微生物と上手くやっていこう「パレオダイエットってなに?2015年版 #5」
「パレオダイエットってなに?」シリーズの5回目。今回はパレオダイエットには欠かせない微生物の話です。
微生物は人類最古の友人
言うまでもなく、ヒトの体は微生物のかたまり。腸内細菌はもちろんのこと、肌や内臓といったあらゆるエリアに住み着いて、激しく複雑なエコシステムを作り上げております(1)。
これは近年になって研究が進んだ分野なんで、エコシステムの全容はまったくわかってないんですが、人類が微生物たちと協同で免疫システムを作ってきたのは間違いないところ(2,3)。また、この協同作業の歴史は遺伝子にも書き込まれていまして(4,5)、もはやヒトは微生物の助けがないと正常に機能しないことがわかっております。
それなのに現代人は、昔ながらの仲間をガンガン殺菌しちゃうし、まともにエサ(食物繊維)もあたえないしで、微生物たちから見放されちゃった結果、さまざまな病気が引き起こされているわけですね。
この仮説は2003年ごろから提唱されたもので、一般に「旧友仮説」などと呼びます(2,3)。「アレルギーの原因は殺菌のし過ぎが原因だ!」と主張する「衛生仮説」の考え方を、さらに拡張したものです。
で、微生物との不仲が原因で起きる不調としては、
などが言われております。腸内細菌のエキスパートであるグラハム・ロック博士いわく、
先進国における現代病の増加は、免疫システムが上手く働かないせいで起きている。(中略)
この不調は、人類の進化の過程で免疫システムを作り上げてきた微生物(我々の旧友だ)に日常的に触れていないのが原因だ。旧友たちのいくつかは、すでに現代の都市環境から完全に駆除されている。
とのこと(6)。微生物の乱れは、リーキーガットを経由して体内の慢性炎症を引き起こすので、結果として万病のもとになっちゃうんですなぁ。
善玉悪玉ではなく多様性が大事
いっぽうで、狩猟採集民たちはどうかと言いますと、だいたい2010年ごろから研究が進み始めてまして(7)、現代人とはくらべものにならないほど腸内細菌の種類が多いことがわかっております。また、人糞の化石をもとにおよそ8,000年前の人類の腸内細菌を調べた研究(8)でも、やはり大昔の人類も現代人とくらべてまったく細菌の種類が変わっていたとか。
で、さらに有名なのは、タンザニアのハッツァ族と都市生活者の腸内をくらべた2014年のネイチャー論文(9)。おもしろいことに、ハッツァ族のみなさんの腸内は、
- 食物繊維を分解する細菌が先進国の人間にくらべてやたら多い
- 悪玉菌としてあつかわれるトレポネーマ属の細菌が多い
- 逆に善玉と呼ばれるビフィズス菌は少なかった
って感じだったとか。こうしてみると、どの菌が悪玉か善玉かを考えるよりも、とにかくさまざまな微生物に身をさらすのが大事なのかもですね。
微生物と上手くやっていくためのガイドライン
そんなわけで、以上の話をまとめますと、
- 現代では旧友である微生物と触れ合う機会が少なすぎる
- 逆に衛生グッズや抗生物質など、旧友を駆除するアイテムが多すぎる
といった感じ。その対策のガイドラインを具体的に申しますと、
- とにかく発酵食品をとる。伝統的な食生活では発酵食品が大きな役割を果たしている。ぬか漬け、納豆、キムチ、ザワークラウト、ケフィアなどがオススメ
- チーズ・ヨーグルトは無殺菌のみ。腸内細菌の権威であるティム・スペクター博士によれば、殺菌処理をほどこされたチーズやヨーグルトはジャンクフードと同じ。ただし、無殺菌のチーズは腸内細菌の多様性をアップさせる最強のアイテムになる。日本の法律では殺菌したミルクしか使えないので、AOCチーズのような海外製を食べるのが吉。
- シンバイオティクスを心がける。
- 新鮮で必要以上に洗っていない野菜を食べる(泥付き野菜とか)。
- 積極的に庭いじりやガーデニングをする。山や海に出かける。
- 抗菌グッズや殺菌グッズは使わない(抗菌スプレーとかファブリーズとか)。
- よほどのことがない限り抗生物質は使わない。イブプロフェンのような鎮痛薬も避ける。
- ペットを飼うか、動物と触れ合う機会を作る。
- アレルギーやお通じの不調がない人と積極的に付き合う(細菌はヒトからヒトへ簡単に移動する)。
- つねに部屋の換気はよくしておく。
- プロバイオティクスのサプリは、臨床試験が行われたハイクオリティなものだけを使う。
といったところ。なにせ微生物は最古の仲間ですんで、できるだけいたわってやってくださいませ。