硬水って体にいいのか悪いのか
硬水に関するご質問をいただきました。
私はフランス・リヨン在住なのですが、こちらの水は硬水です。
鈴木さんも昨年こちらにいらしたと伺いまして、飲まれた機会もあったかと存じます。軟水で育った日本人が硬水を飲み続けることで、何かネガティブな影響はあるのでしょうか。
水道管が石灰で詰まるたびに不安を覚え、軟水を買いに走っている次第です。「水の硬度と健康」についてご意見を伺えましたら、大変うれしく存じます。
とのこと。そういえばヨーロッパの水って結構ちがいますものねぇ。
で、いちおう軽くおさらいしておくと、軟水と硬水の違いはミネラルの量です。おもにカルシウムとマグネシウムが多いほど硬水と呼ばれますが、ほかにもストロンチウムや鉄分、亜鉛なんかが入ってるケースも多め。個人的には硬水の味は好きなんですが、果たしてネガティブな影響についてはどんなもんでしょうか?
硬水と心疾患
ってことで、硬水と健康の関係をざっと見ていきますけど、まず結論から言っちゃうと「ややグレーよりのシロ」ぐらいのイメージです。というのも、いまのとこ「硬水は健康にいい!」って専門家がいれば「硬水よくない!」って専門家もいて、統一見解がまったく出てないもんですから。
たとえば、1970〜80年代の観察研究だと「硬水で心疾患のリスクが上がった!(ただし相関は弱い)」ってデータ(1,2)がちらほら出たかと思えば、いっぽうで「まったく問題なし!」って報告も多かったりとか(3,4)。
ところが、1990年代に入ると、タバコや収入などの要素を調整しても「硬水で心疾患リスクはあがるかも!」って話が出てきたり(5)、「1リットルあたり170mg以上のカルシウムがヤバいかも!」といったデータ(6)まで出てきたり。まぁ1リットルあたり170mg以上のカルシウムってかなりの硬水になっちゃうんで、一般的な硬水を飲んでる人なら大した心配はなさそうですが。
とかいってたら、今度は逆に「硬水のマグネシウムが心筋梗塞を防ぐんじゃない?」なんて話が2つほど出た(7,8)かと思えば、「いや、水のミネラルは心疾患に関係なくない?」といった主張(9)もあったりとか。いやー、難しい。
そもそも飲料水って生活の根幹にかかわるポイントなんで、どうしても他の要素と切り離して考えられないんですよね。なのでいかに統計をコントロールしても、不確定なところが残りまくっちゃうんですな。
硬水と癌
続いて癌について見てみますが、こちらもまだまだ謎。いちおう1998年に「硬水で胃がんリスクがあがるかも」ってレポート(10)は出てるものの、他方では「マグネシウムが豊富な水のおかげで胃がんの予防になるかも!」なんて報告も(11)。胃がん予防にはかなりのマグネシウムを取らなきゃいけないみたいですが、やっぱり真逆の結論なんですよね。
硬水とアトピー
「硬水でアトピーが悪化する!」みたいな説もよく聞きまして、実際に日本とイギリスの調査ではミネラルが多い地域に住む子供ほど発症率が高かったりはします(12)。他にも、硬水を飲む子どもは湿疹が多いってデータはありまして(13,14)、ちょっと心配になる感じ。
ただしいっぽうでは2008年にもうちょい精度が高い実験(15)が行われてまして、普段の飲料水を軟水にしてみても子どもの湿疹は特に改善しなかったとのこと。うーん、なにがなにやら。
硬水、どうするか
ってことで軽く紹介してみましたが、これはまだごく一部でして、結果が食い違いあってるデータは山ほどあります。大変もうしわけないながら、いまのところ硬水のいい悪いを断言できる人はいないんじゃないでしょうか。
以上のデータをふまえたうえで、2003年に、WHO先生「硬水がヒトの健康に悪影響をもたらすという、説得力のある証拠は存在していない」って見解(16)を出してまして、以降も特に状況は変わってない感じです。まぁ基本的には心配しなくていいんじゃないでしょうか。
個人的にも、アレルギー体質の子どもは注意したほうがいいのかなーってぐらいの感想でして、そこまで心配しなくてもよさそうな印象を持っております。参考になれば幸いです。