今週末の小ネタ:メンタルの疲れを和らげる方法、アルコールでどこまで脳は縮むのか、私たちの不安や抑うつはどれぐらい遺伝で決まるのか
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
メンタルが疲れた!を確実にやわらげる方法にはなにがありますか?
体は疲れてないけどメンタルは疲れた……みたいな状況は、誰にでもありましょう。体力は残ってるんだけど、頭がぼーっとしてる感じが強くて、なんもやりたくないような感じですね。
で、そのための対策として、カフェインやら音楽やらいろんな技法が提唱されているんですが、具体的にどんな方法が効くのかを調べる系統的レビュー(R)が出ておりました。数ある対策のなかで、精神疲労の症状を軽らしてくれるものはなんなのかってことですね。
本研究では、精神の疲労に対する行動、生理、心理対策の効果について調べた33の研究を分析。すべての研究は、30分以上の課題を用いて精神をわざと疲れさせたうえで、どのようなテクニックが効くかをチェックしたデータをまとめてくれております。すべての研究の参加者は18~50歳で、全員にいろんな技法を試したんだそうな。
でもって、現時点で「精神疲労に効く!」と言えるテクニックは、以下のようになっております。
- 複数の研究により、カフェイン単独またはブドウ糖との併用により、精神疲労の症状が軽ることがわかっている。レビューの著者によれば、33mg〜38mgのカフェインとブドウ糖を組み合わせたものは、カフェイン46mgとブドウ糖と組み合わせたものよりも効果が低い。また、1日200mgのカフェインを7日間続けて飲むのも有効だった。カフェインとマルトデキストリンで口をゆすぐことにより、参加者の体感と課題遂行能力が主観的に改善される。
- カフェインによって脳の疲労物質をブロックしてくれる効果を得られるのに加えて、カフェインの味によって精神疲労がやわらぐ可能性がある。これは、苦味の受容体がその役割を担っているのかもしれない。また、いろいろな匂い(メントールやフローラ ルなど)を断続的に嗅ぐことによっても、精神の疲労にポジティブな効果が見られた。
- 音楽やバイノーラル・ビートといった聴覚刺激は、パフォーマンスにプラスの効果をもたらす可能性がある。
- 機械的マッサージ、マイルドな蒸気浴、自然とのふれあいなどは、精神疲労からの回復をスピードアップさせた。
- マインドフルネス・トレーニングは、自己のコントロール能力を高め、最終的には難しいタスクからの疲労の軽減につながる。しかし、マインドフルネスを学ぶには、もとからある程度の自己コントロール能力が必要であることも多い。
- いくつかの研究では、仮眠や休息がプラスに作用することが明らかにされており、軽い有酸素運動が精神的疲労の回復を助ける可能性も指摘されている。また、時間に応じて報酬を与えるなどのテクニックは、参加者が主観的にまだ疲労を感じているにもかかわらず、パフォーマンスを向上させた。
ってことで、当ブログでもおなじみのメンツが並んでまして、なかでもマッサージや自然、マインドフルネス、有酸素運動あたりは良さそうですね。ただ、これらの研究は、精神疲労の測定法がいろいろとありすぎて、対策の効果を比べることはできてませんので、そこらへんはご注意ください。
アルコールでどこまで私たちの脳は縮むのか?
「アルコールって実はほんのちょっとでも健康に悪いのでは?」みたいな論調が増えてきた昨今でございます。さらに最近は、「アルコールは1gでも脳を老けさせる?」なんて話も出てまして、いよいよ困ったことになっております。
でもって、さらに最近の調査(R)では、「1日1〜2杯程度の酒でも脳が縮むぞ!」との結論になっていてビビらされました。もともと、慢性的にアルコールを飲んでいると、脳が萎縮しちゃったり、神経細胞が失われちゃったり、脳の構造に異変が出てしまうことは知られてたんですけど、実は1日1〜2杯でもヤバいのではないか、と。アルコール依存と脳への影響はよく研究されているものの、もっと低用量のアルコール消費の影響についてはまだデータが少ないので、今回の研究は非常にありがたいですね。
さて、このコホート研究では、UKバイオバンクに登録された36,768人(40〜69歳)のアルコール摂取データと、脳構造のデータをあわせて解析。この研究のために使われた脳画像には、安静時や認知タスクをやっている最中の活動がふくまれております。
以上のデータを分析して、どんなことがわかったかと言いますと、
- アルコール摂取と脳構造との間には、ミクロ構造レベルおよびマクロ構造レベルの両方でネガティブな相関が見られた。
- アルコール摂取は、脳の体積、灰白質の体積、白質の微細構造の減少と関連していた。
- アルコールの摂取と脳構造の負の相関は1日1〜2杯の少量の飲酒で検出され、アルコール摂取量の増加とともに増加した。
といった感じだったそうな。つまり、1日1杯程度の酒でも脳の体積が縮んでしまうかも?ってことですね。あくまで観察研究なので、はっきりした因果関係はよくわからないんですけど、1日1杯の酒を飲み続けるだけでもヤバいってのは、酒好きにはなかなかつらい結論ではありますね。
まー、今回の結論が、果たしてどこまで長期的に悪影響があるのかは謎なので、そこまでビビらなくてもいいとは思うものの、現時点で酒量が多い方は、少しずつ減らしていくのが良さそうっすね。
私たちの不安や抑うつはどれぐらい遺伝で決まるのか?
「私たちの不安や抑うつはどれぐらい遺伝で決まるのか?」って問題を調べた研究(R)が出ておりました。もともと、親が不安ぎみだと子供も不安になりやすいことはよく知られていたんですけども、これはどれぐらい遺伝の問題なのかってことですね。
といっても、これはまだアカゲザルの調査なので、まだまだ信頼性はアレなんですけど、アカゲザルの脳は人間に似ているところがあるので、いくばくかの参考になりましょう。
具体的にどんな実験だったかと言いますと、
- 恐怖を感じているアカゲザルの脳をスキャンする
- アカゲザルの遺伝子情報も調べて、不安になりやすい脳の特徴と遺伝の傾向を調べる
みたいになってます。不安になりやすいサルの脳をチェックして、その特性を見てみたわけですね。
その結果は、こんなふうになりました。
- 特定の個体が感じる不安の差の約35パーセントは家族歴で説明できた。
- 不安には、脳幹、扁桃体、前頭前野という3つの脳領域が関わっていた。
なんでも、不安になりやすい個体ってのは、脳幹、扁桃体、前頭前野が過剰に反応しやすく、そのせいで恐怖反応がデカくなりすぎちゃうってことらしい。その35%が親からの影響かもしれないってのは、なかなかすごいもんですな。
研究チームいわく、
基本的に、不安は危険を認識し回避するのに役立つので、ある程度は進化的に有利だと考えています。しかし、この回路が過剰に活動すると、それが問題となり、不安障害やうつ病を引き起こす可能性があります。
この研究でわかった3つの脳エリアの過剰な活動は、不安やうつ病を発症するリスクに直接関わる遺伝的な脳の変化です。これは、遺伝性不安症の神経基盤を理解する上で大きな一歩と言えます。
ということで、やはり親の影響はかなりありそうですが、ここらへんは事実と受け止めて、できる対策を考えていくしかないですねー。