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260の狩猟採集社会から分かった本物のパレオ食とは?

  
 

ご存じのとおり、このブログは「パレオダイエット」を主軸にしているわけです。「人間は進化の過程で狩猟採集生活に適応してきた。だから、農業革命(約1万年前)以前の食生活のほうが人体にはふさわしいはずだ!」って考え方をする健康法で、私もかれこれ19年ぐらい続けております。

 


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ただ、ひとくちにパレオダイエットと言っても、実は様々な派閥がありまして、決して一枚岩ではなかったりもします。もちろん、「人間は進化の過程で狩猟採集生活に適応してきた」って大前提は同じなんだけど、実際に何を食べるべきかって点では、海外のパレオダイエット界隈でも意見がわかれてたりするんですよ。たとえば、

 

  • たくさんの肉を食べることこそ至高!昔の人は肉食だ!
  • 旧石器時代に存在しなかった食品はすべて避けるべきだ!
  • いやいや野菜中心の生活こそが真のパレオダイエットなり!

 

みたいな感じです。「進化的に最適な食事とは何か?」って疑問については、まだまだ統一された見解がないわけっすね。原始人が何を食べていたかなんて、厳密にはわかりようがないので、このような不一致が出てしまうのはしかたないところでしょう。

 

ということで、「そもそも昔の人は何を食べてたのか?」ってのが議論の焦点になるわけですが、そこで2021年に発表された総説(R)が役に立ちますんで、内容をチェックしてみましょう。これは進化人類学者のハーマン・ポンツァー先生とブライアン・ウッド先生によるレビュー論文で、260以上の狩猟採集社会の食生活を調べ、その上で「進化的に適した人間の食事とは何か?」という疑問に迫ってくれてるんですな。まことにありがたいお仕事であります。

 

それでは、内容を簡単に見てみましょう。まず本論からわかる最も大きい結論ってのは、

 

  •  「パレオ食」は肉食ではない

 

ってとこでしょうね。というのも、調査の対象になった260の狩猟採集社会を見てみると、食事のエネルギー源にしめる動物性食品の割合が0%〜100%まで大きくばらついていたんですよ。具体的に申し上げますと、

 

  • 寒冷地の狩猟採集民(例:イヌイット)は肉中心の食事をしてる
  • 温暖地域の狩猟採集民(例:ハッツァ族)は植物と動物をバランスよく摂取してる

 

みたいな感じです。さらに、同じ集団でも、季節や環境によって肉と植物の比率が激変することも示されてまして、ある時期には肉が全カロリーの90%を占めることもあれば、別の時期にはほぼゼロになるケースも多く確認されたんだそうな。つまり、「人類は本来は肉を食べるべき!」「人類は野菜だけで生きてきた!」みたいな考え方は、どっちもパレオダイエット的ではないってことですね。

 

特に注目したいのが、タンザニアで暮らすハッツァ族のデータでして、彼らの肉の摂取量ってのは、ある時期には1日2kgを超えたかと思えば、別の時期にはほぼゼロになることもあったらしいんですな。彼らが狩る動物は、ディクディクみたいな小型哺乳類からヌーやシマウマのような大型草食動物まで多岐にわたりまして、狩猟が成功しない日は動物の死骸を食べることも珍しくないとのこと。狩猟採集民といえど毎日大量の肉を食べるわけではなく、成功したときに肉を大量に摂取するってパターンが基本なわけっすね。

 

これは植物性食品でも同じで、全体のカロリーに占める植物性の食品は月によって20%〜80%の割合で変動を見せたそうな。また、摂取する野菜の種類にも偏りがありまして、代表的な植物食品を挙げていくと、

 

  • イモ類、根菜の量がめっちゃ多い(エネルギー源として重要)

  • 果物(主にベリー類で、食物繊維が豊富)

  • バオバブの実と種から脂質、タンパク質、ビタミンを摂取

  • 意外なことに、葉物野菜の摂取量はごくわずかだった(全食料の0.4%〜0.8%)。ただ、葉物野菜が体に良いのは間違いないので、ここは狩猟採集民に合わせなくてもよさげ。

 

みたいになります。野菜の量にも大きな変動がありまして、常に「野菜を大量に食べている」というよりは、エネルギー密度の高い果実やナッツ、根菜が主流なんすね。

 

というわけで、狩猟採集民の皆さまは、ある時はめっちゃ肉食ダイエットを行い、またある時はほぼベジタリアンみたいな食事をしてるってわけです。こうして見ると、狩猟採集社会においても「決まった比率のパレオ食」など存在せず、環境に応じて食事は大きく変化していたってことなんでしょうな。

 

では、この文献から何を学べるのかと言いますと、

 

  • 超加工食品の排除が最重要なのは間違いない:パレオダイエットの最大のメリットは、ジャンクフードや超加工食品を排除すること。これにより、健康的な食生活に近づく可能性が高まる。

 

  • 「肉だけ」「植物だけ」はどちらも極端:固定された「パレオ食」は存在しないので、「肉の量がー」とか「野菜の量がー」とか、そこまでこだわらなくても良いのかもしれない。

 

  • 超加工食品以外のNG食品にもビビらないで良い:パレオダイエットでは「豆類はダメ」「乳製品はダメ」などのルールが強調されがちなんだけど、狩猟採集民も普通に食べてたりするんで、別によろしいのではないかと。

 

みたいになります。超加工食品や酒ぐらい最新の食品には注意が必要ながら、結局のところ「固定されたパレオ食」はないので、柔軟な適応こそが人類の進化の鍵だったって感じになるんじゃないでしょうか。では、今日の食事も、ほどよく柔軟にどうぞ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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