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英語の勉強がうまく進まないめちゃくちゃ重要な原因とは?そして、その原因にどう立ち向かえばいいのか?問題


  

0. 鈴木のコメント#1

こないだ、当ブログの読者さんから「Tatsuya Katoさんという人が、黙々と文献の要約をアップしてておもしろい」と教えていただいたんですよ。そこで、さっそくKatoさんのツイッターをチェックしてみたところ、確かにユニークな文献をいくつもまとめていて、とても良い感じだったんですな。

 

 

そこで今回は新たな試みとして、Katoさんがチェックした「外国語学習がうまく進まない理由」に関する文献(R)をブログでご紹介します。ほかにも見てみたい方は、Katoさんのツイッターへどうぞ。あと、おもしろい人を紹介してくれたyuriさん、ありがとうございます!

 

 

ちなみに、今回この文献を取り上げたのは、「日本人が英語が苦手なのは、外国語に対する不安感が大きいからだ!」って見解が昔からあったからです。それだけが問題ではないものの、外国語への不安により英語が話せない人がかなりいるみたいなんですよ(というか、私もそうです)。

 

 

その意味で、外国語への不安感についてよく知っておくことは、よりよい学習の一助になるんじゃないかと思った次第です。では、Katoさんの報告を見てみましょうー。

 

 

1. どんなことを調べた論文なの?

これはアリストテレス大学の研究(R)で、外国語学習への不安と、ネガティブな評価の恐怖の主な原因を明らかにすることを目的としています。

 

 

2. これまでどんな問題があったか

外国語学習における不安には、主に3つの種類があることが先行研究によりわかっています。

 


ひとつめがコミュニケーション不安。これは、学習者が成熟した考えを持っているにもかかわらず、コミュニケーション能力が低いために、仲間や教師との本音で語ることを恐れている、といったものです。

 

 

ふたつめがテスト不安です。こちらは、テストの失敗を恐れることによって引き起こされる不安であり、語学クラスで行われるテストや試験に対するネガティブ感情を意味します。

 

 

みっつめは、否定的な評価への恐怖です。これは「他人の評価に対する不安、評価的な状況の回避、他人が自分を否定的に評価するだろうという期待」と定義されています(Watson & Friend 1969)。

 

 

これまでの研究では、不安が大きい人ほど言語のパフォーマンスも低いことが明らかになっており、外国語の成功を予測する大きな要因だとする研究者もいます(MacIntyre 1999)。

 


そこでこの研究では、ギリシャの大学で英語コースを受講している学生を対象に、外国語の不安、否定的評価への恐怖、言語パフォーマンスとの関係を調査しました。具体的には、

 

  • 外国語への不安と否定的な恐怖の主な原因は何か?

  • 言語パフォーマンス、外国語への不安、ネガティブ評価の恐怖との間には関係があるか?

 

ということを調べています。

 

 

4. 研究の方法と結果

アリストテレス大学72名の男女を対象に、外国語教室不安尺度(FLCAS)と否定的評価尺度(FNE)の簡易版を用いました。その結果、以下の傾向があきらかになっています。

 

  • ネガティブな評価への恐怖が大きな学生は、言語のパフォーマンスも悪い傾向があった

 

  • 他者からの否定的な判断、他者からの非承認、ミスをすること、他者に好ましくない印象を残すことなどが、否定的な評価への不安の原因となっている


  • スピーキングへの不安は、仲間や教師からの否定的な評価を下されることが原因になっている。教室での不安は、学習者の努力の低下と、授業でのパフォーマンス低下につながりやすい


  • 中級・上級レベルの女子学生は、同レベルの男子学生よりも不安感が強く、ネガティブ評価の恐怖を感じやすかった

  • ただし「経験と習熟度が上がるにつれて、不安感はかなり一貫して減少する」ことも示された

 

まとめると、言語を勉強する人は「コミュニケーションが通じないことで嫌な顔をされる」といったネガティブなフィードバックや評価、テストの成績、そして否定的な評価などに不安感を持っており、その不安感が学習者の努力やモチベーションを低下させ、学習のパフォーマンス低下につながるという結果でした。

 

 

この結果に対して研究者は、

 

外国語学習の不安は否定的な評価によって引き起こされるように思われるので、教室における教師の役割は、学習者間のコミュニケーションの意欲を促進し、学習者の自尊心を低下させるような出来事を最小限に抑えるための戦略を含むように拡大されるべきである。

 

と述べています。

 

 

5. この文献を現実に応用するには

私(Kato)も外国で学習している身ですが、否定的なフィードバックを受けると、会話したくなくなったり、とても嫌な気持ちになってしまいます。しかし、これ自体は必ず通る道なので、言語自体とそのネガティブなフィードバックをしてくる人は、別の存在として認識することも大切ではないかと考えます。

 

 

例えば、あなたの嫌いな人が日本語を話していたら、日本語を嫌いになるでしょうか? 日本人であればそのように考えたりはしないでしょう。言語はあくまでもコミュニケーションツールであり、発している本人とは関係のない事柄なので、否定的なフィードバックを返す人のせいで、言語まで嫌いになってしまうのはもったいないことです。

 


また、少し他の言語学習の話も加えると、英語でコミュニケーションできる友達を見つけたり、ネイティブスピーカーの恋人を作ったりと、言語をコミュニケーションのための道具として使うことで言語学習が効率的に進むことがわかっているので、これから第二言語学習を始める方や、言語学習に強い不安感を感じている方は参考になったら嬉しいです。

 

 

 

6. 鈴木のコメント#2

ってことで、やっぱ「語学への不安が学習をジャマするんだなー」ってのがよくわかるデータでしたね。

 

 

かく言う私も、持ち前のド人見知りのせいで英会話については今も超苦手だったりしまして、Katoさんがおっしゃる「学習とネガティブなフィードバックを別物として意識的に切り離そう!」ってアドバイスは有用だと思いましたね。

 

 

ちなみに、近年は語学学習の世界でも「不安が勉強を妨げる問題」は重く扱われてまして、「VRによる英会話レッスンが効果的だよー」ってな報告も出てきてたりするんですよね。個人的には、このあたりの技術に大きな期待を寄せております。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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