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酒、健康の世界でさらに立場が悪くなる

 

 

このブログでは、「最近は酒の立場が悪くなってきたなぁ……」みたいな話をよく書いております。かつては「ワイン1杯なら健康に良い」「赤ワインはポリフェノールが豊富で動脈硬化を防ぐ」などと言われたもんですが、近年の研究では 「アルコールの安全な摂取量はゼロ」 という結論が次々と示されてまして、しかもどれも精度が高い研究だったりするんですよ。

 

そして、新たに行われた大規模な研究(R)もアルコールと健康リスクを調べたものでして、「やっぱりアルコールは飲まないにこしたことはない!」って結論になってたりしました。酒飲みには辛い話になっちゃいますが、健康維持における大事なポイントなので、要点を押さえておきましょうー。

 

で、研究の内容に入る前に、簡単に前提をおさらいしてみましょう。アルコールの健康効果ってのは、かつて 「Jカーブ理論」 で説明されておりました。つまり、「適度な飲酒(1日1杯程度)は心血管リスクを下げるが、大量に飲むと健康に悪い」 って考え方ですね。

 

この説が支持されていた理由としては、以下のような要因があったりします。

 

  • HDL(善玉)コレステロールの増加:アルコールはHDLを増やす効果があり、これが心血管リスク低下につながると考えられていた。

 

  • 血栓の予防:適量のアルコールは血液をサラサラにする作用があり、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ可能性があるとされていた。

 

  • 抗酸化作用:赤ワインに含まれるポリフェノールが血管を保護するという説もあった。

 

ぱっと見はどれも説得力がありまして、「確かにアルコールは体に良さそうだなぁ」って気がしてくるわけです。

 

が、最新の研究によって、この「Jカーブ理論」は誤解だったことがわかってきまして、今回の研究もその流れに連なるものになっております。これはUKバイオバンクなどの大規模なデータを用いた研究で、過去の研究とは異なる高度な手法を使って飲酒と健康リスクの関係を分析してるのがポイント。つまり、現時点で最も精度が高い結論を出してくれてるんですな。

 

ここで使われたのは「メンデルランダム化」って手法で、飲酒と健康に関する研究の問題点をクリアした内容になっております。従来の研究が抱えていた問題ってのは、

 

  • 「適度な飲酒をする人は、そもそも健康的なライフスタイルを送っている傾向がある」って点を考慮してない!

 

ってポイントです。たとえば、適度に飲酒する人は、

 

  • 収入が高く、健康的な食生活を送っている

  • 定期的に運動している

  • 喫煙率が低い

 

といった特徴があるので、「飲酒が健康に良い」のではなく、「もともと健康的な人が適度に飲酒しているだけ」 って可能性があったんですな。だから、トータルでデータを集めると、「少しの酒なら体に良い!」って結論が出ちゃったりするわけです。

 

そこで今回の研究では、みんなの遺伝情報をチェックした上で、飲酒習慣と健康リスクをより正確に分析したんですよ。どういうことかと言いますと、私たちが酒を飲むかどうかには、ある程度まで遺伝の影響があることがわかってまして、たとえば、

 

  • アルコール代謝酵素(ALDH2、ADH1B など)の遺伝子変異があると、「お酒に強い」「すぐ酔う」などの違いが生まれる

  • ドーパミン受容体関連遺伝子(DRD2 など)の違いによって、アルコールの快楽効果をどれぐらい感じるかが異なる

 

みたいな違いがあったりするんですよ。つまり、「遺伝的にお酒を飲みやすい人」と「遺伝的にお酒をあまり飲まない人」を比較すれば、ライフスタイルの影響を取り除いて、アルコールの健康リスクを直に評価できるわけですな。良くできた手法ですねぇ。

 

で、この結果なにがわかったかと言いますと、

 

  • 軽い飲酒(1日1杯程度)でも、心血管リスクに対して有害っぽい

  • 酒が健康にプラスの影響を与えるという証拠は存在しない

  • 飲酒量が増えるにつれて、心血管リスクはグングン上昇する

 

みたいになります。これまでも言われてきた「酒は1杯でも毒!」って考え方が、あらためて精度の高いデータで補強された感じっすね。

 

さらに、この研究では、アルコールの害は心血管の病気にとどまらず、がんの発症リスクも上昇することを明らかにしております。具体的には、1杯の酒でも以下の癌にかかりやすくなるんだそうな。

 

  • 乳がん(エストロゲンの増加を介した発がんリスクの上昇)

  • 大腸がん(腸内環境の悪化や炎症の促進)

  • 食道がん、口腔がん、喉頭がん(アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの発がん性)

 

うーん、これは嫌ですなぁ。「Jカーブ理論」 とはいったい何だったのか、と。

 

ついでに触れておくと、近年は運動や筋トレに対する酒の影響を調べたデータ(R)も増えてますんで、こちらの結論もざっくりまとめておきましょう。結論としましては、

 

  • 大量の飲酒は確実にパフォーマンスを低下させる(特に有酸素運動や高強度トレーニング)
  • 少量の飲酒(1~2杯程度)なら筋肉量や体組成への影響はほぼない
  • ただし、回復(リカバリー)の観点では少量でも悪影響がある可能性がある

 

みたいになります。特に、アルコールが筋肉の増加をジャマするのは間違いなく、筋トレを頑張る人ほど「酒は控えたほうがいい」ってのが妥当な判断になるでしょうな。

 

ってことで、肉体面から言えば「アルコールは百害あって一利なし」って説がいよいよ信憑性を帯びてきた感じっすね。もちろん、アルコールには社会的・心理的なメリットもあるので、なにがなんでも禁酒せよとも申しません。

 

「健康リスクをとってでも酒を飲むのが人生の楽しみだ!」って考えもあるでしょうし、私も外出した時は普通に飲んでますしね。そこらへんは自分の価値観と相談していただければってことで。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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