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年を取ってボケるのを防ぐためには「やるべきことを全部やらなきゃダメだぞ!」という研究の話

 

年齢を重ねると、人の名前が出てこなかったり、さっき何を取りに来たか忘れたり、複雑な指示を追いきれなくなったりといった問題が起きるわけです。実際、60歳を超えると脳の処理速度(情報をさばく速さ)やワーキングメモリ(作業記憶)、実行機能(計画・判断・抑制などの能力)はゆるやかに低下することがわかってまして、なかなか困ったもんであります。

 

ただし、ここで興味深いのが、その認知の落ち方に大きな個人差があるところです。ある人は軽い物忘れで済む一方、ある人は軽度認知障害(MCI)や認知症へと進んでしまうような違いは、よく見かける現象なんですよね。果たして「この差はどこから来るのか?」ってことで、新しい研究(R)では、そのへんをガッツリ調べてくれてて面白かったです。

 

この研究は、60〜79歳の高齢者2,111名を対象にしたランダム化比較試験(RCT)でして、以下の特徴を持った参加者が選ばれております。

 

  • 週60分未満しか運動していない(ほぼ座りっぱなし)

  • 健康的な食事から外れた食生活をしている

  • 研究者から「認知機能低下のハイリスク」と判断されている

 

こんな感じで、つまり「ちょっと健康に問題がある層」を集めたわけですな。

 

その上で、実験では全員に以下の4つに取り組んでもらっております。

 

  1. 健康的な食事
  2. 運動
  3. 知的刺激(いわゆる“脳トレ”)
  4. 心血管リスクのモニタリング(血圧・血糖など)

 

ただし、全員にガチでライフスタイルの改善をしてもらっただけではなく、全体を2つのグループにわけてます。

 

  1. 構造化グループ:健康に関する詳細な指導を受け、頻繁な面談をして、専門家のコーチングを受けてもらう

  2. セルフガイドグループ:健康に関する基本アドバイスのみを受けて、あとは自分で努力してもらう

 

でもって、みんなの認知機能を6か月ごとに評価しまして、実行機能、エピソード記憶、処理速度などを測定したところ、構造化グループのほうが小から中ぐらいのレベルで認知機能が改善したんだそうな。60代後半以降ってのは普通に認知は下がっていくものなので、ちゃんとライフスタイルを設計することで認知の低下が防げただけでなく、むしろわずかにでも押し上がったってのは素晴らしいですね。

 

ただ、ここで難しいのが過去の試験では、似たようなライフスタイルの改善を行っても、良い効果が出なかったものもいくつか存在しているところです。たとえば、

 

  • フランスで実施された約3年間のランダム化比較試験で、認知機能低下リスクのある高齢者に対し、栄養指導・運動・認知トレーニング(+一部でオメガ3補給)を組み合わせた介入を行ったものの、全体として認知機能は改善しなかった(R)

  • ドイツで行われた約2年間のRCTでも、食事改善・運動・認知刺激・血管リスク管理を組み合わせたものの、高齢者の認知機能は改善しなかった(R)

 

みたいな感じですね。生活習慣の改善というと、いかにも効果が出そうなイメージがあるわけですけど、効果が再現できなかったものも存在はしてるわけっすね。

 

じゃあ、なんで効果が出たものと出なかったものがあるのかってところが気になりますが、その理由を推測するならば、以下のようになるでしょう。

 

  1. 食事の“中身”が違う:効果が確認された試験では、全粒穀物と植物性脂肪(とくに良質な脂肪)の摂取量がハッキリ増えている。一方で、効果が出なかった研究では、「果物と野菜を増やす」程度でイマイチ具体性が弱い感じがある。過去の観察研究では、ブルーベリーやアブラナ科野菜といった特定の食品が認知機能と強く関連してることが報告されてるんで、おそらく「なんとなくヘルシー」ぐらいの食事改善では足りないのかもしれない。


  2. 脳トレの頻度と監督:効果が確認された試験では、記憶トレーニングや推論トレーニング、処理速度トレーニングなどをちゃんとやっていて、それによって日常機能の低下が抑えられている。効果がなかった実験では、こういった知的刺激があんま設計されてない感じがある。


  3. 運動だけでは足りない?:過去の研究を見ると、18か月〜24か月の運動試験では明確な認知改善が認められなかったことも多い。もちろん、運動が脳に良いことはよく言われる話なので、運動“だけ”では弱いが、他のライフスタイルの改善と組み合わせれば強いってことなのかもしれない。

 

ということで、簡単に言えば「生活習慣は単体では弱いが、複数を組み合わせて初めて意味のある効果が出る」ってことじゃないでしょうか。なので、今回の研究を実践に活かすのであれば、

 

1.食事

  • オリーブオイルやナッツを活用
  • ベリー類や緑黄色野菜を増やす
  • 精製糖質を減らす

 

2.運動

  • 有酸素+軽い筋トレ
  • 週150分を目安に

 

3.知的刺激

  • 記憶ゲーム
  • ロジック問題
  • 処理速度系アプリ

 

4.血管リスク管理

  • 血圧チェック
  • HbA1c確認
  • 睡眠改善

 

ってのを確実に「全部やる」のが大事ってことになりましょう。どれか一つだけ改善するのではなく、片っ端からやって相乗効果を狙うのがベストってことなんじゃないかと。おそらく食事だけ 改善しても効果は不安定だし、運動だけでは効果が出ないこともありそうだし、脳トレだけの変化は限定的だと思われますんで、あくまで組み合わせることでやっと結果が出るんだと考えておくのが無難でしょう。

 

何れにせよ、私たちの脳ってのは、やるべきことを端からやっとけば、60代でも70代でもちゃんと反応してくれるみたいなんで、とにかくどうせやるなら中途半端が一番よくないとわかっただけでもありがたいことじゃないでしょうか。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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