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みんなも無意識に食べ過ぎてる?ワンシンク博士の不正スープ実験を再検証

 


 

食べた量がわからないと、つい食べ過ぎてしまう!」って考え方があるんですよ。

 

例えば、映画を観ながらポップコーンを食べていると、どれだけ食べたか気づきづらいので、気がついたら大きなバケツを全部食べてしまった……みたいな状況が典型ですね。これは直感的にも納得しやすい心理じゃないでしょうか。

 

で、この現象を始めて実証した(と言われる)のが2005年の実験(R)で、実験の内容をざっくりまとめると、

 

  1. 参加者を2つのグループに分け、一方のグループには、普通のボウルでスープを飲んでもらい、スープがなくなりそうになったらサーバーが注ぎ直す(つまり、自分がどれぐらいスープを飲んだかがわかる)。


  2. もう一方のグループには、研究チームが作った「自動スープ注ぎ直しシステム」を使い、参加者がいくらスープを飲んでも、ボウル内の液体の量が一定を保つようにした(つまり、自分がどれぐらいスープを飲んだかはわからない)。


  3. その上で、2つのグループにスープを飲む量の違いが出たかをチェックする。

 

みたいになります。「自動スープ注ぎ直しシステム」のイメージがつかめない方は、以下の動画をご覧ください。

 

 

でもって、この実験がどんな結果だったかと言いますと、

 

  • 自分が食べた量が視覚的にわからないグループは、自分の食べた量がわかるグループと比べて平均で73%も多い量のスープを飲んだ。

 

  • この違いは、カロリーに換算して113kcal (267.9 vs. 154.9 kcal)も異なっていたが、参加者の満腹度には違いが見られなかった。

 

って感じだったそうです。なかなかの違いですなぁ。

 

この結果は当時めっちゃ話題になりまして、2007年にイグ・ノーベル賞を受賞。一般紙でも大きく取り上げられて、ポップサイコロジー系の本でもよく取り上げられていたのを記憶しております。

 

筆頭著者は元コーネル大学教授のブライアン・ワンシンク先生で、日本では「そのひとくちがブタのもと」などの著作で有名ですね。私も「おもしろい博士がいるもんだなー」と思って、論文をよく読んでおりました。

 

が、好事魔多しと申しますか、それから数年後にワンシンク先生の不正が発覚。データに嘘の報告があったり、問題のある統計手法を使っていたり(P値ハッキングとか)、研究結果を適切に保存していなかったりといった問題がどんどん出てきまして、実に13本もの論文が撤回されたんですな。

 

当然、ワンシンク先生はコーネル大学を辞職せざるを得なくなり、スター教授の転落劇として、当時は話題になったもんです。撤回された論文には上述のスープ研究も含まれてまして、その後、ワンシンク論文を話題にする者はいなくなったのでありました。

 

……と、ここまでが長い前書きでして、新たな研究(R)では「疑惑のスープ実験が本当か確かめてみたぞ!」って内容になってて面白かったです。確かにワンシンク先生の研究には疑わしいところが多いものの、「食べる量がわからないと食べ過ぎる」って現象そのものは存在してそうですもんね。

 

追試のために、研究チームは元論文よりも多くのサンプル(464人)を対象に、元のスープ実験の複製にチャレンジしております。実験の大枠は同じなので、結果だけをピックアップすると、だいたいこんな感じです。

 

  • 「食べる量がわからないと食べ過ぎる」現象は、再現実験でも確認された。つまり、「自動スープ注ぎ直しシステム」を使った参加者は、食べた量がわかった参加者よりも多く食べた。ただし、主な効果は最初に観察されたものよりもだいぶ小さかった。

 

  • おもしろいもんで、自分の食事の量がわかった参加者は、「自動スープ注ぎ直しシステム」を使った参加者よりも、「より大量にスープを飲んだに違いない」と予測した。

 

  • 食後の空腹感については、どちらのグループにも有意差はなかった。

 

ということで、めでたく元の実験の結果が再現されたみたいっすね。よかったよかった。

 

ちなみに、この研究によると、人間ってのは“1人前”として提供された皿を食べ終わった時点で、「もう食事は終わったのだ!」と認識する傾向があるらしい。そう考えると、自分が食べる量をコントロールしたい時は、シンプルに“1人前”の量を減らせば良いってことになるでしょうな。

 

さらに余談ですが、ワンシンク博士の有名な実験は他にもありまして、

 

  • アイスクリームのサーバーに、大きさが違うスプーンやボウルを提供して行った実験。大きいスプーンやボウルを使った参加者は、小さいものを使った参加者よりもかなり多くのアイスクリームを消費した。

 

  • 映画館で古いポップコーンと新鮮なポップコーンを提供し、参加者の食べる量を比較した実験。すると、古いポップコーンであっても、より大きな容器で食べた場合は、小さな容器で提供された参加者に比べて、はるかに多くの量を食べた。

 

  • メニューに「健康に良い」とされる名前を付けることで、消費者のチョイスが変わるかどうかを調べた実験。たとえば、サラダの名前を「フィットネスサラダ」など健康的なイメージに変更すると、消費者はそのサラダをより選びやすくなり、健康だと感じやすくなった。

 

といったあたりも、できれば追試で確かめて欲しいなぁと思った次第です。個人的には、どの効果もありそうな気がするんですけどね。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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