このブログを検索




1日の「食べなさすぎ」と「運動しすぎ」はどちらが体に悪いのか?

   

 

ダイエットや体づくりにこだわる人なら、一度はこんなことを思ったことがあるんじゃないでしょうか。

 

「昨日ちょっと食べなかっただけだし、今日も全然走れるっしょ!」

「運動を頑張ったぶん、多少食事を減らしても問題ないはずだ!」

 

こういった考え方は、たしかに理屈ではその通りでして、1日や2日ぐらいのカロリー不足なら、すぐに大きな問題になることは少ないように思えるでしょう。が、新しい研究(R)では、“たった1日”のカロリー不足でも、持久力に重要な「代謝システム」に影響するかもよーという、ちょっと怖い結論になっておりました。

 

 

たった1日のエネルギー不足で、脂質代謝が変わる

これは、日頃から持久系のトレーニングをしている20人(男女半々)を対象にした実験で、サイクリングやトライアスロン、ランニングを専門とする、いわば「中〜上級者アスリート」だけを集めたんだそうな。

 

研究チームは、以下の5つの条件での代謝とパフォーマンスへの影響をチェックしております。

 

  • 食事制限だけして低カロリー状態を作る(要するに、ただ食べない)
  • 運動をしまくって低カロリー状態を作る(=動きすぎ)
  • 食事しまくり+運動なし
  • 食事しまくり+運動しまくり
  • とにかくめちゃくちゃ食べて休憩しまくる

 

で、それぞれの脂質の代謝をチェックしたら、上のうち1と2の条件を実践した時だけは、たった24時間でも脂質代謝のパターンが明らかに変化していたんだそうな。

 

具体的に、どんな変化が起きたのかというと、

 

  • 運動をしまくって低カロリー状態を作った場合:脂肪の酸化(いわゆる“脂質燃焼”)が最大になった。
  • 食事制限だけして低カロリー状態を作った場合:上に次ぐレベルで脂肪の酸化が進んだ。
  • 食事しまくり+運動しまくりの場合:同じように脂肪燃焼は高まる傾向があった。
  • とにかくめちゃくちゃ食べて休憩しまくった場合:脂質代謝は低めになった。

 

という感じです。一見すると、「脂肪が燃えてるなら良いのでは?」と思うかもしれませんが、これってのは裏を返せば「糖(グリコーゲン)を温存できていない」ってことでもあるんですよ。

 

本来、持久系の運動では「脂肪をなるべく使って、糖はできるだけ後半まで温存しようぜ!」ってのがセオリーでして、グリコーゲンを早く使い切っちゃうと、終盤でバテやすくなるんですよね。つまり今回の結果は、たった24時間の低カロリー状態でも「糖の節約モード」には入れず、エネルギー効率が落ちる可能性があるってことですな。

 

 

筋力や認知機能には影響がないが、油断は禁物だ

一方で、今回の研究では、以下のような点には悪化が見られませんで、これもなかなか面白いところです。

 

  • 筋力・瞬発力(ジャンプ、筋力テスト)
  • 認知機能(ストループテスト)

 

つまり、短期的な低カロリー状態ってのは、「持久力の土台」である代謝には影響するんだけど、パワーや集中力にはそこまで影響しないってことですね。

 

でもここで油断しちゃいけないのは、「パワーや認知が大丈夫だったからOK」って話ではなく、

 

  • 代謝の異常は、パフォーマンスの劣化の“前兆”になるかもしれない!

 

ってのがあるからです。実際、過去の研究では、2週間の低カロリー状態によって、筋力やジャンプ力、鉄分の減少などが起きたなんて例も報告されてまして、短期→中期→長期へと悪化の連鎖が進む恐れがあるって報告も出てますからね。

 

さらに注目したいのは、「低カロリーの原因」によって影響度が違う点でして、「食事をしない低カロリー状態」よりも、「運動しまくった低カロリー状態」のほうが、代謝や疲労には悪影響が大きかったし、筋肉痛のレベルも「運動しまくった低カロリー状態」のほうが重かったって結果が出てるんですよ。要するに、「食わなすぎ」よりも「運動しすぎ」のほうが良くないってことですな。

 

これはちょっと意外かもしれませんが、要するに運動によってグリコーゲンを消耗しているぶん、「糖がない」「脂肪を使い切った」という状態に早く到達してしまうわけですな。つまり、「昨日ハードに動いて、ろくに回復してないのに、また今日もガッツリ運動」というパターンこそが最も危ないってことですね。

 

 

男性も女性も、影響はほぼ同じ

ちなみに、今回の研究では、男女10人ずつを比較した結果、低カロリー状態に対する性差は見られなかったとのこと。一般的には「女性のほうが低カロリーに弱い」といった印象がありますが、今回のような短期的ケースではあまり関係ないのかもですな。

 

ただし、過去の研究では、やはり女性は低カロリー状態に陥りやすい傾向があるのは事実なのでご注意ください。特に、体重ごとに階級をわけるスポーツや美的な外見が求められる競技(体操とかダンスとか)では、低カロリー状態の発生率が高いことがわかっております。

 

ということで、ここまでの内容をまとめると、教訓はこんな感じになるでしょう。

 

  • たった1日の低カロリー状態でも代謝に影響がある
  • 特に運動しすぎの低カロリー状態が危険
  • 代謝の乱れはパフォーマンス低下のサインかも
  • 筋力や集中力が無事でも安心してはダメ

 

つまり、「1日ぐらいなら…」の積み重ねが、気づけば“ヤバい状態”になっているかもしれないってことですな。

 

もっとも、今回の研究によると、「短期的な低カロリー状態は、数日間のリフィードや休息で回復可能」って結果が出てるのもポイントであります。実際、過去の研究でも「14日間の低カロリー状態 → 3日間のしっかりした補給」でパフォーマンスが元に戻ったという報告があるんだそうな。もしここでうまく低カロリー状態を戻せないと、それが“慢性化”しちゃうので注意したいところですね。

 

要するに、些細な低カロリーの積み重ねが、やがて持久力の低下や慢性疲労の原因になるかもしれないので、運動と同じくらい回復(食事と休養)にもリソースを割くのが大事って話ですね。というわけで、「ちょっとしか食べてないのに今日は動きすぎたかも……」という日があったら、次の日は迷わずしっかり食べて、しっかり休むようにしてくださいませ。どうぞよしなに。

 


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM