人間は150を超える人間関係を維持できない!って説はどこまで正しいのか?問題
ダンバー数ってあるじゃないですか。「人間は150を超える人間関係を維持できない!」みたいな考え方で、進化心理学者のロビン・ダンバー先生が提唱したものです。
ざっくり説明しますと、
- ある生物の集団の数は大脳皮質のサイズに対応している
- ヒトの脳のサイズから見ると、コミュニーケーションの情報を処理する力にも制限があるはず
- いろんな集団を見てると、おそらく150がマックスだ!
みたいな考え方です。対人コミュニケーションは認知の負荷が大きいので、必然的に私たちがつきあえる人間の数にも限界があるはずだ!という考え方ですね。一般にもかなり有名な学説のひとつじゃないでしょうか。
ただ、これについては後年になって疑問も多く出てまして、たとえば霊長類の脳サイズについて改めて調べた2017年研究(R)では、「脳のサイズって社会集団のサイズよりも、単に食事の違いで決まるんじゃない?」みたいな報告をしてたりします。取り扱うデータの種類を変えると、「食事にも関係が!いや、狩猟スキルにも関係が!」みたいにいろんな相関が出てきちゃって、少なくとも「ヒトの大脳は社会集団のサイズに比例している」と断言するのは難しそうなんですよね。うーん、難しい。
でもって、新しくストックホルム大学などから出た研究(R)もダンバー数に不利な結論を出していて、雑にまとめてみると以下のような調査になります。
- ダンバー先生が行ったオリジナルの分析を、より大きな3つのデータセットを使って再検証
- 2つの異なる統計アプローチを使って分析
ってことで、オリジナルの研究よりもかなり広範なデータと高度な統計手法を使っていて、いい感じではないかと。
そして、分析の結果として何が分かったかと言いますと、
- ダンバー数の推定値にはバラつきが大きく、95%信頼区間もやたら大きい(つまり、ダンバー数の推定値は信頼性が低い)
- ひとつの推定値を人間のグループサイズの認知的限界とみなすことはできなかった
- あるモデルでは、脳が人づきあいを処理できる人数は4人から508人の間に収まる可能性がある
だったそうです。要するに、ダンバー先生のオリジナル研究は、「多くの人間のグループはだいたいこれぐらいのサイズに落ち着くよねー」って推定ができるものの、決して「そのサイズが最適なのだ!」とか「そのサイズが限界なのだ!」と言うことはできないってことですね。
もちろん、この結果についてはすでにダンバー先生も反論(R)を出していて、
- 霊長類の社会は複雑なんだから、ここで使われてる分析法じゃダメでしょう!
- 霊長類全体を分析しちゃったら、正しい予測はできないでしょう!
と申しておられました。個人的には、今回のストックホルム大学の分析のほうに説得力を感じるんですけど、はっきり言えないので態度は保留にしときます。
まー、しかしこれまでダンバー数に寄せられた指摘などを見てますと、
- ヒトが形づくる集団のサイズは、ダンバー先生が言うほど脳の限界によって厳密に制限されてるわけじゃなさそう
- もちろん脳の処理能力には限界があるけれど、モチベーションや好みによって限界を乗り越えることもできるかもしれない
ぐらいのことは言えそうじゃないでしょうか。要するに、「最適に機能する集団サイズとは?って問題は振り出しに戻った!」ということで、なんとも難しいっすね。
ちなみに、ダンバー先生の知見は「最高の体調」の一部でも使わせていただいてまして、そこらへんは修正が必要な日が来るかもなーとも思いました(ダンバー数そのものの話は使ってないけど、ストレスの章の「親友の数」のくだりで先生の説を参照している)。