今週末の小ネタ:認知行動療法の実力、科学の誤情報を正す方法、恋愛なんてしなくてもいい若者が増えている理由
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
認知行動療法って他のセラピーより効果的なの?のメタ分析
メンタル改善のゴールドスタンダードといえば、毎度おなじみ認知行動療法。かなり研究例が多いのと、効果が高いと言われているのとで、かなり評判が良いセラピーのひとつであります。
が、まだよくわかっていないのが、認知行動療法って他のセラピーよりも効果が高いの?って問題です。認知行動療法の評価が高いのは確かなんですけど、果たして効果はいかほどのものなのか、と。
ということで、 新しいメタ分析(R)では、認知行動療法と他のセラピーの効果を比較してくれていて参考になりました。
これは、各セラピーの効果を調べた409の試験をまとめたもので、52,702人のデータを分析してくれてます。心理療法に関するメタ分析としては過去最大クラスでいいですね。
で、その結果をざっくりピックアップすると、以下のようになります。
- うつ病の治療に認知行動療法は効く。ただし、認知行動療法が、他の精神療法と比べて、特に優れているわけではなかった。
ということで、認知行動療法がメンタルに良い影響をもたらすのは間違いないものの、その効果は、力動的精神療法のように約300件ものRCTがあるような療法と比べた場合は、目立って優れた効果を持っているってわけでもないらしい。
それでも、専門家が認知行動療法を持ち上げることが多いのは、「認知行動療法はマニュアル化された治療法なので、科学的な実験をしやすいのが大きい」とのこと。確かに、力動的精神療法などは手間と時間がかかるし、マニュアル化されてるぶんだけ個人でも取り組みやすいので、その点は認知行動療法のほうがいいってのはあるでしょうね。
そんなわけで、認知行動療法がすばらしいのは確実ながら、その有効性は他と比べて目立ってすごいわけでもなさそう。後は「好み」とか「時間」の問題になりそうなので、個人的には、取り組み方が明快な認知行動療法がやっぱ好みかなー、と。
科学の誤情報を正すにはどうすればいいの?
世に広まる疑似科学的な情報をどうするか?って問題を、ペンシルバニア大学の先生方が調べてくれたので、内容をチェックしておきましょう(R)。
これは、科学に関する誤った情報を信じている人を説得するにはどうすればいいか?ってのを掘り下げた研究で、同じテーマを扱った先行研究から、74のデータから60,861人分のデータをメタ分析し、こんな結論を出しております。
- 科学に関する誤った情報を否定しようとしても、たいていはうまくいかない(d= 0.19)。
- 科学に関連した誤報のほとんどは、たとえ否定的な情報が提示されても、本人の考え方は変わらない。
- ポジティブな誤情報の方が、ネガティブな誤情報よりも修正するのが難しい。
- 誤報の訂正が人々のイデオロギーと矛盾する場合、みんな訂正を拒否し、逆に誤報への支持が強まりやすい。そのため、例えば、左寄りのイデオロギーを持つ人は、気候変動の支持につながる訂正であれば受け入れる傾向がある。
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新型コロナワクチンのように、トピックが極論化されている場合、訂正はかなりの確率で失敗する。極論化された誤報を否定するのは、極論化されていない誤報を訂正するよりも2倍以上難しい。
ということで、基本的にいったん間違った科学ニュースを信じると、それを変えさせるのはほぼ不可能なんだ、と。
研究チームいわく、
そのため、科学に関連する誤報のほとんどは、反論が提示されても訂正されないままとなる。
これは非常に注目すべき現象だ。なぜなから、事故や政治的な出来事に関する報道など、他の領域でにおいては、訂正によって考え方を変えられることが、過去の研究でも示されているからだ。
とのこと。他の分野では、ある程度まで誤報への信頼度は変えられるものの、科学ではなぜか難易度が上がっちゃうらしい。まぁ科学って難しいからなぁ。
もっとも、研究チームは、どのようなメッセージを送ると、間違った科学ニュースの訂正に役立つかも調べてまして、その結果によると、
- 訂正メッセージに詳細な説明があると、多くの人は内容を受け入れやすくなり、誤った情報を否定する気持ちが生まれた。
って感じだそうです。誤った情報を正すには、とにかくディテールをぶつけてみるしかないわけですね。
詳細な訂正を使ってトピックに対する親近感を高め、政治的な議論ではなく科学的な議論をすることで分極化を防ぐのがよい。しかし、もしそのトピックがすでに政治的に偏向しているのであれば、受け手の政治的なイデオロギーに沿った形で訂正をしたほうが効果は高い。
ってことなんで、いずれにせよイデオロギーが根底にあると、なにかと大変だよなぁって感じではあります。
恋愛なんてしなくてもいい!って若者が増えている理由
「『恋愛しなくてもいいじゃないの』って若者が増えてるよー」みたいなデータ(R)が報告されておりました。若者の未婚率が世界的に増えているのは周知の事実ですけど、この研究では、それがなぜ発生しているのかをチェックしてるんですね。
これはマレーシアの大学が行った調査で、同地に住む18歳〜24歳の若者232人が対象。みんなの恋愛や結婚に対する価値観を調べ、さらには独身への不安などの要素もチェックして、恋愛をしない若者の特徴をあぶり出したんだそうな。
で、分析の結果わかったのは、以下のポイントです。
- フラティズムに賛成する若者ほど「恋愛なんてしなくてOK!」「恋愛なんてなくても幸せ!」と考えていた。
ということで、フラティズムを信じる人は、恋愛や結婚を幸福な人生に欠かせない要素だと考えていなかったわけですね。
フラティズムってのは中国で生まれた概念で、「フラットな生き方を目指そう!」みたいな考え方のことです。人生になんの劇的なことも起きず、良いことがない代わりに、悪いことも起きない、穏やかな人生を目指すのがフラティズムです。ポジティブもネガティブも控えて、ひたすらフラットを目指す生き方ですね。
そのため、フラティズムを実践する人は、できるだけ日常のストレスを減らし、いまあるもので質素な暮らしを心がけ、自分の価値にもとづいた行動をすることが推奨されます。人によっては退屈な生き方に思えるかもですが、刺激に弱い人にとっては、こちらのほうが良い生き方かもしれませんな。