【質問】「死の直前に最も後悔する5つのこと」ってどこまで正しいの?
こんなご質問をいただきました。
よくネットで「死の直前に誰もが持つ5つの後悔」のような話がありますよね。働きすぎなければよかったとか正直に生きればよかったというようなやつです。これって、どれぐらい正しいのでしょうか? ちゃんとしたデータに基づいたものなのですか?
確かに、「死の直前に最も後悔する5つのこと」って話はネットの定番でして、You Tubeなんかでもわりと定番ですね。
で、このネタ元は、オーストラリアの介護士ブロニー・ウェアさんが2011年に出した「死ぬ瞬間の5つの後悔」って本で、ご本人がブログに書いた記事がベースになってます。私も本は読みましたが、もとがニューエイジ系のブログから出たものなので、ややスピリチュアル感が強いなーって印象でした。
当然ながら、これは正当な研究ってわけではなく、もとの記事にも患者の数は書かれてないし、どんな記録を取ったかもわからないので、「データに基づいているか?」と言われれば「それはない」ってお答えになるでしょうね。どちらかと言えば実話エッセイに近い本なので、「データがないから悪い」って話じゃありませんが。
では、「人生の後悔」について、具体的なデータはどんな結論を出しているかといいますと、たとえば2011年にイリノイ大学などが行った調査(R)が参考になるでしょう。これは370人のアメリカ人に人生の後悔を尋ねたもので、ざっくり答えだけ書いておくと、
- 恋愛(19.3%)
- 家族(16.9%)
- 教育(14.0%)
- キャリア(13.8%)
- 経済(9.9%)
- 子育て(9.0%)
ってのが、もっとも一般的な後悔のランキングだったそうな。アメリカでは・恋愛、家族_子育てを合わせた「プライベートの人間関係の後悔」が43%で、教育・キャリア・経済を合わせた「仕事への不安」の35%を上回っているわけでね。
ちなみに、この研究では、「やらなかったことに対する後悔」は「やったことに対する後悔」よりも長く続くって結論が出てまして、これは昔からよく言われる話ですね。
ただ、上記はアメリカの調査なので、続いて日本で2020年に発表されたデータ(R)を見てみましょう。こちらはビジネスパーソンのみ387人を対象にしたもので、平均年齢 52.5歳だったとのこと。
おおよその傾向は、以下のようになりました。
- 仕事 34.9%
- 学業 18.6%
- 恋愛・結婚 11.6%
- お金・投資 9.0%
- 自己改善 5.3%
ということで、アメリカはプライベートの後悔が多かったのに、日本では仕事の後悔が逆転しました。全体で多いのは「もっと勉強していたら……」や「大学に行っていたら……」といった後悔で、これに「会社をやめなかったら」や「結婚しなかったら」などが続く感じです。「いかにも日本!」って感じの結果ですね。
ちなみに、こちらも「やらなかった後悔」と「やった後悔」が比較されていて、
- やらなかった後悔 58.1%
- やった後悔 27.1%
みたいな割合になってました。この点については、日本もアメリカも変わらないですね。
もっとも、上記のデータはあくまで中年期の人も対象にしてまして、「死ぬ直前の後悔」ってわけではないのでご注意ください。このポイントについては、バーゼル大学などのチームが2015年におもしろいデータを出してくれていて(R)、3つの実験を通じて、「死の意識が後悔の感情にどう影響するか?」をチェックしてくれたんですよ。
その結果について、研究チームはこんなことを言ってます。
人生の終わりになると、人々はこの終わりをできるだけポジティブにし、自分は意味のある人生を送ったと信じたい動機をますます強めるのだろう。このような背景から、人生の終わりになると、人々は以前よりも後悔しなくなると推測される。
フランク・シナトラが 「マイウェイ」で歌ったように、人生の終わりが近づくと、私たちは、後悔しそうなことを「話題にするほどのことではない」と考えるようになる。これは、理論的にも経験的にも明らかなことだろう。
というわけで、死の直前は誰でも「自分は良い人生を送った!」と思いたいので、そのおかげで後悔しそうなことに意識を向けなくなり、どんどん後悔の量が減っていく可能性が高いらしい。
無論、これとて実際に死の間際にある人を調べたわけではないので、これが結論だとも言えないんですけど、歳を取ると後悔の量が減るってのは、「人は歳を取るごとに自然に「マインドフルネス」になっていく」っていう過去のデータとも整合性があるような気がしますねー。