「こんな人生の成功アドバイスには従わないほうがいいよー」というコロンビア大学の先生のお話です
「こんなキャリアアドバイスには従うな!」って話(R)を、トマス・チャモロ=プリミュジック博士がHBRに寄稿しておられました。
博士はコロンビア大学などの心理学教授で、「なぜ、「あんな男」ばかりがリーダーになるのか」などの本でおなじみの先生ですね。このブログでも「自分の自信と能力のバランスを把握するための「自信-能力グリッド」」というエントリで、先生の考え方を紹介したことがありました。
で、本稿は、トマス先生が昔ながらのキャリアアドバイスを撫で斬りにする内容になってまして、「科学的な適職」にも近い観点がいくつも提示されてておもしろかったです。先生が問題視しているアドバイスがどんなものかと言いますと、
- 自分らしくいこうぜ!:ありのままの自分でいたほうが周囲に認められるのだ!みたいな考え方
- 成果をあげるのが最強だ!:会社が求めるだけの成果を出していれば、こざかしいブランディングなどやることはないのだ!みたいな考え方
- 強みを活かすのだ!:弱点を治すのではなく、もともと得意なことを使うようにしよう!みたいな考え方
- 情熱を追い求めるのだ!:自分が好きなことや、やりたいことをやれば、キャリアはおのずとうまくいくのだ!みたいな考え方
って感じになります。どれもわりと耳にしやすいキャリアアドバイスではないでしょうか。
上記のアドバイスがダメな理由について、先生はおおよそ以下の指摘をしておられます。
- 「自分らしくいこうぜ!」の問題点
- ビジネスの世界では、そもそも「この人のありのままを見たい!」などと誰も思っていない
- 仕事の場でみんなが見たいのは、「この人は望まれる行動を取れるか?」というポイントでしかない
- ありのままの自分のまま行動すると、たんに自己が肥大した嫌な人間だと思われて終わる可能性がデカい
- 「成果をあげるのが最強だ!」の問題点
- 複数の研究により、ビジネスの世界では周囲の印象やアピール、コネのほうが実際の能力よりも物を言うケースが多い
- 現実の世界では、「中身はあるが印象が悪い」よりも「中身がないが印象が良い」が勝つケースは少なくない
- 「強みを活かすのだ!」の問題点
- 強みを活かすのが間違いではないが、その前に弱点を改善しない限り成功できない
- 例えば、どれだけ頭がよくても性格が悪かったら周囲の助けを得られないし、いくら才能があっても自制心がなければ作品を生み出すことすらできない
- また、多くの強みは欠点にも変わりやすい。「自信がある」という強みは行きすぎればただの思い込みになるし、協調性の高さも行きすぎれば従属に変わる
- 「情熱を追い求めるのだ!」の問題点
- 人生の目標があるのは悪いことではない。しかし、情熱が成功に結びつくのは、それがあくまでビジネス界のニーズに適している場合に限られる
- 人間の情熱はコロコロ変わるため、長い期間にわたって同じ情熱をキープできる人は少ない
- 自分の好きな世界で働くことばかりを夢見ていると、多様性ある分野でスキルが成長しなくなる
ってことで、個人的にはいずれも納得の理由でありました。「強みを活かすより弱点改善だ!」や「情熱を求めるとスキルが伸びないぞ!」みたいな考え方は「科学的な適職」ともかぶるとこでして、「そうだよなー」って感じでしたね。
では、「これらの問題にどうすればいいのか?」ってことで、トマス先生は以下のアドバイスを提唱しておられました。
- 「自分らしくいこうぜ!」問題へのアドバイス
- ビジネスの場では「他人が期待する自分」を察知して、そのとおりに振る舞うのが良い。周囲の状況を観察して、それに合わせていくのがベスト
- これは「自分を偽れ」という話ではなく、あくまで感情的な知性をフルに使って「世間的なルールのフレーム内で自分を出せ」という話である
- 「成果をあげるのが最強だ!」問題へのアドバイス
- もし自分に才能があっても、キャリアの成功を目指すなら周囲の有力者へのアピールにリソースを注いだほうが良い
- もっとも良いのは周囲から「この人は謙虚だけど有能だな〜」と思われることなので、あまり露骨にアピールせずに能力を伝えるのが望ましい。周囲の実力者を観察して、その人たちが抱える課題について考え、その課題を解決してやることにリソースを注ぐとよい
- これは「有力者にこびへつらおう!」って話ではなく、「謙虚さを保ちつつ自分を応援してやろう!」という話である
- 「強みを活かすのだ!」問題へのアドバイス
- 自分の強みを大切にするのは悪くないが、まずは自分の弱みを認識しよう。過去の成功者を見ていると、自分を批判的に見る人たちが多い
- 成功者に大きな野心を持つ人が多いのは、彼らが尊大な人間だからではなく、つねに弱点を乗り越えようとするせいで現状に不満を抱きやすいからである
- 最終的には、自分の弱点を知って「正しい欲求不満」を抱くようにするのが吉
- 「情熱を追い求めるのだ!」問題へのアドバイス
- 若いころほどスキルの発達と幅広い学習の機会が必要なので、情熱のことはいったん忘れて「なんでも試してみるぞ!」って精神でいたほうが良い
- もし強い情熱を持っている場合は「持っておいて損はない」ぐらいに考えて、その情熱を万全に使いこなせるようなチャンスが来るまでは趣味ぐらいにしておき、まずは自分のベース能力を高めることに専心したほうが良い
- とにかくやるべきなのは、情熱はいったん棚上げしておき、目の前の選択から最善なものを選び続けることである
ということで、トマス・チャモロ=プリミュジック博士によるキャリアアドバイスのポイントでした。
上記のポイントにはおおむね賛成でして、特に「情熱は置いといて最善の選択をし続けるほうにリソースを注ごう!」ってあたりは、そもそも情熱を持っていない私としては大いに納得できるところでありました。あと個人的には「良いものさえ作ればいいだろう」という思考が強い人間なので、「その後のアピールをちゃんとしなさい!」ってところは身に染みました……。