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ノースウェスタン大学の専門家「外国語をしゃべれる人ってメリットだらけでしょ!」



言語の力(The Power of Language)」って本を読みました。著者のヴィオリカ・マリアン先生はノースウェスタン大学コミュニケーション科学科の先生で、ずっと「マルチリンガル」の脳を研究してきた人とのこと。ご本人も英語、ロシア語、ルーマニア語に堪能なんだそうな。

 

 

で、この本の内容をひとことで表現すると、

 

  • 複数の言語を話せる人は、ひとつの言葉しか話せない人よりめっちゃ有利!

 

ってのを延々と説得してくる感じです(正直、内容に比して分量が多すぎる気はする)。モノリンガルな方には、ちょっと切ない内容っすね。

 

 

ってことで、本書で勉強になったポイントをいくつか並べてみると、こんな感じになります。

 

 

  • 現実は言語によって形作られる:私たちが認識している現実は、五感からの情報入力に、これまでの知識や経験を組み合わせて生まれる主観的な体験である。その解釈はおもに言葉で行われるため、異なる言語を使えば、おのずと認識する現実の種類にも違いがうまれる。事実、複数の言語を話す人は、それぞれの言語によって活性化される神経ネットワークが異なる。

    「何が見えたか?」や「何が聞こえたか?」という感覚的な知覚も、言語によって変化することがあり、同じものを見聞きしても異なる解釈が生まれることはめずらしくない。これは、私たちが使う言語は、情報を整理、処理、構造化する最も強力な方法の1つだからである。

 

 

  • マルチリンガルになると「私」が変わる:第二言語の習得は、私たちの脳とアイデンティティを変化させる。言語を切り替えると、たいていの人は、いままでの感じ方、記憶、決断、アイデアなどに変化が生まれることが多い。

    心理言語学の実験では、言語が記憶の内容に影響することも分かっている。ロシア語と英語のバイリンガルは、英語のモノリンガルよりも探しものをするのがうまい。異なる言語を話す人は、物事を見るだけでなく、記憶する内容も異なるからである。

    それと同時に、言語が異なれば、判断の方法も異なる。トロッコ問題とバイリンガルの関係を調べた研究では、母国語で回答した場合、バイリンガルの20%が「5人を救うために1人を犠牲にすることは許される」と回答したが、第二言語で回答した場合は同じ数字が33パーセントに変わった。これは「外国語効果」と呼ばれるもので、私たちの多くは、母国語でない言語で考えたほうが、より合理的で、感情的でない意思決定ができる

 

 

  • マルチリンガルは脳の健康に良い:複数の言語を話す人は、加齢にともなう認知機能の低下や認知症の予防に役立つ可能性がある。観察研究によれば、多言語社会ではアルツハイマーの発症率が低く、平均使用言語数が1つの国は、2つ以上の言語を使用する国よりもアルツハイマー病の発症率が高いと報告されている。複数の言語を知っていると、アルツハイマー病や他のタイプの認知症を平均で4~6年遅らせることができるかもしれない。

    これは、脳の中のある記憶や情報にアクセスできなくなったとしても、バイリンガルは2つの言語を使って脳のデータベースにアクセスできるため、よりうまく脳を使うことができるからだと考えられる。

 

 

  • マルチリンガルは騙されにくい:ある実験では、2つの言語を話す人ことができる人は、こちらを操作するような言葉づかいを見抜くのがうまかった。多くの言語を経験するによって、私たちは言葉に操られにくくなる可能性が高い。

 

 

ってことで、いろいろな言葉を話せる人は、ひとつの言語だけでは不可能な思考の広がりを持つことができ、世界を異なる視線で見つめるのもうまく、感情にとらわれない冷静な思考ができ、そのおかげで脳が鍛えられるのではないか?って話がひたすら展開する一冊でありました。

 

 

で、個人的な感想を申し上げますと、「世界は言葉で作られているのだ!」って考え方は好きなものの、ところどころ「論旨が怪しくないか?」と思っちゃうようなところも多い印象でした。

 

 

というのも、この本で取り上げられる研究ってのは、fMRIで脳の活動をチェックしたものが多いんですよ。要するに、いろんな言葉をしゃべってる人の脳をスキャンして、どんなときに脳の血流が変化するのかを測定してる研究が多いわけですな。

 

 

ただ、このfMRI研究の結果ってのは、「あるタスクを行っているときは、特定の脳領域がピカピカ光るんだ!」ってのを前提にしてるんで、わりと都合がよい解釈をしやすいところがあるんですよ。たとえば、本書でも「マルチリンガルは言語処理に使われる脳のエリアが光らない!」ってデータが引用されてるんだけど、これだけだと、

 

  • 実はマルチリンガルは脳の言語機能をちゃんと使えていない?
  • マルチリンガルは脳のリソースを効率よく使えるから、脳が光らないだけ?

 

みたいに幅の広い解釈が可能になるんですよね。もちろん、マリオン先生は2つめの解釈を使っているわけですが、このような判断は、「脳がの特定エリアが光るのはすばらしいことだ!」「脳の特定エリアが光らなのはもっとすばらしいことだ!」と言ってるようにも見えるわけで、うーん、これはちょっとなぁ……というところです。

 

 

まぁ繰り返しになりますけど、「世界は言葉で作られているのだ!」って考え方には非常に同感なので、そのあたりの証拠がためはもうちょういやって欲しかったですかねぇ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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