するかを評価しています。ただし、認知行動療法、リラクゼーション療法、マインドフルネス、明るい光による治療、運動、アロマセラピー、メラトニンのような、すでに定評がある手法は取り除き、まだ効果がよくわからんものだけに的を絞っております。
で、分析の結果はこんな感じです。
- 指圧:4件の研究で指圧の効果が評価され、そのすべてが「指圧で睡眠の質が上がる!」と報告されていた。
- 鍼治療:7件の研究で鍼治療の効果が評価され、そのうち5件は「鍼治療は睡眠薬よりも優れていた」と報告した。また、1件の研究では、「鍼治療はプロの睡眠アドバイスと同じぐらいの効果があると報告。さらに別の研究では、鍼治療は一部の睡眠障害の改善にも役立つと報告していた。
- カヴァとバレリアン:3件の研究でカヴァとバレリアンの効果が評価され、そのうちの2件は睡眠の質に影響がないと報告した。1件の研究では、カヴァはプラセボよりも睡眠の質を向上させる効果があると報告された。また、バレリアンを単独で使ったばあい、6件の研究のうち3件で、「バレリアンは睡眠の質の改善に役立つ!」と報告している。
- 太極拳:5件の研究で太極拳の効果が評価され、そのうち4件が「太極拳は睡眠の質を改善する!」と報告した。1件の研究では、前立腺がんの放射線療法を受けている参加者の睡眠障害に、太極拳および運動が役立つと報告された。
- トリプトファン:3件の研究でトリプトファンの効果が評価され、そのすべてが睡眠の質の改善を報告した。
- ヨガ:7件の研究でヨガの効果が評価され、そのうち6件が「ヨガで睡眠の質が改善する!」と報告した。
ってことでして、こうして見ると、どの代替療法も「試すだけの価値があるんじゃないかなー」と思わせる内容になってますね。指圧、鍼、太極拳、ヨガなども、私が思ってたよりも「よい報告が多いんだなー」って感じですし。「以上の手法のうちどれがベストか?」みたいなことはわからんのですが、睡眠にお悩みの方はどれか試してみちゃいかがでしょうか。
太極拳で睡眠って改善するの?
さて、上の話ともつながるんですが、続いては「太極拳で睡眠は改善するの?」を調べたメタ分析(R)も見てみましょう。上述のデータでも、それなりに太極拳の効果が認められてますが、具体的にメタ分析として掘り下げた文献が出たのは初めてであります。
で、具体的にこのメタ分析では、過去に行われた「太極拳と不眠に関する研究」を調べ、21のRCTの結果を分析。睡眠に不満を持つ男女2,022人を対象に、「太極拳は睡眠の質を改善するの?」ってところをチェックしてくれてます。
ここで取り扱っている試験のうち12件は米国、4件は中国。さらにイラン、イタリア、日本、トルコ、ドイツで行われた研究が、それぞれ1件ずつふくまれております。すべての試験で、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)っていう定番のテストで測定され、実験の期間は12〜24週間のあいだ。でもって、すべてをひっくるめたうえで、太極拳の効果をチェックしてくれたんですね。
さて、分析の結果は、以下のようになりました。
- 全体の分析では、太極拳はプラセボよりも睡眠の質を改善した(PSQIで平均差-1.2)
- サブグループ分析では、教育や運動と比較した場合、太極拳は、いろんなタイプの試験で睡眠の質の向上が確認された。
ということで、こちらでもまた「太極拳はやっぱり睡眠の質があがるぜ!」って結論ですね。まー、個々のデータセットを見ていると、21の試験のうち、バイアスのリスクが低いものは2試験しかなく、16試験はかなり不明確だったそうなんで、今後の調査によっては「もう少し効果が低めに出るかも?」という気はしております。
その点は注意しつつも、個人的には「別に副作用もないだろうし、不眠に悩んでいるなら太極拳をやってみては?」って気持ちになりましたねー。
MCTオイルって本当に脳の機能が上がるの?
「MCTオイルが脳に良い!」みたいな考え方があるんですよ。たとえば「最強の油・MCTオイルで病気知らずの体になる!」などは、MCTオイルによって脳機能が改善する可能性を指摘してまして、「本当だったらすごいなー」って気がしてくるわけです。
なんでMCTオイルにそういう話が出ているのかと言いますと、
- MCTオイルは、一般的な脂肪と比べて、肝臓に運ばれやすく酸化されやすいという性質がある
- この特性により、MCTオイルを摂取すると、血流中のケトン体濃度が上昇する可能性がある
- ケトン体は脳のエネルギー産生を促進する
- それゆえに、MCTオイルを飲むとが認知機能が改善する!
みたいな考え方があるからです。これが事実かどうかはまだ謎ですけど、可能性としてはあり得る話なわけですね。
では、この考え方は正しいのか?ということで、新しい研究データ(R)は「MCTオイルは本当に脳に良いのか?」を深堀りしてくれています。これは6つの過去試験を分析した系統的レビューで、認知症のない高齢者(平均年齢66~86歳)238名を対象に、MCTの認知機能への影響を調べたんですね。ちなみに、6つの試験のうち5つは日本で行われたもので、「日本ってそんなにMCTの研究をしてたのか!」と驚きました。
では、結果を見てみましょうー。
- MCTオイルを飲んですぐに効果が出るかを試した試験のうち、1つの試験では90分後に2つの記憶力テストに改善が見られたが、もう1つの試験では、90分後および180分後の記憶力と認知機能に関するほとんどのテストに効果が見られなかった。
- MCTオイルを2週間使った試験では、2つの記憶力テストに効果が観察されなかった。
- MCTオイルを3ヶ月間使った試験では、14項目の認知機能テストに効果がないことが報告された。他の2つの試験は、両方とも認知機能への効果が報告されたが、レビューに含めるべきではないデータだった(認知症のない高齢者を対象とした研究を評価するのが目的なのに、どちらも認知症の成人がふくまれているっぽいので)。
ということでして、一部に「もしかしたら良いかも?」と思わせるデータがありつつも、全体的に見れば「まぁ期待しないほうがいいな……」って感じですかね。まぁ油が大事なのは間違いないですが、そううまい話はないよなぁ…。