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【質問】 クリニックでやってる「 ダイエット注射」って効果ありますか?

 


こんなご質問をいただきました。

 

ダイエット注射って意味ありますか?最近いろんなクリニックで、GLP-1注射の宣伝をよく見かけるのですが。

 

ってことで、GLP-1の注射には減量効果があるのかというご質問です。GLP-1薬ってのは血糖値を管理する ためのお薬で、食欲を抑える効果があるため、2型糖尿病患者や減量を目指す人に処方されることがあるんですよね。

 

そのため、現在では、1部の美容クリニックもGLP-1注射を扱ってまして、

 

1日1回のダイエット注射でGLP-1を体内に補充することで、自然に食欲を抑え空腹感が減少するので、食事の量も自然に減り、食べ過ぎることがなくなります。

 

といった宣伝文句で、 商品を売っていたりしますね。 ここで使われているのはGLP-1アゴニストってやつで、 自然のホルモンであるGLP-1と似た働きをするんですよ。 これによってインスリンの分泌を刺激したり、グルカゴンと呼ばれる食欲を抑えるホルモンを増やしたりして、 ダイエットに効くと考えられてるんですね。 ちょっと前に紹介した「ウゴービ」という新薬も、GLP-1に 関係しております。

でもって、注射系のGLP-1アンタゴニストはいくつか種類があるので、 よく使われるやつから簡単にチェックしてみましょう。

 

 

  • サクセンダ:かなりいろんなクリニックで見かける商品。 欧米だと、肥満に関する病気を少なくとも1つ持っている肥満症または過体重の成人に承認されている。

    肥満症患者169人を対象とした2021年の研究(R)によると、サクセンダ使ったうちの62.1%が、6ヵ月の間に体重を少なくとも5%減少させた。17.2%は体重が10%減少した。

    277人を対象とした別の研究(R)では、1日3mgのサクセンダを続けることで、7ヵ月後に平均4.1kgほど体重が減った、ベースライン体重の約4.2%が減少した。ただし、この研究はノボ・ノルディスク社から資金提供を受けている(サクセンダの製造元)。

    というと良い気もするが、 いずれもかなりの肥満体な人しか対象にしてないので、ちょっと腹周りが気になるから、ダイエットしたいぐらいの人が使ったところで意味がない可能性は高い。 さらには自分で毎日注射する必要もあるし、薬をやめた途端に リバウンドするケースもめっちゃ多く報告されている。さらには、1回あたりの使用量にもよるが、3ヶ月で9〜30万円ぐらいかかってしまうので、 とても使い続けられるようなもんではない。

 

 

  • オゼンピック:2型糖尿病患者のために承認された注射剤。 毎日注射しなくても良いのが売りで、日本でも 取り扱うクリニックが増えてきた印象ですね。

    週に1回だけ注射すればOKで、通常は週1回0.25mgから開始し、4週間後に0.5mgに増量するように指導されるはず。2.0mgあたり2〜25,000円ぐらいなので、サクセンダよりは安価ですな。

    2型糖尿病患者を対象とした2018年の試験(R)によると、週0.5〜1mgのオゼンピックは、血糖値の改善および体重減少において、別のGLP-1アンタゴニストよりも有効だったと報告されている。

    さらに、2019年の研究(R)では、2型糖尿病患者577人を対象に、オゼンピック(週1mg)とサクセンダの効果を30週間にわたって比較したところ、オゼンピックの方が血糖値が改善し、体重も3倍以上減少した。ただし、 どの研究もノボ・ノルディスク社から資金提供を受けている(オゼンピックの製造元)。

    というわけで、 こちらもなんか良さそうな気がしてきますけども、特に体重減少を目的として承認されているわけじゃないし、投薬を止めた途端にリバウンドする可能性は高いしで、 やはりダイエット目的で使うのは現実ではないでしょう。

 

 

  • トルリシティ: こちらもクリニックで ちょくちょく見かける注射薬です。週1回だけ注射すればOKで、通常は週1回0.75mgから 初めて、医師の勧めがあれば週1回3mgぐらいまで 増やしていく感じ。

    1,307人が対象の研究(R)によると、トルリシティを 使った参加者は、最長30ヵ月でHbA1cを1%減少させ、体重が平均2.9kg減少した。さらに、6つの研究をまとめたレビュー(R)では、1.5mgのトルリシティで治療を受けた人の多くに有意な体重減少とHbA1c値の低下が見られた。ただし、 どの研究もるイーライリリー社やその他の製薬会社から資金提供を受けている。

    ってことで、この薬が上記の2つよりも良いか悪いかは判断しかねますが、こちらもオゼンピックと同じ理由から、 気軽なダイエット目的で使うのはどうかなぁ……って印象。

 

 

てことで、代表的なものをいくつか見てみました。 他にも、ビクトーザとかバイエッタとか、 類似の注射薬はいくつかあるのですが、どれも似たような感じなので割愛。 基本的なデメリットについては、どの薬も同じようなものだと考えてください。

 

で、以上の話を踏まえて、私がどう思っているかと言うと、

 

  • GLP-1の注射は、2型糖尿病患者の血糖値を改善するために使うの基本。減量用として海外では承認されているが、 結構なレベルの肥満の人を対象にしているので、「ちょっと お腹がタプタプしてきたなぁ」レベルの人が使うもんではない。 それも、通常は、食事療法や運動療法など、他のダイエットを試みて成功しなかった場合にのみ処方されるものであり、 クリニックで手軽に入手しちゃうのは問題ありそう。

 

  • もし注射を使ったとしても、食生活の見直しや定期的な運動は必須。 ライフスタイルの改善と組み合わせないと、筋肉がめちゃめちゃ減ったり、骨がスカスカになってしまったりといった 問題が起きやすくなる。

 

  • さらに、GLP-1の注射は誰にでも効くわけではなく、望ましくない副作用を引き起こす可能性もある。 具体的には、吐き気、頭痛、めまい、疲労などが報告されている。 研究の参加者の中には、食欲が全く減らなかった事例もいくつかあるので、金をドブに捨てることにもなりかねない。

 

  • 多くの研究は、製薬会社から資金提供を受けているため、潜在的なバイアスや利益相反の可能性がある。

 

といった感じです。 まぁ専門員の指導を受けながら使えるんだったら良いかと思いますが、それ以外のところで安易に手を出さないほうがいいんじゃないでしょうかねぇ。 どうぞよしなに。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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