このブログを検索




今週の小ネタ:野菜の濃縮サプリで脳がよくなる?「アボカドで健康になる」は本当か?運動すると食欲が爆発するってどこまでホント?

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

  

 

野菜の濃縮サプリで脳がよくなる?

果物と野菜の濃縮サプリで脳機能が改善した!」って新しい研究(R)が出ておりました。いわゆる「野菜ジュースの粉末版」みたいなサプリで健康な人の脳機能が改善したって話でして、これが事実なら試してみたくなるような研究でありました。

 

この研究は、92人の男女を対象にした16週間のランダム化クロスオーバー試験。被験者の平均年齢は34歳で、特に健康の問題がない人だけを選んだらしい。実験では、被験者に以下の2つの条件を交互に体験させております。

 

  1. ポリフェノール600mg/日を含む野菜果物サプリを摂取(Juice Plus+ Premiumって商品を使ったらしい)
  2. なんの成分も入っていないプラセボ(偽薬)カプセルを同じように飲む

 

そのうえで、以下のような認知機能テストを実施して効果を評価しております。

 

  • ストループテスト(注意力と抑制力の評価)
  • トレイルメイキングテスト(視覚的注意と認知の柔軟性)
  • レイノルズ知能スクリーニングテスト(知能の簡易評価)

 

これに加えて、BDNF(脳由来神経栄養因子)とCREB(cAMP応答配列結合タンパク質)という、脳の可塑性や学習能力に関わるタンパク質のレベルも測定してまして、なかなか良い研究じゃないでしょうか。

 

結果、確認されたのは、以下のような変化であります。

 

  • サプリを摂った期間の方が、各種認知テストの成績が明らかに向上し、BDNFとCREBの活動レベルも上昇していた。

 

ってことで、野菜と果物の濃縮物を飲んだだけで、脳の働きがよくなった上に、脳内の“神経の育成ホルモン”も増えていたわけっすね。しかも、健康な人を対象に効果が出てるってのがポイントでして、これはかなりうれしい結果じゃないでしょうか。

 

で、このような結果が出たのは、おそらくポリフェノールのおかげだと思われるわけです。いちおう説明しておくと、ポリフェノールってのは果物や野菜に多く含まれる抗酸化物質の一種で、体内の炎症を抑えたり、血流を改善したりする働きがあるんですが、特に近年は「脳血流を改善する効果」と「神経新生を促す効果」も確認されてるんですよ。たとえば、

 

  • 脳内の毛細血管の機能を高めて、脳への酸素と栄養の供給を改善する
  • ミトコンドリアの機能をサポートして、脳細胞のエネルギー代謝を向上させる
  • BDNFの分泌を促進して、神経ネットワークの再構築を助ける

 

みたいな働きが報告されてまして、いよいよ「ポリフェノールすごい!」って機運が高まっているわけです。特にBDNFは「脳の肥料」なんて呼ばれることもあり、記憶力や集中力に大きく関わるタンパク質だし、CREBはそれを調整する“スイッチ”みたいな存在なので、この2つが上がるってのは、かなりポジティブなサインといえそうです。

 

この実験ではポリフェノールサプリを使ってますが、ポリフェノールなんて食事でいくらでも摂取できるんで、ぜひ普段の生活で増量を心がけていただくと、脳機能アップにもつながってよさそうであります。

 

 

 

「1日1アボカドで健康になる」は本当か?

「アボカドは体にいい!」とよく言いますが、つい最近「毎日アボカドを食べても心臓の健康に影響ナシ」という研究(R)が出て、ちょっとした波紋を呼んでおりました。

 

この研究は、肥満に悩む男女806名を対象にした26週間のRCTで、デザインはこんな感じ。

 

  1. 参加者の半分にアボカド1日1個(約168g)を毎日食べてもらう
  2. 残りの参加者はアボカドは月2個まで。それ以上はNG

 

こんな感じで、「毎日アボカドを食べる」vs「ほとんど食べない」って人たちのあいだで、心血管の健康にどんな変化が出るかをチェックしたわけです。

 

で、この研究では、「みんあが健康かどうか」を判定するために、「ライフズ・エッセンシャル8」という指標が使われてます。このスコアは、アメリカ心臓協会が提唱する心血管の健康状態を測る8つの指標で構成されてまして、

 

  1. 血糖
  2. 血中脂質
  3. 血圧
  4. 体重(BMI)
  5. 身体活動
  6. 健康的な食事
  7. 睡眠の質
  8. 禁煙(またはニコチン不使用)

 

みたいなラインナップになってます。つまり、ライフスタイルとバイオマーカーの両面から健康を総合評価できる指標だってことでして、スコアが高いほど「血管も心臓も元気!」というわけですな。

 

でもって、肝心の結果はと言いますと、ライフズ・エッセンシャル8のスコアに、両グループで差は出なかったそうな。つまり、毎日アボカドを食べても、健康習慣やバイオマーカーに有意な変化は起きなかったってことですな。「あんなに健康そうな食べ物なのに?」と思われるかもしれませんが、実際、BMI・血圧・血糖・脂質などのデータにも明確な改善は見られてませんで、個人的にもちょっとガッカリでありました。

 

とはいえ、「アボカドは意味なかった!」とバッサリ切るのはちょっと早計でして、というのもこの研究にはいくつかの構造的な限界があるんですよ。たとえば、

 

  1. 薬の使用状況がデータに含まれていない:スコアを出す際に、「血圧や血糖を下げる薬を飲んでいるかどうか」という情報がないまま計算されていたため、正確性に疑問が残る。

  2. ライフズ・エッセンシャル8は事前登録されていなかった:つまり、「あとから思いついて追加した評価項目」だった可能性が高く、統計的なバイアスが入りやすい。

  3. 食事全体の質はどうだったのかが謎:アボカドを追加した以外の食事内容がコントロールされていないため、「アボカドはよくても他の食事がダメだった」なんて可能性もある。

 

つまり、研究としては割と探索的な段階と言えまして、これだけで結論を出すにはまだ早い印象なんすよね。まあ、アボカドが、食物繊維、カリウム、オレイン酸、ビタミンEなどを手軽に摂れる食材として優秀なのは確かなので、あんま期待しすぎずに味を楽しむぐらいが良いのではないかと思ったりしました。

 

 

 

運動すると食欲が爆発するってどこまでホント?

激しく運動した日は腹が減る!」みたいな経験は誰にでもありましょう。実際に、運動は空腹をブーストさせる働きがあるんですけど、新しい研究(R)は、「運動の強度って食欲と関係があるの?」ってところを調べてくれてて有用でありました。要するに、「軽めの運動」と「ちょっとキツい運動」では、食欲の増え方に差があるんじゃないかって問題ですな。

 

この研究は、BMI22の健康な男女20名を対象にしていて、直近7日間で「中〜高強度の運動を150分未満しかしていない」人を選んだらしい。つまり、あまり運動習慣がない人たちですね。

 

で、実験では全員に以下の2条件を体験してもらってます。

 

  1. 軽めの運動(ピークパワーの20%)
  2. 中程度の運動(ピークパワーの50%)

 

どちらも運動時間は40分で、種目はエアロバイク。運動前には4時間の絶食を指示し、そこそこの空腹状態で運動してもらったうえで、その後の「食欲」と「実際の食事量」を比べたわけです。

 

その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 食欲のスコアも、実際に食べたカロリーも、両者で差ナシ。
  • 食欲の自己申告も、ほぼ同じレベルで増加(どちらの強度でも空腹感は高まった)。
  • 食事量は中強度=約886kcal、軽強度=約909kcalだった。

 

ってことで、この結果を見る限り、運動の強度は食欲に影響しなさそうですね。「え? 強めに運動したほうが腹が減るのでは?」と思った方も多いでしょうが、実際は運動強度を上げても空腹感と食事量は増えなかったわけです。

 

ただし、「運動と食欲の関係」はこれまでもたびたび研究されてきたんですが、その結果はけっこうまちまちだったりします。たとえば、過去の研究では、

 

  • 強度の高い運動をすると、食欲ホルモン(グレリン)が一時的に減る
  • でも数時間後にはリバウンドして食欲が爆上がりするケースもある
  • 有酸素より筋トレのほうが空腹感を抑えることもある

 

といった報告もありまして、「一概には言えない!」ってのが正直なところなんですよ。その点で今回の研究は、「強度の違いだけを変えて、他は全部同じ条件にした」ってところは強みでして、「やっぱり短期的には強度はあまり関係なさそうだなー」という気がしてくるわけです。個人的には、「ちょっと強めの有酸素運動をやって、そのまま落ち着いて食事を摂る」ぐらいのスタイルが、食欲とのバランスを取るにはちょうどいいのでは?と思ってますが、これは個人差も大きそうなので、最後は自分で試すしかないでしょうなぁ。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM