「昼寝」でパフォーマンスと回復力は本当に上がるのか?科学が示す最適な睡眠戦略とは
トレーニングを頑張ってるけど、なんか最近イマイチ回復しない……みたいな時に、皆さんはどう対処してますでしょうか。たんぱく質を増やしてみる? クレアチンを飲んでみる? 気合で乗り切る?などでしょうか。まあ、もちろんこうした対策も悪くないんですが、「昼寝」を活用している人は意外と少ないんじゃないかと。
そこで、近ごろ発表されたメタ分析(R)では、「昼寝が運動のパフォーマンスや回復力を大幅に改善する!」って結論になってて面白かったです。
というと、「睡眠不足でパフォーマンスが下がるのは当たり前なんだから、昼寝が良いのは当たり前では?」と思うかもしれませんが、今回のメタ分析では、
- 夜しっかり寝た後でも、昼寝するとさらにパフォーマンスが上がる!
って事実が示されておりまして、これはかなり注目ポイントであります。
これは、22本のランダム化比較試験を対象にしたメタ分析で、参加者は全員が18〜35歳の若い男性、かつアスリートまたは「定期的に運動している人たち」であります。ここで分析された「昼寝の方法」は1回10〜120分の範囲でして、時間帯はだいたいお昼すぎ(12:30〜16:50)だったそうな。
評価されたのは、以下の3つの指標です。
- 認知パフォーマンス(集中力・反応速度など)
- 身体パフォーマンス(筋力・持久力・スプリントなど)
- 疲労感(主観的なだるさ・消耗感)
これらを「夜の睡眠が普通に取れていた場合」と「部分的に睡眠不足だった場合」に分けて、それぞれ昼寝の効果がどうだったのかを検証していったんですな。
では、結果です。まずは、夜にちゃんと眠ったあとで昼寝をした場合の結果から見ていきましょう。
- 認知パフォーマンス:中程度の改善(SMD=0.69)
- 身体パフォーマンス:大きな改善(SMD=0.99)
- 疲労感:大きな軽減(SMD=−0.76)
SMDってのは効果量の指標で、0.2=小、0.5=中、0.8=大ぐらいにお考えください。つまり、「昼寝したらめちゃくちゃ頭が冴える」「身体もバキバキに改善」「ついでに疲れにくくなる」みたいな効果が、統計的にも裏付けられたわけですな。
さらに、睡眠不足の状態で昼寝したらどうなったかと言いますと、
- 認知:SMD=1.61(かなり大きな効果)
- 身体:SMD=0.91
- 疲労感:SMD=−0.96
となっておりました。どちらにおいても、昼寝はパフォーマンスをかなり大きく改善してくれるのだと言えましょう。
じゃあ「昼寝ならなんでも良いのか?」というと、そこはやっぱり条件次第なところがあります。ここで行われたサブ解析によると、効果がより出やすくなる条件は以下の3つです。
- 昼寝の長さは30〜60分未満がベスト:10〜20分だと短すぎ、60分以上だと寝起きがボーッとする「睡眠慣性」が出やすいみたい。なので、30〜60分ぐらい眠っておくと、ちょうど深いノンレム睡眠に入って回復効果を得つつ、目覚めもスムーズという理想的なラインになるみたいっすね。
- 起床から運動までは最低でも60分空ける:昼寝から起きてすぐ運動すると、脳がまだ寝ぼけていてパフォーマンスが出にくい模様。逆に、1時間以上たつと脳も身体も完全に覚醒してパフォーマンスが最適化されるみたい。
- アスリートより「一般人」のほうが効果は大きい:これはちょっと意外かもですが、プロのアスリートよりも、ふだん運動している一般人のほうが昼寝効果が大きい傾向があったらしい。おそらく、トップアスリートはすでに回復ルーティンが整ってるので、改善の余地が少ないんでしょうな。
ということで、ここまで見ると「昼寝最強!」と思いがちですが、もちろん注意点もあったりします。
- 研究の対象は「18〜35歳の健康な男性」に限られているので、女性や高齢者への効果は今のところ不明。年齢や性別によって睡眠の質やリズムも違うため、ここらへんは今後の研究に期待するしかなさげ。
- 参加者が「本当にぐっすり昼寝できていたか」は主観評価でしか確かめていないので、参加者が「30分昼寝しました」と言っていても、実際に寝ていたのかはあやふやなケースもある。ここらへんは客観的な睡眠計測(ポリソムノグラフィーなど)を使った研究が増えるのを待つしかなさげ。
こうなると、どんなふうに昼寝を生活に取り入れるのがベストなのか?ってのが気になりますんで、今回のメタ分析を参考に「昼寝のガイドライン」を考えてみましょう。
- 昼寝のタイミングは昼食後〜15時ごろまで:遅すぎると夜の睡眠に悪影響が出やすいので、午後イチがベストでしょう。
- 昼寝の長さは30〜60分未満:長くても1時間以内に収めておくと、回復と目覚めのバランスが取れてよさげ。
- 昼寝後は60分以上あけて運動する:目覚めてすぐ動くとパフォーマンスが出ないので、軽いストレッチや散歩で「覚醒モード」に移行するのが良さそう。
これらを守っておけば、昼寝を、パフォーマンスを底上げする手段として使えるはずであります。「夜はちゃんと寝てるから昼寝はいらない」と思ってる方も、これなら一度トライしてみる価値はあるかもですね。