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【質問】「人生では情熱を追い求めよ!」ってアドバイスは、なぜ間違いなんですか?

 


こんなご質問をいただきました。

 

こんな人生の成功アドバイスには従わないほうがいいよー」という記事を読みました。そこで疑問です。このなかに「情熱を求めるのはやめよう」という話がありましたが、もう少しくわしく知りたいです。別のサイトでは「情熱がある人は仕事ができる」という論文を見たこともあり、気になりました。

 

とのことで、コロンビア大学のプリミュジック先生は「人生で情熱を追うな!」と言っているが、その詳しいところを知りたいってことですね。確かに、世の中には「情熱がない人生なんて!」とか「情熱を持てる仕事を選べ!」みたいなアドバイスであふれてまして、「情熱を追うな!」と言われても困っちゃう人は多いかもしれません。

 

 

で、まず前提として、プリミュジック先生のような「情熱否定派」がいる一方で、「仕事で情熱があると幸福になれるよー」と示唆する研究(R)もあるんですよ。これは297人を対象にした調査なんですが、仕事への情熱を持っている人ほど、人生の満足度や幸福感が大きかったというんですな。こういう結果を見ると、やはり「人生では情熱を追うべきなのでは?」って気持ちになるわけです。

 

 

では、「なんで『情熱』に関するアドバイスには食い違いがあるんだろう?」って疑問がわきますが、そのへんについてはヤン・ヤヒモビッチ先生の研究(R)が、めっちゃ参考になるでしょう。この先生は、ハーバード・ビジネス・スクールで「情熱」について研究している方で、「仕事の情熱と人生」の問題をずっと追いかけているんですよ。ありがたいですねぇ。

 

 

ヤヒモビッチ先生の主張をざっくりまとめると、以下のような感じになります。

 

  1. 「情熱」とは見つけるものではなく育てるものなので、そこを間違えると死ぬ

  2. 「情熱」だけ持っていても仕事の生産性には関係ないので、そこを間違えると死ぬ

  3. 「好きなこと」より「大事なこと」のほうが重要なので、そこを間違えると死ぬ

 

要するに、「情熱」で仕事や人生の幸福を高めるためには、いろいろな条件をクリアにしなきゃいけないってことですね。なにごとにも良い面と悪い面はあるものなので、この見解には私も賛成であります。

 

 

 

1.「情熱」とは見つけるものではなく育てるものなので、そこを間違えると死ぬ

それでは、上記のポイントをもう少し深堀りしてみましょう。まずひとつめのポイントについて、ヤヒモビッチ先生の見解はこんな感じになります(R)。

 

  • 多くの人は、情熱は自分のなかに眠っているもので、あとはそれをいかに探すかだと思っている。このような考え方では、情熱は「あるかないか」の二択としてとらえられる。

 

  • しかし、「情熱は自分のなかに眠っているもの」と思うと、「あとは情熱を見つけるだけだ!」という考え方が生まれ、さらには「自分にとって最高に相性がよい職があるはずだ!」との考え方に行き着く。そのため、情熱をすぐにかき立ててくれる職業を探して、さまよってしまうような人がめちゃくちゃ多い。

 

  • 実際、過去の研究によれば、「情熱探し」をする人ほど、新しいチャレンジをしない傾向があり、ひとつのことに長く取り組まない傾向も確認されている。

 

  • ところが、現実には、仕事に対する情熱は、時間をかけて育っていくほうが普通であり、いきなり「これは情熱が持てる!」なんて状態になるケースはない。通常は、なんらかの仕事を続けるうちにスキル、自信、人間関係が増し、そのおかげで仕事に情熱を持てるようになるケースのほうが多い。

 

ってことで、うまく情熱を機能させたいなら、「情熱は育てるもの!」と考えておくのがよさげであります。これは「科学的な適職」でも書いた「好きを仕事にすると詰みやすいぜ!」って話と近いですね。

 

 

 

 

2.「情熱」だけ持っていても仕事の生産性には関係ないので、そこを間違えると死ぬ

ヤヒモビッチ先生が行った別の研究(R)では、こんな結果も出ております。

 

  • 情熱があるかないかは、仕事のパフォーマンスにそこまでの影響を与えない。というか、情熱があるほど仕事のパフォーマンスが低下するケースも珍しくない。

 

  • 情熱が仕事のパフォーマンスと関係しないのは、通常、人間の情熱は時間が経つにつれて衰えていくものだからである。そのため、情熱に重きを置いていると、情熱が少し下がっただけでも仕事のトラブルに弱くなり、目標を達成できなくなってしまう確率が高まる。

 

  • 一方で、情熱が仕事のパフォーマンスと相関するケースもある。それは、「情熱の高さ」が「トラブルへの強さ」と組み合わさった場合で、この条件を満たしたときは仕事のパフォーマンスが上がりやすいことがわかった。

 

要するに、情熱ってのは変動が激しい感情だから、いざ情熱が低下したときのために「逆境からすぐに立ち直る能力」を備えておかないとヤバいよーってことですね。まぁ、いくら情熱があろうがトラブル対応力が上がるわけじゃないので、情熱だけでは仕事の生産性は上がらないってのは事実でしょうな。

 

 

 

 

3.「好きなこと」より「大事なこと」のほうが重要なので、そこを間違えると死ぬ

もうひとつ、ヤヒモビッチ先生は、「『好きなこと』と『大事なこと』の区別をつけようぜ!」とも言っておられます。こちらもポイントのみまとめておくと、以下のような感じです。

 

  • 「好きなことを仕事にせよ」というアドバイスは、「情熱」を「やってて楽しいこと」や「やってて幸せになれること」だと考えている。ところが、博士の調査では、「好きなことに打ち込むぞ!」と思っている人は、そうでない人と比べて、仕事がうまくいかない可能性が高く、9ヵ月後に仕事を辞めちゃう確率も高かかった。

 

  • 『好きなこと』の代わりに、本当に役立つのは「大切にしたいことに集中すべし」というアドバイスである。このアドバイスは、情熱を「個人の価値観」「あなたが社会で成し遂げたいこと」と結びつけている。

 

  • 「大切にしたいこと」に集中する人ほど成功しやすいのは、このような考え方を持つ人は、情熱を追求する過程で避けられない試練を乗り越えやすいからである。上にもあるように、いかに情熱を持っていようが、「トラブルへの強さ」が備わっていなければ大きな効果は得られない。「情熱」を意味するドイツ語である「ライデンシャフト(Leidenschaft)は、もともと「試練に耐える能力」という意味を持っている。

 

ってことで、「好きなこと」よりも「大事なこと」に注意しないと、トラブルを乗り越えるパワーがわくよーって話ですね。確かに、大事に思えることに取り組むほうが、乗り越えるガッツはわくでしょうからねぇ。

 

 

ってことで、いろいろ書きましたが、おおまかにまとめれば「情熱を持つのは良いことだけど、使いどころを間違えると大変なことになるから気をつけよう!」ってとこですね。どうぞご注意あれー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。