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今週の小ネタ:フロー状態に欠かせない2つのポイント、タブー行為で痛みに強くなる、高地トレーニングを正しくやる条件


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

   

 

フロー状態に欠かせない2つのポイント

「フロー状態に入る方法を探したぞ!」って論文(R)がおもしろかったのでメモ。フローってのは、今していることに完全に没頭している状態のことで、

 

  • あっという間に時間が過ぎる
  • 自分の状態には意識が向かない
  • 作業のモチベーションが上がる
  • とにかく作業がめちゃくちゃ楽しい

 

みたいな感覚を体感することになります。 こいつに入ると、生産性が爆上がりすることが知られまして、非常に素晴らしい精神状態と言えるんですよね。

 

フローの入り方については過去にもいろいろやっていて、

 

 

といった話を紹介してきました。 まぁフロー状態に入るのは簡単ではないんですが、 それでもフローが発生しやすい状態を整えておくのは大事。

 

ということで、この研究では、32人のジャズギタリストを集めて脳の電気活動をEEGで記録する調査を行っております。それぞれに即興で演奏をしてもらいつつ、その後にフロー状態の強さを評価し、 さらに録音した音源を専門家に聴かせて創造性のチェックも行ったんだそうな。

 

その結果、 何がわかったのかと言いますと、

 

  • 経験豊富なジャズ・ミュージシャンは、経験の浅いミュージシャンよりもフロー状態が発生しやすい。
  • フロー状態は、上前頭回での活動が少ないことと関連していた(実行制御に関係する脳の領域)。
  • フロー状態にあるとき、経験豊富な音楽家はデフォルト・モード・ネットワークの活動が低下していた(デフォルト・モード・ネットワークは、 私たちが ぼんやり何かを想像したり内省したりしているときに活性化する脳のエリア)。

 

みたいな感じです。と言っても、これだと何が何だかよくわからないので、 研究チームの言葉を引用しましょう

 

これらの結果からわかるのは、生産的なフロー状態に入るには、特定の専門知識を蓄積するための練習を積み、十分な専門知識が得られたあとで意識的なコントロールを取りやめることによって達成できる、ということである。

 

うーん、 これはなかなか含蓄のある結論ですねぇ。 このことをさらに簡単にまとめてしまうと、 フロー状態に入るためには、

 

  1. その作業をこなすために必要な『専門知識』を、徹底的に脳へ叩き込む。

  2. その後、実際に作業を行うときは、その専門知識を何も意識しない状態で取り組む。

 

みたいになりますね。 何でもいいから、まずはフロー状態に入りたい作業を徹底的にやり続けて専門スキルを蓄積し、それから身につけたものを手放した状態で作業に取り組めばいいってことですな。

 

そう考えると、 ある程度の蓄積がないものに対してフロー状態は発生しづらいってことで、やはりフロー状態に入るにはそれなりの時間が必要そうですね。

 

 

 

タブー行為で痛みに強くなる

タブー行為で痛みに強くなる!」って研究(R)が出ておりました。 欧米においてタブーとされる行為(Fワードを口にしたり、中指を立てたりとか)をすることで、痛みの感受性が低下し、痛みの耐性が高まるって話であります。

 

これは111名の大学生を対象にした試験で、61%が女性、平均年齢は19歳だったとのこと。 実験デザインを簡単に説明すると、

 

  1. 参加者に利き手ではない方の手を氷水(2~5℃)に沈めてもらい、研究室のライトが点滅するたびに、1秒間隔で「ファック!」と何度も言ってもらう。 それ以外の参加者は、 ライトが点滅するたびに「フラット!」と言ってもらう。

  2. まだ別の参加者には、利き手でない方の手を氷水につけてもらい、研究室のライトが点滅するたびに、利き手の中指を立ててもらう。それ以外の参加者は、 ライトが点滅するたびに人差し指を立ててもらう。

  3. どちらの実験でも、参加者はできるだけ長く氷水に手を浸すように指示し、その後、 みんながどれぐらいの痛みを感じたかを調べる。

 

って感じになります。社会的にタブーとされる行為を行うことで、 氷水の痛みが変わるかどうかを調べたわけですね。

 

その結果は、こんな感じになりました。

 

  • 「ファック」と言った参加者と、 中指を立てた参加者は、 どちらも長く痛みに耐えることができた。
  • 主観的な痛みのレベルも、 タブー行為を行った参加者の方が低かった。

 

なぜタブー行為で痛みが軽減されるのかは謎ですが、 研究チームは、 これらの行為によって「痛みが 引き起こすイライラや怒りの感情が軽減されるからかもしれない」と推測しております。 タブー行為によって、ネガティブな感情が一時的に収まり、 それによって痛みにも強くなるのではないかと。

 

まぁ、この研究だけだと原因については何とも言えないんですが、 タブー行為によるカタルシス効果ってのはあるかもしれないですね。 ひょっとしたら、ネットで悪態ばかりついている人は、 本当は弱い心が傷ついているのを軽減するために、一時的なカタルシス効果に 頼っているのかもなぁ…… とか思ったりしました。

 

 

 

高地トレーニングを正しくやる条件

高地トレーニングを正しく行うにはどうすればいいのか?」を調べたメタ分析(R)が出ておりました。

 

高地トレーニングってのは標高が高くて酸素濃度が低い場所でトレーニングをすることで、 特に持久力を高めるのに役立つとされております。長距離系の アスリートなどは、よく標高2,500mで高地トレーニングを行ったりしてますな。

 

ただし、 今の時点では、高地トレーニングには“定番”と言えるようなやり方はなく、どの方法が最も効果的なのかはわかっていないんですよ。 そこで研究チームは、 過去の高地トレーニング研究から17件をピックアップし、 最も効果的な方法を確かめてくれたんですね。

 

で、まず大きな結果から言っておくと、

 

  • 前提として、高地トレーニングには、やはりVO2maxを高める効果があり、SMD0.67(95%CI;0.35~1.00)だった。 データのばらつきもそれほどではなく、 わりと信頼度が高い結論だと言える。

 

  • 高地で過ごす期間は3週間ぐらいが良いっぽいが、 データのばらつきが大きいので、ここら辺は謎。おそらくもうちょい短くても大丈夫じゃないかと思われる。

 

  • 高地トレーニングを行う場所は、標高は2,500m程度のときに最も効果が高まるかもしれない。

 


みたいになります。 まぁ高地トレーニングの期間と場所については、サブグループ解析から得られた結果なので、 今後の研究によっては数字が覆る可能性は高め。 一方で「高地トレーニングは、ヘモグロビンレベルとVO2maxの向上に良い!」って結論はわりと強固なので、 個人的には「高地で走ってみるかなぁ……」みたいな気になりました。 普段トレイルランニングをするのは、標高1000メートルも行かないような場所なので、 もっと高いとこでやってみるか、という。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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