今週半ばの小ネタ:成功のためには考えを変えるべきか、ガチの恋愛に進むのに必要な要素とは、認知行動療法は脳の活動を変えるぞ
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
なぜ心を入れ替えることが大切なのか
世の中には、「ひとつの考えを貫くのが偉い!」って考え方があれば、同時に「柔軟に考え方を変えるのが偉い!」って考え方もあるわけです。どちらもそれなりに説得力はありまして、どっちがいいのかなーとか思っちゃうところですが、新しいレビュー(R)では、
- 最初の決断は変えたほうが良いことが多い!
みたいな結論になってておもしろかったです。このレビューは、メタ認知の機能について調べたもので、過去の研究をおさらいしたうえで、「自分の考え方を変えるのは良いことか?」ってあたりを調べてくれてます。ちなみに、メタ認知っては「考えることについて考えること」でして、さらにくわしく学びたい方は「メタ認知-あなたの頭はもっとよくなる」などをどうぞ。
で、本レビューの要点をまとめていきますと、
- 基本、最初考えを変えるたほうが成功につながるケースが多い。
- これは、考えを変えるほうが最初の失敗を修正することにつながるからである。
- しかし、人は本質的に自分の考えを変えることを嫌う生き物でもある。
- これは、「考えを変える」ということは自分の非を認めることにつながるのと、熟考し続けることにエネルギーを使うのを嫌うためだと思われる
みたいになります。仕事でどのリソースを使うか、どの商品を選ぶか、あるいはどのレストランに行くかなど、人生のいろんなことにおいて、最初の考えに頑固にこだわらない方がうまくいくケースは多いみたいなんだけど、たいていの人は最初に決めたことを守る方が簡単なので、容易には考えを変えようとしないわけっすね。
研究チームいわく、
ここでの重要なポイントは、人はそれをするのが好きではないにもかかわらず、考えを変えることは良いことであるということだ。
しかし、ほとんどの人は、自分の考えを変えることを好まない。最初の決断を変える機会を与えられても、切り替えようとしないのだ。これは、考えを変えた後に間違った決断をすると、最初の決断に固執して失敗するよりも強い感情が生まれるところも大きい。
とのこと。人間ってのは、以前に考えを変えてうまくいかなかったことを強く記憶する傾向があるいっぽうで、逆に最初に決めたことに固執してそれが失敗に終わったことは、あまり覚えていない傾向があるんだそうな。そのせいで、実際には考えを変えたほうがよくても、最初の思考にこだわりすぎちゃうんですね。これは重要なポイントっすねぇ……。
ガチの恋愛に進むためにもっとも必要な要素とはなにか?
恋愛では見た目大事なのは間違いなく、ルックスが良い人がモテるのは間違いないところです。ただ、多くの恋愛研究ってのは、
- 第一印象でどんな人に惹かれるのか?
- すでにカップルとして成立した2人は、どうやればうまく関係性を続けられるか?
ってとこに焦点を当ててるケースがほとんどだったんですよ。つまり、恋愛のはじまりと終わりにばっか注目してきて、第一印象から実際に付き合うまでの移行期間には注意を払ってこなかったんですな。これは大きな不備と言えましょう。
ってことで、新しい研究(R)では、「最初の出会いからコミットした恋愛に移行するには何が必要なのか?」ってとこを調べてくれてて、おもしろかったです。
研究チームは、ヘテロな大学生の男女208名を対象に、「7ヶ月にわたってどのような恋愛をしたか?」をチェック。7,000件以上の恋愛レポートを集め、その内容を分析したんだそうな。結果、参加者たちは、この期間に平均5回の片思いをし、そのうち約15%が交際に発展したととのこと。
でもって、分析の結果がどうだったかと言いますと、
- 最初に相手に惹かれてから恋愛関係に移ったカップルは、「相手の顔が好き」やら「相手の体型が好き」やら「相手と性的な欲求を満たしたい」みたいなポイントはどうでもよくなっていた。
- 一方で、コミットした恋愛に進んだカップルは、「相手と離れていると不安になる」や「相手に自分の成功体験を話したい」といった欲望をベースにしていた。
だったそうです。つまり、片思いからカップルに進むのは、お互いのルックスどうこうよりも「感情的なつながり」がブーストしなければならないわけっすね。
研究チームいわく、
愛着と感情的なつながりの感情が芽生えたときに、学生たちは「この人は追いかける価値のある人だ」と考えるようだ。
これは、「最も価値のある相手」を手に入れるための戦いではない。若者は、性的な魅力と感情的なつながりの両方を刺激してくれる相手を探そうとする。
ということで、もちろんルックスの重要性は変わらないものの、そこからガチの恋愛に発展させたければ愛着を刺激する施策を取らねばならないのだなーってことで。
認知行動療法は脳にどのような影響を与えるのでしょうか?
このブログでは、メンタル改善のために認知行動療法を推してるわけですが、新たなメタ分析(R)では「認知行動療法で脳が変わるぞ!」って結論になってていい感じでした。認知行動療法で気持ちが楽になる人は多いんですが、これは実際に脳の働きが変わったおかげではないのか、という問題を調べてくれたわけですね。
このメタ分析は13の研究をまとめたもので、いずれの調査もメンタルの病気に対する認知行動療法の効果をチェックし、fMRIなどを使って、認知行動療法の前後で脳の神経にどのような変化を起きるのかを調べてくれております。で、そこでどんな結果が出たのかと言いますと、
- 認知行動療法をした参加者は、左前帯状回(ACC)および左中前頭回(LMFG)の活性化が低下してた(認知課題では、感情調節、認知処理、動機づけ、社会的相互作用に重要な役割を果たす脳領域である)
- それと同時に、デフォルトモードネットワーク、実行制御ネットワーク、サリエンスネットワークの活性も減少させた
って感じだったそうです。なんか専門的な用語ばっかで難しいですが、AACとLMFGってのは感情コントロール、認知処理、動機づけなどに重要な役割を果たしているエリアで、ACCは、情動のコントロール、高次認知、動機づけに関わっているエリアです。つまり、これらの脳領域の活性が抑えられたことで、ネガティブな感情を低下させるのに役立ったわけですね。
中でも注目すべきは、認知行動療法によって「自分に関する思考」に関わる脳の活性が低下したことで、そのおかげで「無(最高の状態)」でも書いたような、自己の問題が起きにくくなってるかもしんないらしい。うーん、これもすばらしい成果ですね。というわけで、認知行動療法について気になる方は、ジュディス・ベック御大の「認知行動療法実践ガイド」をご参照ください。