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動物の肉に多い「飽和脂肪」って、本当に太りやすくて健康にも悪いの?

 


 

動物の脂肪は善か悪か?」って議論が昔からありますな。ざっくりまとめると、

 

  • 動物にふくまれる飽和脂肪酸は、肥満や心臓病の原因なのだ!
  • いや、飽和脂肪酸は太らないし、逆に体に良いからガンガン食べるべきなのだ!

 

みたいな派閥があるわけです。前者は1950年代からある定番の考え方だし、後者は超低糖質ダイエットや肉食ダイエット界隈でよく耳にするフレーズじゃないでしょうか。

 

それでは、飽和脂肪は実際にはどんなもんなのかってことで、近ごろ参考になるデータが2件出てましたんで、内容をチェックしておきましょう。

 

 

脂肪の疑問1:飽和脂肪酸は、魚とかの脂肪に比べて太りやすいの?

飽和脂肪酸でよくある考え方として、

 

  1. 飽和脂肪酸は、食べた物を消化するときに使われるカロリー(いわゆる食事誘発性熱産生)が少ない!

  2. 飽和脂肪酸は満腹感が少ないから、その後の食欲をブーストさせてしまう!

 

みたいなものがあります。動物の脂肪は、魚の脂肪とかよりもカロリーが消費されにくいし、食欲も増えちゃうからダイエットの大敵だ!みたいな考え方っすね。

 

で、この問題について、近ごろモナーシュ大学のチームが、 よくデザインされた研究(R)をやってくれておりました。

 

これは過体重の男性13人を対象にしたもので、みんなに3回の食事をしてもらったんだそうな。すべての食事はカロリーが同じで(~900kcal)、脂肪の割合も多め(総カロリーの~45%)。そのうちの1食はクリーム、粉乳、ココナッツクリームがメインで(短鎖および中鎖飽和脂肪酸が多い)、2食目はパームオレインと牛脂がメイン(長鎖飽和脂肪が多い)使用した。3食目はアボカド、オリーブ油、オリーブがメインで、最も世間的には“健康的”と呼ばれる内容になってます。

 

その上で、その上で、みんなの代謝率や空腹感をチェックして見たところ、

 

  • どの脂肪でも、食事誘発性熱産生に差はない!(3食とも、6時間にわたって192.6~204.2kJの値を示していて、これはだいたい50kcalに相当する)。

 

  • 食後の空腹感および満腹感の評価についても、3つの脂肪には差がなかった!

 

って結果だったそうです。俗に“不健康”と呼ばれがちな脂肪でも、“健康”っぽい脂肪とカロリーの使われ方は変わらないし、目立って食欲がブーストするってこともないわけですな。

 

まとめると、飽和脂肪酸が特に太りやすい(あるいは逆に痩せやすい)ってことはないっぽい。この結論は、過去の類似研究とも整合性がありまして、おそらく正しいんでしょう。

 

 

 

脂肪の疑問2:飽和脂肪は脂肪が増えやすくて筋肉が減りやすい?

動物の脂肪は、植物性の脂肪よりも体脂肪が増えやすく、逆に筋肉を減らす働きがあるのでは?ってのも、わりとよく耳にする説だったりします。これが事実なら、飽和脂肪酸はかなり体に悪いってことになりますね。

 

そこで、ウプサラ大学などによる最近の研究(R)は、以下のような実験を行ってくれてます。

 

  1. 健康な男女61人を対象に、多価不飽和脂肪酸(主にヒマワリ油のリノール酸)を多く含むマフィンと、飽和脂肪酸(主にパーム油のパルミチン酸)を多く含むマフィンを毎日8週間ほど続けて食べるように指示。

  2. さらに13,849人の観察データを使って、多価不飽和脂肪の摂取量、飽和脂肪の摂取量と筋肉量の関係を調べた。

 

これにより、脂肪の種類が、体型にどんな影響を与えられるかをチェックできるわけですね。

 

でもって、結果はこんなふうになりました。

 

  • 異なる脂肪を摂取しても、2つのグループで体重の変化には違いがなかった。MRIのテストでも、両グループとも筋肉の体積は同じぐらいだった(正しくは除脂肪組織だけど、まぁ似たようなものということで)。

 

  • 観察データの分析でも、飽和脂肪と多価不飽和脂肪によって筋肉量の違いは確認されなかった。

 

そんなわけで、こちらのデータにおいても、別に飽和脂肪だからといって体脂肪が増えやすいわけでもないし、筋肉が減りやすくなるわけでもないって感じですね。

 

 

なんで飽和脂肪は悪者になりやすいのか?

ここまでの話をざっくりまとめると、

 

  • 飽和脂肪酸は、否定派が言うほど悪くないし、肯定派が言うほど良くもない

 

ってことになるでしょう。飽和脂肪酸が太りやすくて体に悪いわけでもないが、かといって健康や体型の改善にめっちゃ役立つってこともないという。

 

では、なんで健康の世界で飽和脂肪酸のイメージが悪いのかと言えば、

 

  • 飽和脂肪を多く含む食品は、揚げ物や、クリームやバターを大量に使ったデザートなどであるケースが多いため、どうしても体には良くない。

 

  • 逆に飽和脂肪酸が少ない食品は、野菜だったり、魚介類だったり、鶏肉ベースの料理だったりするので、体に良いものが多くなる。

 

といった側面があるからでしょう。飽和脂肪酸が多い食品はジャンクフードが多いので栄養価が低いし、どうしても食べ過ぎを加速させる傾向がありますからね。

 

まぁ、もちろん不飽和脂肪と比べれば、飽和脂肪が心血管系の病気リスクを高めやすい傾向はあるんで、いまの時点で肝機能、インスリン感受性、心臓病リスクに関する数値が悪いな人は、飽和脂肪酸を控える意味はあるかもしれません。ただし、そうでない人は、健康的な食品から摂取する限り、飽和脂肪酸に脅えまくっても意味がなさそうだと言えましょう。

 

ちなみに、いろんな食事のガイドラインを見ていると、飽和脂肪酸の摂取量は、だいたい以下のようになるものと思われます。

 

  • 1日の摂取カロリーが1日2,000~2,500kcalの場合は、飽和脂肪酸の摂取量は1日あたり22~28gぐらいがよさげ。

 

  • この数値は、だいたい1日の総摂取カロリーの10%を飽和脂肪酸にしていれば、特になんの問題も起きないだろうと考えられる。

 

以上をふまえた上で、ぜひ健康的な飽和脂肪酸を摂取してくださいませー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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