面接で「本当に良い人材」を選ぶにはどうすればいいのか?をカーネマン先生が語っておられます
「ノイズ:人間の判断の欠陥」って本を読んでて、「企業の就職面接はどこまで当てになるのか?」みたいな話が出てておもしろかったんでメモ。これは「ファスト&スロー」のカーネマン先生や「命の価値」 のサンスティーン先生といったそうそうたる筆者が関わった本で、間違いなく邦訳が出るでしょう。
でもって、本書では人間の意思決定がうまくいかない例として「就職面接」を挙げていて、
もしあなたが2人の候補者について「面接でA氏よりB氏が優れている」と感じたとしよう。この場面で、本当にB氏が優れて確率は、56%から61%程度の範囲におさまる。
と書いておられます。「科学的な適職」でも「面接で個人の能力を見抜くのは無理!」って話を書きましたけど、やっぱコイン投げよりちょっといいぐらいの精度しかないわけっすね。
で、このような現象が起きる理由のひとつとして著者らがあげているのが「ノイズ」であります。これは「個人の違いがもたらす判断のばらつき」ぐらいの意味で、同じ病気を診ても医者の判断は異なるし、同じ事件を担当しても裁判官の判決は違ってくるし、みたいな話のことです。
当然ながら、人間はみんな違う判断軸を持っているし、それぞれの判断の結果は、持ち前の性格、偏見、癖、その日の気分、1日のタイミングなどの影響も受けちゃう生き物。本書で紹介されてる事例では、ある裁判官の判決を追いかけたところ、その裁判官がひいきするスポーツチームが試合に負けた翌週は、犯人に厳しい判決を下す傾向が強かったんだそうな。こわー。
これだけいろんなノイズがあるならば、就職の面接があてにならないのも当然の話でしょう。その日の面接官がたまたま機嫌が悪かったり、女性の候補者に偏見があるような人だった場合は、候補者の判断が全く変わっちゃいますもんね。著者らいわく、
求職者の面接官は、同じ人に対しても大きく異なる評価をする。
ってことで、大半の面接官は、慎重な分析よりも第一印象を優先するし、その印象も上記のノイズによって影響を受けまくるんだそうな。うーん、いかにもありそう。
では、企業が正しく候補者の能力を見抜くにはどうすればいいのか?って話ですが、本書では以下のような手法が提案されてます。
- 人間じゃなくてAIを導入するか、明確な判断の基準を決めておき、候補者の判断を機械化または標準化する
- 「意思決定衛生戦略」を使う。これは、より客観的で一貫性のある判断をするように促す仕組みで、「事前に意思決定のためのガイドラインを作成して面接官に発表しておく」「意思決定者のバイアスを発見する訓練を受けた外部のオブザーバーを雇う」「複数の面接官に個別に候補者を判断してもらいあと調整する」などの手法がふくまれる。基本的には、判断サンプルの数を増やすことで、バイアスやノイズを抑えるのが基本になる
「意思決定衛生戦略」ってのがちょっとわかりにくいですけど、たとえばGoogleが面接で行っている事例を挙げてみると、
- Googleでは、まず複数の人がそれぞれの候補者を個別に面接する
- すべての面接官は、事前に「候補者を判断するための明確なガイドライン」を与えられている(認知能力やリーダーシップの資質など)
- 面接官は、あらかじめ設定されたガイドラインをベースに候補者を評価し、ただの印象ではなく具体的なデータを集めることに注力する
- すべてのデータを集め終えたら、採用委員会が会議を開き、誰を採用するかを決める
みたいな手順をふんで候補者を選んでるらしい。とにかく事前に「うちの会社はここを重視するのだ!」って基準をハッキリさせておき、面接官は候補者が基準に当てはまるかどうかだけを見るわけっすね。この作業を行えば、判断のノイズをかなりのとこまで減らせるらしい。なるほどねぇ。