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WHO「人工甘味料はヤバい!危険だ!」って報告を、どれぐらい深刻にとらえるべきか問題

 



こんなご質問をいただきました。

 

WHOが人工甘味料を止めるように言ったというニュースがあったようです。鈴木さんは、そこまで人工甘味料に反対していないイメージですが、どのようにお考えでしょうか。

 

確かに、近ごろWHOが人工甘味料の新たなガイドラインを発表してまして、「『ノンシュガー』『ゼロカロリー』『人工甘味料』は減量に役立たず糖尿病リスクを高めるというWHOの報告」みたいなニュースになってますね。

 

 

WHOはどんな調査をしたの?

この話はWHOが行った調査(R)がベースで、人工甘味料を調べた283件のデータをチェックして、大きな結論を出したものになります。その結論をざっくりいうと、

 

  • どんな人工甘味料も、長期的には体重を減らすのに役立たない!
  • 30年の追跡では、人工甘味料が多い人は糖尿病や心疾患リスクが上がる!

 

みたいな感じです。人工甘味料の安全性は、昔からかなりチェックされてきたので、これはなかなか衝撃の結果ですね。

 

 

 

WHOの報告をもうちょいくわしく見てみよう

で、この調査をもとに「人工甘味料は毒!絶対に摂るな!」って結論になるかといえば、そんなことはないのが難しいところです。というのも、ここにはいくつかのポイントがありまして、

 

  1. このガイドラインは、あくまで体重の管理と病気の予防に人工甘味料が役立つかを調べたものなので、人工甘味料の安全性は評価されていない。事実、WHOも「人工甘味料をやめよう」と言ってるわけでもない。



  2. このガイドラインは、大半が観察研究をベースにしており、いずれも人工甘味料では体重の減少も増加も起きないことを示している(6ヶ月から18ヶ月の期間の場合)。ちなみに、エビデンスの質は、どの病気との関係においても「低い」と評価された。

    他方で、短期間の場合であれば、人工甘味料で少し体重が減ることを示す証拠はわりと多く存在している。



  3. この調査では、砂糖入りの食品を人工甘味料入りの食品に置き換えた場合の影響はチェックしておらず、人工甘味料の摂取だけを問題にしている。

    他方で、子どもが砂糖入りのソフトドリンクを人工甘味料入りのソフトドリンクに置き換えた場合、体重の増加を防ぐのに役立つことを示す質の高いランダム化比較試験が存在している。



  4. この勧告は「条件付き」であり、参加者の健康状態によって、結論が左右されている可能性は否定していない。なので、このガイドラインを見ても、一般人が日常的に人工甘味料を使うべきか否かをジャッジする材料としては使いづらい

 

といったあたりが判断を難しくしております。どの結論も、研究の質が低い長期のデータを使って、間接的に推測しているだけなので、はっきりしたことが言いづらいんですよね。

 

 

そのため、よくこのブログで言っている「人工甘味料が体に悪いんじゃなくて、体を壊しそうなライフスタイルの人が人工甘味料をよく使うだけでは?」って可能性はどこまでもつきまとうのが難しいところ。当然ながら、糖尿になりそうな人ほど人工甘味料を選ぶでしょうから、観察だけだと人工甘味料に不利な結果が出やすいのは間違いないんですよ。

 

 

 

個人的には人工甘味料は使わないが、別に心配もしていない

ただし、一方では、WHOが今回のガイドラインを出したのも理解できるとこではあります。もし今後の調査で「やっぱ人工甘味料は健康リスクがあります!」って話になったらヤバいので、WHOとしては、できるだけ安全策を取りたいはずですからねぇ。あとから文句を言われないように、あくまで「条件付き」ってことにしつつ勧告を出しておいたほうがいいって判断じゃないかなーと。

 

 

つまり、今回のガイドラインをざっくりまとめると、

 

  • 人工甘味料をずっと使っても、体重は増えも減りもしない(これはおそらく正しい気がする)
  • 人工甘味料をずっと使うと、健康を壊す可能性がある(これはちょっと怪しい気がする)

 

みたいにな感じです。ご覧のとおり、結論としてはだいぶあいまいなんで、WHOも「各国の食事の事情とかをふまえつついろいろ考えてね!」と言ってたりします。人工甘味料の摂取は止めなくていいけど、政府や医療の専門家が国民の健康を考える参考にしてくださいねーぐらいのニュアンス……ってのが正しいところじゃないでしょうか。

 

 

なので、以上の話をふまえて私の態度は、以下のようになります。

 

 

  • とはいえ、JECFA、米国FDA、EFSAといった名だたる機関が人工甘味料を広く研究し、安全性を確かめているのも事実ではある。

 

  • 今回のWHOの調査は、おそらく人工甘味料の危険性が実態よりも大きく出ている可能性が高いと思われる。その点で、個人的にはあんま心配していない

 

  • まぁ、「砂糖の代わりに人工甘味料を使うのではなく、果物や野菜の甘みで満足せよ!」ってのは、どの機関も一致している見解なので、最終的にはそこを目指すのがよいのは間違いない。その間に、たまの楽しみとして人工甘味料を使うぐらいなら、なんの問題もないでしょう。

 

私自身は、今後もそんなに人工甘味料を使うつもりはないものの、今回のWHO勧告を見てビビる必要もないだろうとは思います。それでも怖くなったときは、2〜3週間ぐらい砂糖や人口甘味料を控えて味覚をリセットし、イチゴやニンジンなどの自然な甘さを味わえるようにするといいんじゃないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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