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『豊かな人生』を送りたいなら、10代からのセルフ・コンパッションが大事だぞ!みたいな研究の話

  

 

10代のころってのはしんどい時期です。自意識は過剰だし、そのせいで失敗は多いし、世界はやたら広く見えるしで、なにかと大変なもんです。

 

そのため、多くの大人はつい「楽しく生きよう」「前向きでいよう」みたいなアドバイスを送りがちなんですが、最近の研究(R)を見てみると、

 

10代のうちに「自分にやさしくできる人」ほど、後から人生が面白くなっていくぞ

 

という、なかなか示唆的な報告がなされておりました。

 

実験の詳細をチェックする前に、まずは前提を整理しておきましょう。心理学では、これまで「良い人生」を主に2種類に分けてきたんですよ。

 

  • 快楽的幸福(ヘドニック)→ 楽しい!気持ちいい!満足している!みたいなタイプの幸福

  • 意味的幸福(ユーダイモニック)→ 生きがいがあるなー、目的を感じているなーみたいなタイプの幸福

 

どちらも、私たちの幸福にとって非常に重要な要素ですが、最近は「この2つだけだと足りないんじゃない?」という考え方が出てきております。人類に必要な幸福には、実はもう一つ別のパターンもあるんじゃないかってのが、複数の心理学者から提案され始めたんですよ。それがどのようなものかと言うと、

 

  • 心理的に豊かな人生

 

って概念です。これは、一言で言えば「価値観や世界観が揺さぶられる経験が多いかどうか?」みたいな観点で、決して楽しいとは限らないし、それどころか混乱や不安も含むんだけど、「視野が広がる」や「考え方が変わる」ような体験が多い人生を意味しております。たとえば、海外での生活とか、大きな失敗や挫折とか、価値観の合わない人との深い関わりといった経験が多いような人生ですな。面白い人生と言い換えてもいいかもしれませんね。

 

このような「面白い人生」の総量を増やすためには、「自分への優しさ」が欠かせないんじゃないかというのが今回の研究の肝であります。いわゆるセルフ・コンパッション(自分への思いやり)ですな。

 

これは陝西師範大学などの調査で、研究チームは、中国の高校生528人(14〜18歳)を対象に、「学期のはじめ」と「4か月後」の2回にわたってアンケートに答えるように指示。セルフ・コンパッションや心理的な豊かさなどを調べたんだそうな。

 

なんで若い人に限定して調査を行ったのかと言うと、思春期〜青年期は、

 

  • 自我が揺れやすい
  • 人間関係が激変しやすい
  • 価値観が更新されやすい

 

という、心理的な変化が起きやすい時期なので、「心理的な豊かさがどう変わったか?」を調べやすいんですよ。

 

でもって、すべてのデータをまとめて分析してみたところ、心理的な豊かさを後から増やすのに役立っていたのは、以下の2つの要素でした。

 

  • 自分へのやさしさ

  • マインドフルネス


って2つだったんだそうな。特に、自分にやさしい生徒ほど、4か月後には「人生が刺激的」「視点が変わる経験が多い」と答える確率が高かったそうで、どうも面白い人生を送るためにもセルフ・コンパッションは大事そうな気がしてくるんですな。

 

それとは逆に、自己批判が強いタイプの生徒は、時間がたつほど人生を「単調でつまらない」と感じやすくなる傾向が出たとのことで、これも面白い結果ですね。

 

ちなみに、ここで言う「自分へのやさしさ」ってのは「失敗したときに自分を責めすぎない」ぐらいの意味合いでして、「自分に甘くする」まではいかないものの、失敗した自分を価値のない存在として扱わないぐらいのスタンスを指しております。

 

なんで「自分へのやさしさ」や「マインドフルネス」が重要なのかと言いますと、

 

  • 自分にやさしい人は、失敗しても完全に心が閉じない

  • マインドフルが高い人は、嫌な感情を避けるのではなく、「今後の教材」として処理できる

 

みたいなマインドセットが働くからです。自分を必要以上に責めない人ってのは、たとえ嫌な体験をしたとしても、それで「もうだめだ!」と思うわけではなく、その経験を「今後に役立つ教訓」として使うことができるわけですな。要するに、セルフ・コンパッションってのは、嫌な体験をしたとしても 「なるほどー、世界はこういう側面もあるのかー」と思えるため、そのぶんだけ知見が増えるってことですね。この差が積み重なって、やがて人生の面白さの厚みに変わっていくんでしょうな。

 

さらに、この研究は細かいところも面白くて、

 

  • 自分へのやさしさが高い人は、マインドフルネスのレベルも上がる

  • マインドフルネスのレベルが上がる人は、自分へのやさしさも高まる

 

という傾向も発見されていたりします。この現象については、おそらく優しくなるほど観察力が上がり、観察力が上がるほどさらに優しくなれるという、ポジティブなループが生まれるってことなんでしょうねぇ。

 

個人的にこの研究が地味に重要だなーと思うのは、無理にポジティブにまったりしなくても、自分を過度に責めることさえやめれば、ちゃんと豊かで面白い人生を送ることができる……って可能性を示したところでしょう。たとえ不機嫌な日が多くても、色々と迷いが起きても、落ち込むことがあったとしても、自分を雑に扱わなければ人生はちゃんと面白くなっていくんだよーってのは、なかなかよい話ではないでしょうか。

 

もちろん、この研究は自己報告のみだし、中国の高校生しか対象にしていないので、どこまで一般化できるかはよくわからないところです。とはいえ、セルフ・コンパッションの重要性は、複数の研究で確認されているところですし、「心理的に豊かな人生」ってコンセプトが重要になってきているのも事実なので、たまにはどんな考え方が“面白い人生”につながりやすいか?」みたいに自問してみるのも悪いことじゃないでしょうね。

 

最後に、改めて今回の話をまとめておくと、

 

  • 人生の良さは「楽しさ」や「意味」だけじゃなく、「心理的な豊かさ」という軸が重要視されつつある。
  • 「心理的な豊かさ」を育てる燃料は、自分へのやさしさとマインドフルな態度である

 

という感じです。そう考えると、10代には、「強くなれ」よりも「自分を友達のように扱え!」みたいなアドバイスの方が役に立つのかもですな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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